1984/6 No.5
1. 技術と心の調和を求めて

2. 航空機騒音監視システムの最近の開発例について

3. 騒音下におけるS/N改善について 4. 騒音軽減に関するOECD会議

    
 騒音軽減に関するOECD会議

 OECD(国際経済協力機構)は、1980年5月、騒音軽減政策(NOISE ABATEMENT POLICIES)に関する国際会議を開き、騒音の現状と展望について報告をまとめている。
 今回は事務局の騒音担当官Dr. A. ALEXANDREの好意で報告書を入手したので、その概要を紹介する。

(五十嵐寿一)

 序文、環境騒音の現状と将来
 OECD加盟国は開発国24ヶ国であってこれらの国ではそれぞれ騒音対策を進めているが、過去20年間の都市化によって環境の騒音レベルが増加してきている。1970年代にこれらの国において、人口の15%がLeq 65 dBA以上の環境に暴露されていると推定されるが、これは人口100万人以上にもなる。またいくつかの国ではLeq 65 dBAを許容できる限界ときめ防音工事等補賞の対象にしている。一方Leq 55 dBAは多くの国で環境改善の長期目標として考慮しているが、開発国の人口の半分以上がこのレベル以上に暴露されていると推定されている。(日本の環境基準はほぼこのレベルに相当する。)この推定にはその特殊性から作業環境騒音は含まれていない。これらの騒音は主として道路交通に伴うもので航空機がこれについでいる。このほか鉄道、建設、工場、家庭機器騒音、近隣騒音についても騒音対策を考慮しないと重要な生活障害を生ずると考えられる。
 今後早急に騒音対策を実施することを怠ると、2000年にはLeq 65 dBA以上の地域の人口が20%にもなると予想される。現在、エネルギー節減が提唱されているが、これは必ずしも車の生産や航空機の運行の減少とはならず、むしろ低燃費、高騒音車の生産や、自動車の代わりに二輸車の増加もまねきかねない。自動車については車種ごとの騒音規制、交通管理が必要である。航空機については、その低騒音化により被害人口が減少することが期待されるが、将来の航空需要を考慮すると騒音レベルの大きい機種の早期撤退、有効な土地利用、防音工事等の政策がとられなければならない。
 OECDとしては、各国の協力、とくに情報の交換が極めて必要であると考える。

