2009/4
No.104
1. 巻頭言 2. 第13回エレクトレット国際会議 3. 木魚・魚板 4. 第33回ピエゾサロン
  5. 8チャンネルデータレコーダ DA-40

    <会議報告>
 第13回エレクトレット国際会議

児 玉 秀 和,安 野 功 修, 伊 達 宗 宏,深 田 栄 一

1.はじめに
 昨年(平成20年)9月15日から17日の3日間、東京・お台場の日本科学未来館で、第13回エレクトレット国際会議(13th International Symposium on Electrets, ISE13)が開催された。ISEはエレクトレット(コロナ放電等により電荷を蓄積した絶縁材料)、有機圧電材料および有機強誘電材料をメイントピックスとした、IEEE共催の国際会議である。この会議は3年に一度開催され、2002年のオーストラリア(ISE11)、2005年のブラジル(ISE12)に続き、1978年の京都(ISE4)開催以来、30年ぶりに日本を開催地とした。エレクトレットに関する研究は1922年に江口元太郎によりわが国で最初に行われた。このような歴史的経緯からISEの日本開催は重要な意味を持つ。小林理研は本会議での研究発表の他、組織委員会に参加して本会議を後援した。

2.会議概要
 ISEは各国の研究者28名で国際的なScientific Advisory Committeeが構成されている。日本での開催にあたり古川猛夫教授(東京理科大学理学部)を委員長とする10名のOrganizing Committeeが組織された。小林理研からは深田栄一、安野功修、児玉秀和の3名が参加した。  図1は高橋芳行先生(ISE13事務局,東京理科大学)が作製したポスターである。左上段に雷神、右中段に風神が配置されている。なぜこれらの絵がポスターに用いられたかというと、圧電現象とは材料に応力(機械刺激)を加えるとその材料が電界(電気応答)を生じる現象であるので、風神と雷神は各々の現象に対応させたという。  ISE13では133報の論文が寄せられ160名が参加した。論文投稿数が最も多い国は日本(35)で、続いてドイツ(22)、フランス(15)、中国(14)、アメリカ(6)が続く。
図1 ISE13ポスター


 トピックスは、
 1. Charge injection, transport & trapping
 2. Thermally stimulated currents & dielectric relaxation
 3. Nanoscale measurements & materials
 4. Ferroelectric, piezoelectric & pyroelectric phenomena
 5. Ferroelectrets, photoelectrets & bioelectrets
 6. Soft actuators, sensors & organic electronics
 7. MEMS & other applications
の7項目であった。発表件数はこれらの中で圧電・焦電・強誘電性が26件と最も多く、エレクトレット材料(24)とソフトアクチュエータ・センサー、有機エレクトロニクス(24)が続いた。
 企業展示には国内外から企業13社と研究機関1団体が参加した。分野別に見てみると、材料系企業が8社と半数以上を占め、センサーなどデバイス系が3社と1団体、計測系が2社であった。
  小林理研からの発表は以下の通りである。Opening Lectureとして深田栄一“Past and Future of Electrets and Piezoelectric Polymers”、Poster Presentationとして児玉秀和,安野功修“Sound Shielding Control of Ear Protectors with PVDF”、“A Study on Stability of Piezoelectricity d33 in Porous Polymer Electrets”、安野功修“Heat-Resistance Evaluation of SiO2 Electret for Microphones”、山崎隆志(リオン),児玉秀和,安野功修“Electret Condenser Microphones for Hearing Aids”、大八木淳史(リオン),児玉秀和,安野功修“Electret Condenser Microphones for Measurement Instruments”の5報が発表された。
 ISEには2つの大きな賞がある。一つはエレクトレット研究の先駆的指導者Prof. B. Gross (Brazil) を記念するB. Gross Memorial Lectureである。エレクトレットの研究分野で多年顕著な業績を上げた科学者が毎回1人選ばれる。今回は、Prof. Jacques Lewiner (CSPCI, France) が選ばれ、会議の初めに“Charge and Polarization in Insulators, a Long History with a Promising Future”と題して講演を行った。またバンケットの席上で記念品が授与された。もう一つは、Dr. Das -Gupta (UK)を記念する若手研究者を表彰する賞である。閉会式の際、その発表が行われ、中嶋宇史氏(東京理科大学理学部)が選ばれた。

3.ISE13の独自性
 ISEは毎回異なる国で開催され、各国の特色が会議に反映される。ISE 13では日本国内の研究と産業の先端性をアピールすることに努めた。研究の面ではトピックスとして従来のエレクトレット、圧電性、強誘電性といった基礎物性分野に加えてナノテクノロジー、MEMS、など関連分野を新たに加えた。次に産業の面ではトピックスとしてアクチュエータ・センサー、有機エレクトロニクスおよびアプリケーションを加え、さらに会議規模としては大きめの企業展示ブースを設けた。そうすることにより、基礎研究から実用化・産業化への一貫性を参加者が意識できるよう配慮した(図2, 3)。
 招待講演者として国内からはMEMS分野から江刺正喜教授(東北大)“Application Oriented R&D of MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) by Open Collaboration”、有機エレクトロニクス分野から染谷隆夫教授(東大)“Printed Organic Nonvolatile Memory for Skin-like Large-area Interfaces”を、国外からはProf. G. Whiteseides (Harvard Univ., USA)“Physical-Organic Studies of Ionic Electrets: Mechanism of Formation, Molecular Design, and Applications”、Prof. S. V. Kalinin (Oak Ridge, USA) “Electromechanical Imaging of Biological Systems with Sub-10 nm Resolution”らを招いた。なお、招待講演者の選定には新規性や話題性の高いことはもとより、トピックスや出身国に人数の偏りがないことも配慮された。
 先に述べたように、基礎研究から実用化・産業化までの連続性を示すためにポスター発表ブースと企業展示ブースを同部屋とし、また研究発表テーマと企業の展示分野がリンクするようなレイアウトとプログラムとした。
図2 企業展示ブース(リオン)
図3 ポスター発表会場(手前)と企業展示ブース(奥)

