2011/10
No.114
1. 巻頭言 2. inter-noise 2011 3. 第14回エレクトレット国際会議 4. メトロノーム
  5. 補聴器 リオネットロゼ II

    <会議報告>
 第14回エレクトレット国際会議


圧電物性デバイス研究室  児 玉 秀 和

はじめに
 8月27日より31日にかけて、フランス・モンペリエで14th International Symposium on Electrets (ISE 14)が開催された。ISEはエレクトレット(コロナ放電などにより蓄電した状態の有機および無機材料)、有機を中心とした圧電体、焦電体、強誘電体の物性およびアプリケーションをメイントピックスとしたIEEE協賛の学会で、第13回は2008年に古川猛夫先生(現 当所非常勤主任研究員)を委員長として東京で開催されている(本紙No.104, 2009/4)。

会場のモンペリエ大学医学部
(宿泊先より撮影)

会議概要
 開催地となったモンペリエはフランスの南部ラングドック地方に位置し、中世からの学園都市として知られている。13世紀にはヨーロッパで3番目の大学としてモンペリエ大学が設立され、医学部はヨーロッパ最古として知られている。宿泊先の窓からは医学部の校舎が見られた。本会議は、その医学部付属の植物園 (The botanical institute of the university of Montpellier)で行われた。この植物園は水道橋のあるペイルー公園や凱旋門にほど近い、旧市街の西側に位置する。運営委員は委員長Prof. Francois Henn (Physical Chemistry, Univ. Montpellier 2)、他10名で構成されていた。
 投稿論文数は合計92件で、口頭発表は17件、ポスター発表は75件だった。参加人数は150名、参加国数は30カ国に達した。最も参加人数が多い国は地元フランスで34名、日本は19名のドイツに次ぐ15名だった。


会場入口(上)に掲載されたISEポスター(下)

 

研究発表
 ISE 14では、K. Yamashita (Tokyo Medical and Dental Univ.) “Fundamentals and Applications of Bioceramic Electrets”, S. A. M. Tofail (Univ. Limerick, Ireland) “Piezoelectricity of Bone from a new Perspective”, M. Nakamura (Tokyo Medical and Dental Univ.) “Surface Electric Fields of Apatite Electret Promote Biological Responses”というように、骨やハイドロキシアパタイトといったバイオセラミックスのエレクトレットや圧電性に関する発表が見られた。この分野は深田栄一先生(当所顧問)がパイオニアとして知られており、セルロースやコラーゲンなどの生体高分子の圧電性について数多くの研究報告がなされたことで知られている1)。近年細胞レベルの生物研究が盛んに行われているが、生体組織の圧電性が再び注目されはじめたことが分かる。
 小林理研からは3件の発表を行った。多孔質ポリマーのエレクトレットは圧電セラミックスに相当する圧電歪み定数(d 定数)を示すことから新たな有機圧電材料として注目されている。この材料の圧電性および弾性を、圧電共鳴法と非線形誘電率により求め、 H. Kodama et al., “A Series of Electromechanical Measurements for Determination of Piezoelectric, Dielectric and Elastic Tensor Components in Porous Polypropylene Electrets”として報告した。また、その材料を用いた音響デバイスの評価を、Y. Yasuno et al., “Electro-acoustic Transducers with Cellular Polymer Electrets”として報告した。T. Furukawa et al., “Piezoelectric, Pyroelectric and Ferroelectric Polymers as a Functional Soft Matter”では圧電性ポリマーを極性高分子、キラル高分子、コンポジットに分類し、それぞれの圧電性の発現機構に特徴があることを報告した。他に共同研究者として、K. Hagiwara (NHK Science and Technology Research Labs.), “Electret Charging Method Based on X-ray Photoionization for MEMS Applications”, T. Nakajima (Tokyo University of Science), “Ferroelectricity in Ultrathin Films of Polyvinylidene Fluoride and its Copolymer”を報告した。
 我々は3件の発表を通じ、これまでd 定数で議論されてきた多孔質ポリマーエレクトレットの圧電性について新たに圧電応力定数(e 定数)で議論した。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)をはじめとする極性高分子ではe 定数が残留分極 に比例し、最大値がおよそ200 mC/m2で自発分極 の2倍に相当することが報告されている2)。本学会では多孔質ポリマーエレクトレットについてe 定数が約240 C/m2でPVDFのおよそ1/1000に過ぎず、大きなd 定数は孔により厚み方向がとても柔らかいためであることを報告した。現在、孔に形成された分極とe 定数に関する定量的な検討を進めている。

口頭発表会場
(古川先生)

地中海沿岸にて
左より安野,深田,筆者,古川

 

おわりに
 ISE 14では多孔質ポリマーエレクトレットやPVDFなど極性高分子の圧電性とデバイスといった主要な分野に加え、バイオセラミックス・バイオポリマーの圧電性に関する研究が活性化しはじめていることを示した。先に述べたように生体高分子の圧電性は小林理研で先駆け的な研究がなされた。さらにPVDFの圧電性は1969年に河合平司先生により発見された3)。かつて小林理研で行われた圧電性高分子の先駆研究は再び世界から注目されている。

参考文献
1) E. Fukada and I. Yasuda, “On the Piezoelectric Effect of Bone”, J. Phys. Soc. Jpn. 12, pp. 1158-1162, (1957)
2) T. Furukawa, “Piezoelectricity and Pyroelectricity in Polymers”, IEEE Trans. Electr. Insul., 24, pp. 375-394, (1989)
3) H. Kawai, “The Piezoelectricity of Poly (Vinylidene-Fluoride)”, Jpn. J. Appl. Phys., pp. 975-976, (1969)

 

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