 A. 騒音対策の総合的計画と実施方法の強化
  生活環境を改善する騒音対策は政策の重要な要素である。OECD加盟国ではすでに騒音対策の総合的政策の枠組みが進みつつあるが、国家的プログラムとして考慮されなければならない。
(1)騒音対策の計画設定   
 騒音を軽減するためには、経済的な制約も十分考慮した段階的計画及び最終目標にいたるスケジュールを含む明確なかつ数量化された政策の設定が必要である。人間が不快にならず、また会話、ラジオ、テレビの聴取に支障のない騒音レベルの限界については研究者によって若干の相違はあるが、多くの国において日中の許容値として室内の騒音レベル、40〜45dBA、また、睡眠に影響のない平均レベルとして夜間35dBAとされている。しかし2〜3の国ではもう少し低いレベルを目標にしている場合もある。現在のところ生活環境において望ましい騒音レベルの限界として、家屋近傍で日中60〜65dBA、夜間50〜55dBAに設定することが必要であろう。(これは窓を閉じた場合であって、特殊な気候や特別な事情のある地域については、別途考慮する必要がある。)この限界は既存の地域についてのもので、長期的にはこれ以下であるべきで、現在低いレベルにある郊外や田園地方ではより厳しい限界を設定する必要があろう。
(2) 騒音軽減とエネルギー節減   
  騒音の軽減とエネルギー節減については必ずしも矛盾はない。むしろこの両面についての努力は互に助け合うことが多い。ある種の自動車においては騒音軽減とエネルギー節減を同時に達成しているし、道路交通における速度制限等についても同様の効果がある。また家屋の防音対策は断熱効果を兼ねることによって燃料の節約にもなる。最近開発された航空機は以前の航空機に比べ、騒音レベルについてもまた燃料消費量についても格段の改善がなされ高価な燃料を節約するためにも、低騒音機への転換が促進されている。ただ特殊な場合として、騒音源に消音装置を装着するために重量が増加し、燃料消費が増加している場合がある。
  例えばディーゼルエンジンは、燃料を節約する設計によってより騒音が大きくなっている場合もある。それ故に設計の最初の段階で、騒音軽減とエネルギー節減の両面の対策を講ずるようにしなければならない。
(3) 予防的対策   
 騒音軽減対策の戦略として、音源に主眼をおくべきである。例えば自動車の音響放射レベルを制限するとともに、都市の交通を制限することも必要である。また後日救済しようとしても非常にむずかしいかまたは不可能なような望ましくない状態が、将来広がらないように先を見越した予防的対策を立てる必要がある。
 現在、空港や高速道路周辺に新しい建物が建築されようとしているが、政策担当者は既にその地域に居住している人々の救済を如何にするかということで苦労している。将来の問題の予防は現在の問題を一つずつ解決して行くことでなければならない。騒音の影響から一般の人々を保護することは、都市計画と土地利用の面からなされる必要がある。とくに騒音の著しい地域や将来問題となる地域における住居の建設、騒音の影響を受け易い病院、幼稚園、学校の設置及び騒音が問題となるような活動や構築物は許可すべきではない。もしこれらの地域を隔離出来ない場合は、地域指定(zoning)や構築物の設計変更、構造物の防音構造、遮音塀の設置などの予防、保護手段が必要である。
(4) 自動車、航空機に対する排出制限の強化
 道路交通騒音に対する軽減策としては、音源対策が第一である。例えば米国において自動車の排出限度を下げる努力を怠ると、受忍限度(unacceptable limit)と考えられるLdn 65 dBA以上の地域の人口は、1977年の1780万人から2000年には2160万人に増加すると予想されているが、もし大型トラックの騒音限度が10dBA、小型車が5dBA軽減されたとすると、Ldn 65 dBA以上の人口は650万人になると計算されている。同じく欧州における予想でも、Ldn 65 dBA以上の人口は現在15%あるが、上と同様の軽減策によって3〜5%になると予想されている。
 欧州及び日本においては、現在(1980年)排出基準として乗用車、80〜81dBA、大型トラック、86〜88dBA、大型バス、82〜91dBA、二輪車、81〜86dBAに制限されている。
   注. 1979年における日本の自動車騒音規制
   乗用車 81dBA、大型トラック、バス 86dBA
   二輪車 78dBA
 大型トラック、大型バスは現在騒音発生の主要音源となっているので、優先的に対策を講ずる必要がある。
 国によっては、二輪車や原付車の増加が騒音の主要音源となっているがこの場合運転方法、整備方法の問題も大きい。しかし現在の新車に対する騒音規制は、人々の安寧と福祉を守る上からみると寛大すぎると考えられる。次の5〜10年の間に合理的な費用で大幅に軽減出来る技術は既に達成されている。OECDメンバー国は、最善の技術を使ってより厳しい規制を行うべきである。
 ある国においては、乗用車について4〜5dBA、二輪車は2〜8dBA、大型車、5〜10dBAの軽減を1985〜1990年の間に実施することを勧告又は既に決定しているが、これ以上の軽減も将来は必要であろう。したがってメンバー国はこの為の開発研究に対する奨励と、必要があれば資金援助も行ってさらに対策を進める必要がある。また騒音の限度を測定するために、妥当な評価法に基いた測定方法の確立も重要である。
 a) 以上述べた事実および既成車の新車への転換に日時を要すること、また自動車の製造者に騒音規制の変更を十分徹底する期間を考えると、然るべき機関はOECD諸国の同意の下に、車種に応じて5〜10dBA騒音を軽減する措置を早急に講ずる必要がある。これらの措置が1985〜1990年の間に行われ、2000年には十分効果が現われるようにしなければならない。
 b) このほか、交通の管理が騒音の軽減、大気汚染防止、エネルギー節減のための重要課題である。
(5) 航空機   
 過去10年間、国際レベルで航空機の騒音軽減が行われてきたが、多くの空港周辺地域では未だに不満を訴える人が多い。しかし高バイパス比エンジンの開発によって、現在の騒音基準でみても10〜15dBA以上の軽減が可能になっており、つぎの10年間に次第に世界の航空路に導入されようとしている。したがって騒音対策を促進するためには、騒音の著しい機種の撤退かエンジンの改修が是非必要で、騒音証明のない機種を可能な限りICAO付属書16、第3章に示す、現在のところ最善と考えられる騒音証明のある機種に転換するよう奨励すべきである。またこれらの基準を満足しない機種の製造中止と撤退についての年次計画が論議されなければならない。
 米国においては、旧型機の撤退あるいは改修について、商用機では1981〜1985年に実施に移すことが決定している。
 欧州では1979年12月20日欧州共同体会議 (Council of European communities)が亜音速機の騒音規制についての覚書を採用した。この覚書はこれらの諸国において1986年12月31日以降、ICAO付属書16、第2章による騒音証明のない航空機は商用に使用しないとするものである。
  ICAO付属書第2章は1977年以前の機種に対する規制で、第3章に1977年以降の機種についてより厳しい騒音基準が定めてある。しかし第3章の基準が開発の限度というわけではなく、将来さらに改善されるべきであるが、より厳しい基準が採用されたとしても、今世紀中は他の要因とのバランスからこのような新しい機種が実用になる見込みはすくないであろう。しかしこのような規制は今世紀中の進歩が21世紀につながり、将来増加するであろう航空需要に応えるために必要なことである。多くの国で騒音が問題となる空港においては、空港毎に特別な騒音軽減策がとられている。例えば離着陸方法及び飛行コースの変更、夜間飛行の禁止、家屋の防音工事等である。もし空港周辺の騒音問題を解決しようとするならば、単に離着陸する航空機の騒音性状を変更するだけでは不十分で、総合的な対策についてもっと精力的に取組まなければならない。
  ある国においては、遊覧飛行機、ヘリコプター等の軽飛行機の騒音が地方小空港において問題となっている。
  また軍用機の発生する騒音も重要な問題である。

