2011/10
No.114
1. 巻頭言 2. inter-noise 2011 3. 第14回エレクトレット国際会議 4. メトロノーム
  5. 補聴器 リオネットロゼ II

     <技術報告>
 補聴器 リオネットロゼ II

リオン株式会社 医療機器事業部 開発部  山 口 信 昭

1.はじめに
 リオネットロゼIIは、平成23年8月に発売した。シリーズのラインナップは、オーダーメイドタイプ(CIC、カナル)及びS(スリム)チューブ対応の耳かけ型補聴器の3機種である(図1)。Sチューブとは耳の形に沿うように成型された細いチューブで補聴器本体と耳せん部を連結する方式で、装着したときにチューブが目立たないことから普及している。
 本製品は、名前の示すとおりリオネットロゼのバージョンアップ製品であり、リオンオリジナルの補聴機能であるSSS(サウンド・スペクトル・シェイピング)機能を代表とした補聴機能に加えて、“より快適にご使用いただける”補聴器を追求している。

図1 リオネットロゼII

 

2.「快適な補聴器」
 補聴器は聞こえの低下を補うためのものであり、基本的には入力音に対して利得を与え音を増幅する(=音を大きくする)ことで所望の音を聞こえるようにする器械である。実際には音を大きくするだけでは、「大きな音がうるさい」、「補聴器を使用していると疲れる」などの問題があり、これは、聞きたくない音(=雑音)まで大きな音となり聞こえてしまうことが主な原因である。難聴者は、聞こえの低下により、聞きたい音が聞こえない反面、雑音も聞こえないために静かな環境で過ごしているともいえ、前述のようなうるささが非常に不快に感じる場合もあるため、「うるささの低減」により問題の解決を図れる。
 調整状態を瞬時に切り替えるためのメモリ切替スイッチが搭載されているものの、ご高齢のユーザーにとって、例えスイッチを押す操作であっても面倒くさいものと感じる場合もある。リオネットロゼIIは補聴器の扱いやすさを向上することも含めて、「快適な補聴器」になっている。

3.製品の主な特徴
(1) 周波数特性調整機能
 利得・最大出力の調整ともに、10チャンネルのデジタル調整が可能となっている。これらの細かな調整機能により、ユーザー個人の聴力への微妙な対応可能、及び耳かけ型補聴器で特に起きやすい音道による周波数特性に対しても調整しやすくなっている。特に、今回の耳かけ型補聴器では、音道管が、通常のフックとS(スリム)チューブの2種類が選択でき、それぞれが大きく異なる周波数特性を持つため、お客様の聴力に対して調整を行う際には非常に有効な機能となっている。
 また、大きな入力はあまり増幅しないためのCRC(圧縮比調整器)は4チャンネル、ニーポイント(圧縮をかけ始める入力音圧レベルを決定)は高/低域の2チャンネルを搭載している(図2)。

図2 補聴器DSPの処理ブロック図


(2) SSS(サウンド・スペクトル・シェイピング)機能
 難聴の症状として、小さな音が聞こえないことを示す最小可聴値の上昇や、大きな音に対して過敏に反応するようになるリクルートメント現象などがあり、これらに対する調整は、(1)の項で述べた利得、最大出力制限および圧縮機能により行われる。しかし、難聴の症状としてその他にも周波数分解能の劣化・時間分解能の劣化等の要因がある。周波数分解能が劣化に対するユーザーの訴えとしては、「音は聞こえるけど言葉はよく分からない」といった、音の存在は認識できても、音の特徴が捉えにくい状態になる。リオネットロゼシリーズでは、周波数分解能の劣化に対してSSS機能により聞こえやすくする処理を搭載している。
 これの、動作イメージは図3のようになり、周波数分解能が劣化すると細かな音の特徴が捉えられなくなるために、原音(図中白色)に対して周波数特性がなめされたような状態(図中水色)のように聞こえる。 そのため、音のピーク部分を強調し、前後の周波数のレベルを下げることで音の特徴を強調して聞きやすい音(図中黄色)とする処理を行っている。
(3) PNS(パルス・ノイズ・サプレッサー)機能