4.研究者と企業との協力関係の重要性
 会議開催に向けた本格的な準備は前年末(平成19年)から始められた。まず参加者数と収支の予測が重要な課題となった。主な収入は会議参加費、企業からの団体参加費および寄付、機器展示参加費である。参加費は開催国による大きな変動を避けるためISE12に準じた。主な支出は会場費、バンケット費、バッグや論文集など配布物にかかる費用である。これらの費用を参加費だけで賄うことは無理であり、企業の参加費および寄付は必要不可欠となった。  最近、企業では国際学会に参加するためには、会議トピックスがその企業の開発にとっての強い必要性が認識されねばならない状況にある。従来のISEのように基礎研究を中心とした場合、関連企業が限られるだけでなく会議トピックスと製品開発との関連性がつかみにくく、多くの企業から参加を募ることは難しい。前述したように、ISE13ではナノやMEMSなど関連分野を新たなトピックスとし、機器展示を設けるなど、基礎研究から実用化・産業化へのロードマップを明確にするように努めた。それらの工夫によって多くの企業から参加の必要性が高いと判断されたと思われる。本会議の準備に当たり研究者と企業との協力関係の重要さを痛切に感じた。

5.ワークショップ
 3日間の会議を終了した後、18日は東京理科大学森戸記念館でワークショップを行った。ワークショップでは“Recent advances in electrets and organic electronics”をテーマとして4演題が講演された。ワークショップのテーマについても、当初は従来のISEテーマを意識し“Charge storage and transport in organic thin films and devices”としていたが、会議直前まで検討が繰り返され、最終的にはISE13の独自性を強めるために上記のテーマに変更した。4件の講演内容はいずれも、物性とエレクトロニクスのつながり、センサー、有機FETベースのメモリーというようにデバイス応用を強く意識したものであった。なお、このワークショップに引き続き、小林理研と国際会議の共催によるピエゾサロンが行われた。

6.会議運営を経験して(児玉)
 ここでは、会場準備および会議進行の経験について記述する。ISE13では会議準備の他にプログラム作成にも当たった。ISE12の参加人数とISE13への論文投稿件数から発表件数を予測することから始めた。しかし、実際は経済上の理由等で直前のキャンセルや、逆に新たな参加申し込みの希望があり、参加者数の予測は会議当日まで困難を極めた。口頭発表件数については、研究グループと出身国に偏りがないよう配慮した。
 口頭発表会場の運営は、会議の成否を決める重要な要素である。今回は、会議場を借りたため会場の準備・使用時間が限られた。会議初日は8:30より受付を開始した。開会が9:00であり僅か30分間の受付であったが、前日に受付を済ませていた参加者が多く、会議は予定通り開かれた。会場運営担当はPC、マイク、ライトの操作が任された。設備が整った会場であったが、ホールでの事前確認は開会1時間前に確認するにとどまった。PCによるプレゼンテーションでは、つなぎ替えのための時間を要することが多い。本会議ではプレゼンテーションファイルを事前にコピーしたノートPCを2台用意し、セレクターで交互に切り替えることで無駄な待ち時間を無くした(図4, 5)。
図4 口頭発表会場
(Prof. Jacques Lewinerの講演)
図5 第2口頭発表会場
図6 ISE13参加者の集合写真

 一般に、国際会議では同伴者のためのプログラムが用意されている。今回は周辺に観光地が多く、実際に同伴者の多くは個別に都心へと繰り出していた。館内では「Folding Paper(折り紙教室)」がボランティアの小野原さん達のご協力により行われた。初日は教室専用に部屋を借り切ったが参加者が少なく、2日目から部屋を使わずに廊下にテーブルを置いたところ、盛況となった(図7, 8)。
図7 折紙教室ポスター
図8 廊下で開かれた折紙教室

 会場準備の段階から会場周辺には適当なレストランはなく昼食が摂りにくいのではという懸念があった。そこで会議期間中は弁当を用意した。和食とサンドイッチの2種類を用意したが、参加者の多くが和食を選び、完売したのに対してサンドイッチが不人気だったことは意外であった。
 バンケットは八芳園(白金台)で行われた。事前に用意されたプログラムには開会・閉会の辞と授賞式は段取りが付いていたが、余興については大雑把なものであった。ステージ上には一台のグランドピアノが置かれていた。開会後、しばらくすると古川先生のカルテット演奏が始まり、続いてReimund Gerhardご夫妻、大賀先生ご夫妻…と演奏がとぎれることなく続いた(図9〜11)。次回ISE14は2011年にMontpellier (France)で開催される。
図9 古川教授ご夫妻のカルテット演奏
図10 Prof. Reimund Gerhardご夫妻の演奏
図11 大賀寿郎教授(芝浦工大)によるサイレントヴァイオリンと PVDFスピーカーシステムの演奏

−先頭へ戻る−