 B. 騒音対策促進の方法
(1) 経済的奨励方法   
 多くの場合騒音対策は漸進的でかつその実行に当っては経済的裏付けが必要であると強調されている。漸進的な政策として音の発生を減少することを優先し、音源制御の技術開発を促進しなければならない。
 この目的で実行されている種々の経済的奨励方法がある。
  a) 主要騒音源に対する賦課金、とくに乗用車、大型トラック、二輪車、航空機等
 b) 最も静かな装置やプラント、あるいは騒音対策に要する費用に対する税の免除
  航空機騒音の分野では、多くの国で賦課金の制度を既に実施している。またある空港では最も静かな航空機に対して、着陸料の払い戻しを行っている。しかし騒音レベルと賦課金の関係が必ずしも合理的でないと思われるので、この制度の拡大と改善が必要である。
 自動車に関しても騒音軽減が要求されているが、航空機におけるような賦課金の制度はまだ行われていない。騒音対策の費用はたとえ一部分であってもこのような賦課金で賄われて然るべきであろう。例えば、家屋防音、騒音の著しい建物の買取りや補償金などはこのような財源で賄われてよいと思われる。
(2) 騒音対策に対する不断の努力   
  騒音対策の促進方法は単に経済的な面だけでなく、教育と情報の伝達(内容の徹底)が必要である。実際に各個人は何らかの騒音を発生しているが、その騒音だけでなく暴露されているあらゆる騒音を減少するために、自分の生活様式を相当程度適合させることが出来る。したがって騒音対策は各個人の生活様式を考慮したいろいろの方法が考慮されなければならない。このような対策は規制的な措置である程度強制的なので、むしろ教育的な方法によって徹底させることが望ましい。とくに近隣騒音が問題となっているような場合にこのような配慮が必要である。
   騒音の実態と対策についての教育と情報の伝達
 a) 新聞、ラジオ、テレビによる情報伝達
 b) “静穏モデル都市”のような新規の発想による活動
 c) 小中学校及び成人に対する音響とくに騒音についての知識の普及
 d) 家庭用品などについての騒音ラベリングおよび住居の音響性能(遮音、吸音)につ いて
(3) 騒音が受忍限度を越える場合の公正な補償
  騒音環境の現状及び近い将来における評価・予測について多くの努力がなされているが、OECD諸国においては未だ著しい騒音の状態が拡大しつつある。したがって遠い将来における効果を確かめてから対策を実施するということではなく、早急に保護政策を進めなければならない。これらの対策としては、第一に騒音の著しい家屋の防音工事、またそれ以外の満足な方法がない場合には補償金の支払いも国によっては採用出来る筈である。
  補償の権利の導入は、事前に適当な対策をたててこのような状態になることを避ける努力を促進する効果がある。補償金や家屋防音は決して騒音対策の基本ではなく、騒音が甚しくこれ以外の方法がない場合いつでも適用できるということでなければならない。
  防音工事を行う条件と状態についての法的かつ行政的な騒音レベルの設定と騒音による損害に対し迅速・公正な補償ができる制度の確立を勧告する。

C. 騒音対策における国際協力と調和
  騒音対策についての国際協力は環境改善の有力な手段である。このような協力には、共通の方針、共同研究体制の促進、情報交換及び共同歩調をとることで、多くの国際機関が協力することによって効果をあげることが出来る。国際協力は政策あるいはその一部について共同歩調をとることで、とくに国際的に取引される製品が騒音源となる場合に適用される騒音基準などがある。この場合一方では商売上の制約が環境改善の障害にならないようにするとともに、他方では競争原理に反し関税障壁となるような事態を避けるよう協調する必要がある。関税障壁の除去には多くの経済的利益がある。
  商取引における量的な制限の除去、また場合によっては製造者が勝手な基準に従って高い価格をつけることの防止、(標準的基準を設定することの経済性)及び製品検査によって生ずる遅延などがある。

D. OECDの役割り
  以上を総括すると、騒音対策のためには野心的で強力な政策及び国際的な視野に立った総合された活動が必要である。OECDとしてはこの問題について国際協力のもとに進めていくことが有益でとくに以下のことに注目していくべきである。
     a) OECDは騒音環境を改善するために、国際的な専門機関の成果を十分考慮して、騒音源となる製品の騒音排出基準に適用される合理的な情報の交換を進めることに寄与すべきである。
      b) 騒音対策についての各国の様々な政策の評価、とくに最も効果のある機器と対策方法については、経済的な内容も含んだものでなければならない。
      c) OECD各国が騒音対策を進めるについての情報をたがいに交換する機構の設定
      d) この会議の結果として、OECD理事会の勧告
      (Noise Abatement Policies/C/(78)73(Final) 3rd July 1978)にもとづいてOECD各国がとった活動の評価
      e) 騒音対策を見直す会議を1985年頃開催することについて、適当なOECDの機関が決定を下すことを希望する。

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