1984/6 No.5
1. 技術と心の調和を求めて

2. 航空機騒音監視システムの最近の開発例について

3. 騒音下におけるS/N改善について 4. 騒音軽減に関するOECD会議
       <研究紹介>
 
航空機騒音監視システムの最近の開発例について

騒音振動研究室 山 田 一 郎
リオン渇ケ測技術部 尾 野 溢 夫

はじめに
  航空機騒音が大きな社会問題になりはじめた昭和43年頃から航空機騒音の自動監視を行う装置が各地の飛行場周辺に相次いで設置されてきました。なかでも、大阪国際空港の航空機騒音監視システムは国によって設置されたもので電電公社の特定通信回線を通じてオンライン・リアルタイムで騒音監視を行う大規模なものでしたが、システムの老朽化やデータ処理の効率、運用コストの問題、航空機騒音の識別の問題等々、色々の点で改良が望まれておりました。
 財団法人小林理学研究所では昭和55年度に運輸省航空局の委託を受けて新しい航空機騒音監視システムはどういう形で構成されるのが望ましいかについて検討を行いました。さらに57年度になって、同じく航空局の委託で具体的に大阪国際空港の監視システムを新しいものに更新するための実施設計(システムのハードウェア構成および処理ソフトウェアに関するもの)と騒音監視点の設置箇所を決めるための適地調査を行い、仕様設計書を作成しました。これに基いて航空局は58年度に同空港の新しい航空機騒音監視システムの建設をすすめました。実際に製作と設置工事を担当したのはリオン株式会社と富士通株式会社で、それぞれ、騒音監視点システム(10ヶ所)と中央処理システムを分担して製作しました。
 大阪国際空港の新しい航空機騒音監視システムは59年4月から運用が開始されるに至っておりますが、ここでは、このシステムを設計する際の考え方や騒音監視点システムに採用された新しい技術等を簡単に述べます。

システム設計の考え方と全体の構成
 システムの設計に当っては、航空機騒音暴露に関する環境の保全・監視ということが第一の目的に置かれたため、“航空機騒音に係る環境基準”を念頭に置いて、WECPNLが75前後となる比較的騒音暴露レベルの低い地域にも騒音監視点を設けることになりました。航空機騒音暴露を予測評価するための騒音コンタの算出に資する基礎的なデータを長期間にわたって収集することも重要な目的の一つです。またデータ処理の効率化と運用コスト低減を図るために観測騒音値と航空機運航情報を照合する手順の自動化を図りました。

 新システムでは大きく分けて5つの情報(航空機騒音データ、航空機飛行位置・経路情報、環境騒音データ、航空機運航情報、気象データ)を長期間連続して収集して処理評価に用います。中央処理システム内に3ヶ月間にわたる全ての収集データと日報、月報、年報を作成するのに必要な処理ファイルを格納することができます。データ処理にはシステム自身がリアルタイムで自動的に行うものの他に、オペレータの指令によって適宜行われる処理があり、様々な角度から観測データを評価することができます。
 新システムにはデータの信頼性とシステム全体の権威を高めるために、幾つかの新しい考え方と技術が取入れられています。これまでのシステムでは、各騒音監視点は単に騒音を観測してレベル化するだけであり、アナログ情報のままで回線を通じてオンラインで中央処理システムヘ送られた後、全てのデータ処理が行われておりました。それに対して新システムでは、各騒音監視点は独自に航空機騒音、航空機飛行位置、環境騒音等の観測から処理を行い、幾つかの騒音暴露評価量も算出します。中央処理システムは騒音監視点から観測・処理された結果を受け取ることと全騒音監視点の制御・動作チェック等を電電公社の特定通信回線を通じてオンライン・リアルタイムでディジタル的に行います。このように新システムは全体の処理機能を分散した形で構成されており、非常に信頼性が高くなっています。データのバックアップについても十分に考慮されており、連続監視に支障が生じないように工夫されております。処理機能の分散化は空間時間相関等によって航空機騒音の識別をより確かなものにするためにも不可欠なことでありました。
 中央処理システムは大阪空港事務所に設置されています。騒音監視点システムは現在、離陸側では久代小学校等7ヶ所、着陸側では利倉センター等3ヶ所の合計10ヶ所に設置されていますが、中央処理システムの記憶容量と通信回線および処理ソフトウェアは最大12ヶ所の騒音監視点システムを取扱えるようになっています。なお、現在は第12番目の監視点用のところは移動測定の観測データを処理するために使用しています。

