1986/7
No.13
1. 都市環境改善に関する作業委員会(米国) 2. 低周波音の睡眠影響 3. 建築音響研究室 4. 聴力検査室の遮音性能について

5. 中国における騒音事情

       <技術報告>
 聴力検査室の遮音性能について

技術管理部機構設計課 小 幡  潔

 聴力検査室の遮音性能についての基本的な考え方を、小型聴力検査室を例にとって上げて述べることにする。

1. 聴力検査室の必要性
 聴力測定を行なう部屋の騒音が大きいと的確な聴力検査が出来ないことから、聴力測定に影響を及ぼさない程度の騒音の許容値として、表1の値がANSI S3.1に定められている。

表 1 最大許容音圧レベル(dB)

 表1の最大許容音圧レベルに聴力検査の遮音量を加えたものが、聴力検査室周囲の許容騒音となる。
 従って周囲の騒音の大きな場所で聴力検査室を使用する場合は遮音性能の高い聴力検査室が必要になる。
 実際に聴力検査室を設置する時は、設置しようとする場所の騒音を測定し、各周波数帯域ごとにどの程度遮音する必要があるかを把握し、必要となる遮音量に見合った聴力検査室を選定しなければならない。

2. 聴力検査室の構造
 聴力検査を行う病院などの室内騒音がNC35程度であると想定し、また、オクターブハンドレベルで受話器装着検査をするとすると、聴力検査室としての所要遮音量は表2の値となる。

表 2

 この遮音量を得るための聴力検査室としては、小型で組立てがしやすく、また低価格であること等を考慮し、単一壁構造とした。又、換気も自然換気を標準としたが、強制換気装置も取付け可能な構造である。

 (1)壁構造
 壁構造は図1に示す様に、遮音層として鋼板(2mm)を使用し、吸音材には多少の遮音効果も期待出来るロックウール(40kg/m3)を使用した。内装はハンチングメタルとし、ロックウールの吸音性能を損なわないために、開孔率が30%程度のものを選定した。

図 1

 壁構造の遮音性能を推定する目安として透過損失を質量則で計算すると表3の値となる。 

表 3

 垂直入射波に対する透過損失
 
 ランダム入射波に対する透過損失
 
f
:周波数(Hz)
M
:面密度(kg/m2
 透過損失の他に、吸音力、聴力の検査位置が聴力検査室の中央であることによる壁面からの距離減衰等を考慮すれば所要遮音量を満足すると判断した。
 (2)消音換気ダクト  壁の遮音性能と同程度の減音量を有する換気ダクトとするため、図2の様に流路を長くとり、又直角曲がり部による減音も期待した。

図 2
 
図 3
 減音量はダクト壁の透過を無視すれば、式(3)、図4、図5により表4の値と予想され、十分であると考えられる。
図 4 直角曲がりによる減音量(内貼なし)
吸音材内貼直角曲がりのときは、この値に吸音材内貼直感の減量を加える
 
図 5 開口端反射による減衰(ASHRAE)
f : 周波数(Hz), l=lxly(m), 円断面では直径D
lxly : 長方形断面の辺長(m)
 
表 4
  
P:断面周囲長(m)
S:断面積(m2)
::内貼部分の長さ(m)
K::内貼材の吸音率による定数で図3から求める
 (3)遮音窓
 壁の遮音性能と同等の遮音性能を得るためには、質量則によればガラスの厚さを6.3mm以上としなければならない。しかし、外観上及び使用上から壁面に凹凸を付けることは好ましくないため、図6の様に二重ガラス構造とした。式(4)によると二重壁の共鳴透過周波数がf0=100(Hz)となり125(Hz)帯域に於ける遮音性能が悪くなる恐れがあるが、実際に試作した上で共鳴透過が認められた場合には、その影響を避けるために空気層を大きくし、f0を低くする必要がある。
図 6
m
:材料の面密度 (kg/m2)
d
:空気層の厚さ (m)
ρ
:空気の密度  (kg/m3)
c
:音 速     (m/s)
 (4)防振
 聴力検査室を設置する建物の振動が聴力検査室の内部へ伝わるのを防止するため、図7の様に聴力検査室の底部四隅に防振ゴムを取付けた。
 その時の防振対象の振動数と振動伝達損失との関係を表5に示す。
図 7
表 5
 なお、振動は鉛直方向のみを考え、聴力検査室の質量260kgが四隅の防振ゴムに均等にかかるものとして算出した。

 
 
 
Ks
:静的ばね定数(N/m)
Kd
:動的ばね定数(N/m)
M
:聴力検査室の質量(kg)
ζ
:減衰比
f
:防振対象の振動数(Hz)

2. 遮音性能の評価
 基本設計をふまえて試作した聴力検査室を評価する前に、遮音性能に悪影響を及ぼす隙間による音の透過を防ぐことが重要である。
 評価順序としては、まず最初に音漏れ箇所を見つけ、これを修正してから遮音性能を測定することにした。

(1)音響インテンシティ測定システムによる方法
 音漏れ箇所を発見する方法として図8に概略を示す音響インテンシティ測定システムを適用した。

図 8

 構成は、聴力検査室の室内にスピーカを置き、帯域雑音を発生させ、透過音の強弱をインテンシティマイクで測定する。測定結果をコンピュータで分析し、プリンタで図示する。図9は試作した聴力検査室の透過音を分析した例であるが、500Hz帯域においてスイッチパネル部からの透過音が大きいことが判明した。
 同様に、全周波数の測定を行なうことによって音漏れ箇所を見つけ、これを修正した。

(2)残響室における遮音測定
 遮音性能の測定は、JIS A1417"建築物の現場における音圧レベル差の測定方法"に準じて残響室内で行なった。
 測定に使用した残響室(容積513m2)内での聴力検査室周囲の音圧レベルのばらつきは、全ての測定周波数において3dB以内であった。
 測定は聴力検査室周囲の音圧を90dB以上とし、聴力検査室中央での遮音性能を表6に示す。なお、測定の読み取り誤差を少なくするため、読み取りはコンピュータで行ない、各々の周波数において、サンプル数147個をパワー平均して音圧レベルを求めた。
 測定結果は、当初の目標である遮音量を十分満足出来る結果となった。

表 6
 
図 9
 
図 10 残響室

3. おわりに
 聴力検査室遮音性能を、小型聴力検査室を例にとって述べたが、重要なことは、遮音壁、換気ダクト、開閉部接合部、その他特殊加工部分の遮音性能を均一にすることであると考えられる。

 参考文献
○騒音・振動対策ハンドブック
 日本音響材料協会編
○騒音の防止(テクニカルノート)                
 リオン株式会社
○JIS A1417"建築物の現場における音圧レベル差の測定方法"
○ANSI S3.1 "Criteria for Permissible Ambient Noise during Audiometric Testing"

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