2011/10
No.114
1. 巻頭言 2. inter-noise 2011 3. 第14回エレクトレット国際会議 4. メトロノーム
  5. 補聴器 リオネットロゼ II

    <骨董品シリーズ その80>
 メトロノーム


理事長  山 下 充 康

 第一楽章;アレグロ・モデラート、第二楽章;アンダンテ・コン・モート・・・シューベルト作曲の未完成交響曲ではこのような用語で演奏テンポが指定されている。アレグロとかアンダンテはいずれも演奏の速さを表す音楽用語でイタリア語。日本語にすると「軽快に」とか「速めに」である。オーケストラが演奏する楽曲等を注意深く聴くとテンポやリズムが個々に僅かながら異なる。楽譜に記されたオタマジャクシを音にする際に指揮者や演奏家がそれなりの考え方で固有の楽曲を作り上げるのであろうが、演奏の速さに関してはオリジナルのものが再現されているかといえば、極めて怪しげであろう。

 楽譜の表記法に演奏時のテンポ[♪= 60(1分間に四分音符が60ヶの速さ)]というように速さが指定されている場合がある。とはいえ古来、音楽の演奏には演奏者の解釈が優先するものであって、演奏の速さには物理的に厳密な正確さが要求されるわけではない。

 ピアノでもバイオリンでも演奏の練習に当っては正しくリズムを刻むことを学ばねばならない。そこでメトロノームが登場する。メトロノームを初めて使ったのはかの大作曲家のベートーベンであったとのこと。

図1 音響科学博物館所蔵のメトロノーム

 

 ピアノが普及した時代にピアノの上に必ずといっていいほどメトロノームが置かれていたものである。時計のようなネジでオモリのついた振り子のアームを左右に振りたてて、コツコツと定間隔で拍子を刻む(図1)。本来は木製であったが合成樹脂製に変わってきた。基本的な機構は変わっていない。こんな三角の道具が演奏家たちにとっては不可欠な道具なのであろう。オモリの 置を上下させることのよって刻み音の速さを自由に変えることが出来る。極めてゆっくりの「ラルゴ」から小刻みに速い「プレスト」まで、速さが振り子のアームに彫刻されている(図2)が、あくまでもこれらの速さは目安でしかない。

図2 本体とアームに刻まれた目盛

 

 近年ではポケットに入るほどの大きさのデジタル・メトロノームが市販されている(図3)。コツコツと刻み音がすると同時に液晶画 に振り子のようなアームが表示される。刻み音だけではなくアームの動きのような視覚的信号が演奏家たちにとっては重要な情報なのであろう。楽器の音程チューニングに使用するa音(440Hz)の純音を放射するスイッチも付けられていて音叉替わりに使うことも出来る。刻み音とともに振動も発生し、楽器の大音響によって刻み音が聞こえなくなるのを補っている。電源用の電池が必要であるが便利な道具である。


図3 デジタルメトロノーム(上)と液晶画面(下)

 

 音響科学博物館に保存されているのはメトロノームの老舗である「WITTNER社」が市販したNo.813型という原型的な木製のメトロノーム(箱付)とプラスティックの日本製。今日では学校の音楽教室に置かれているのを眼にすることが出来る。

 木製の三角メトロノームでは前面の板を機械的に振動させて鋭い音を放射するよう作られている。前面の板の振動と放射音の音圧レベルを図4,5に示した。

図4 メトロノーム音の周波数特性

図5 メトロノーム音の指向性
(本体の1cm位置で計測)

 

−先頭へ戻る−