図3 SSS機能動作イメージ


 補聴器の騒音抑制機能といえば、NR(ノイズリダクション)機能が一般的であり、エアコンの運転音のような定常騒音を抑制する。本製品では、NR機能に加え、PNS機能も搭載している。PNS機能とは、例えば食器のカチャカチャ音のように、瞬間的に発生する衝撃音を抑制する機能である(図4)。

図4 PNS機能の動作例


 衝撃音は、瞬間的には大きな入力であり、非常に短い時間波形を持つことを特徴とする。補聴器により利得を与え増幅して聞いている難聴者には非常に不快に感じやすいこと、また、多くの場合において衝撃音は聞きたい音とはなりにくく出来ればなくしたいものである。
 リオネットロゼIIに搭載したPNS機能は、衝撃音を判 する際には1.5 kHz以上で、衝撃音抑制をする際には約1 kHz以上で動作するように設計している。これは、騒音抑制を目指すのはもちろんだが、補聴器の最も大事な機能である「言葉の聞き取り」への影響を小さくするための配慮である。その他にも、周囲音と衝撃音との比較も行っており、周囲音との間にある程度のレベル差がないとPNS機能は動作しないようになっている。周囲がうるさく衝撃音とのレベル差が小さい場合、人が衝撃音を特に不快に感じにくいこと、逆に静かな環境で少しの衝撃音を抑制してしまうと、(やはり)不快に感じない音情報までなくすことにつながるからである。
(4) SSS動作レベル
 (2)で説明したSSS機能ではあるが、先代のリオネットロゼでは、全ての入力に対して動作するため、人によっては大きな入力の場合にうるさく感じることがあり、SSS機能の使用を断念する場合もあった。リオネットロゼIIでは、大きな又は非常に小さな入力音レベルに対してSSS機能動作を無効化することによりこれを解決した。SSS機能の動作範囲を、40〜75 dBに限定し、これは一般的には会話帯域における会話音圧レベルである。元々、言葉の聞き取りが重要であること、大きめの音は特に強調しなくてもS/Nが充分に確保されている状態が多く聞き取りやすいことからこのような動作とした(図5)。

図5 SSS動作レベルイメージ


(5) その他機能
 リオネットロゼIIでは、補聴器の主要機能以外にも使いやすさを向上するための機能を搭載している。まず、リオネット補聴器の特徴であるおまかせ機能を搭載している。これは電池をどちら向きに入れても動作する機能である。補聴器で使用するボタン電池は非常に小さく極性が分かりにくいため、特にお年寄りにおいては補聴器の扱いを面倒と感じる一因を解決した。その他として、補聴器の電源を切ったときと同じプログラムメモリーから起動するスタートメモリー機能や、補聴器装用時のハウリングを抑えるためのスタート遅延時間機能に従来の10sだけでなく7sの設定を加えるなどの機能追加を行っている。
(6) 新規フェースプレートの開発(CIC)
 リオネットロゼIIから、新規設計したCICのフェースプレートを採用している。
 リオンで開発・生産している小型マイクEU-81Nを採用することで、従来のCICに対して小型化を図った。また、小型化だけでなく、マイク音口部のゴミの詰りにも配慮し、マイク故障が少なくなるような設計となっている。

4.終わりに
 補聴器は、日常的に使い続ける器械であるため、使用による不快感を極力取り除くことが重要である。
 リオネットロゼIIは、十分な補聴機能と、ユーザーの使いやすさを考えた機能を搭載している。また、快適な音の大きさでの補聴を目指した設計となっていることで、長時間疲れずにご使用できる補聴器となっており、ユーザーにご満足いただける製品となれば幸いである。
 今後も、ユーザーの満足感を高めていける製品開発を行っていきたい。

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