騒音監視点システムのハードウェア構成と新しい技術
 騒音監視点システムの構成を図1に示します。騒音監視点システムの大半は建物の屋上に設置された自立型の収納キュービクル内に図2のように据え付けられています。その消費電力は中央処理システムとの通信のための制御装置を含めて150VA以下に押えられています。
図1 騒音監視点システムの構成
 
図2 屋外収納ケースに入った監視点装置

 使用されている騒音計は本システムのために新たに設計されたものです。マイクロホンは1インチのコンデンサ型です。A特性で100dBという非常に広いダイナミックレンジにわたってレンジを切替えることなく、真の実効値を検出して騒音レベルを観測することができます。これは騒音レベルの大きな航空機騒音と夜間には40dBA程度にまで小さくなる環境騒音を同時に無人で測定するために不可欠なものです。しかもダイナミックレンジの全域にわたって0.2dBの直線性が確保されており、精密級の規格に合致しています。騒音予測等のための基礎データとして利用するのにも十分な品質を備えているといえます。騒音レベルは内蔵するA/D変換器によって分解能0.1dBのディジタル値に直されて表示・読み出しが行われます。変換速度は最高で毎秒20回です。このように精度の高い測定を行う機器ではありますが、監視システム用として屋外に長期間にわたって設置され連続して使用されることを前提としていますので、温度や湿度の変化に対しても十分な考慮がなされており、従来品以上の性能を持っております(温度:−10〜50℃、湿度:20〜90%)。それ故、測定系の構成は年4回程度ピストンホンを用いて行えば足ります。ただし、システムの権威を高めるために、精密級の測定精度が常に満たされていることを確めるべく、定期的に計量法による検定を受けることになっています。
 これまでのシステムでは騒音レベルのピーク値の大きさと継続時間の長さのみを基準として航空機騒音と他の騒音を区別して観測していましたが、新システムでは各騒音監視システム毎に航空機騒音の音圧レベル変動の垂直および水平面内での空間時間相関を用いて飛行中の航空機の仰角・方位を音響的に検出する航空機識別・位置計測装置が組み込まれており、これを用いて騒音の観測のみから確度高く航空機騒音とその他の騒音を区別することができます。航空機の移動する向きがわかるので離着陸の区別についても情報を得ることができます。さらに、指定した方位に航空機が来たときの仰角を計算できるので、幾つかの監視点で同時にこの処理を行った結果から航空機の空間的な位置の検出と飛行経路の推定ができます。
 
さらに、騒音監視システムには航空機騒音の周波数分析を行い、その分析パターンから航空機がジェット機かプロペラ機かを判別する装置も組み込まれています。本装置はバンドパス・フィルタ群の出力から特徴パラメータを抽出してジェット機/プロペラ機の判別を行います。将来、ハード/ソフト両面にわたる若干の手直しを行えば航空機の機種を判別するところまで機能を拡張することも可能です。
騒音監視システムで算出される評価量は表1に示す通りです。これらの処理データはオンラインで中央処理装置に送られて航空機運航情報と照合された後、日報、月報、年報として種々の形でまとめられます。なお、中央処理システムで各騒音監視点の騒音レベルの時間変化を監視できるようにするため、2秒毎にその直前の2秒間の騒音レベルの最大値を求めて中央側へ送る作業もします。処理結果は中央へ伝送されると同時に、内蔵のデータバックアップ用の磁気カセットテープにも記録保管されます。たとえば、中央処理システムに異常が生じてダウンしても、各騒音監視点システムはカセット磁気テープに処理データを蓄えながら独自に観測処理を続行することができ、復帰後に自動的にカセットから読み出すことができますし、監視点へ出向いて手で回収することもできますので、データの欠測を最小限に押えて連続的に騒音監視を行うことができます。

表1 騒音監視点における測定項目

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