1998/1
No.591. 謹賀新年 2. 音の形と相 3. 高速移動体上の騒音発生源の同定 4. 携帯の美学 ポケット蓄音機 5. 積分型普通騒音計 NL-06 6. ISO NEWS <技術報告>
積分型普通騒音計 NL-06
リオン株式会社 音測技術部1G 若 林 友 晴
1.はじめに
1971年に閣議決走された環境基準では騒音の評価量として中央値(L50)が採用されていますが、現在この環境基準の見直し作業が進められており、評価量も国際的に広く認知されたLAeqに変わろうとしています。
LAeqはL50と比較して、突発的あるいは間欠的に発生する高いレベルの音に対して敏感であるため、これまでのL50のようにある時間帯を代表する値を得るためには測定時問を長くする必要があると考えられています。しかし、現実的に測定時間を長くすることは予算と人員の問題があり容易ではありません。
以上のような状況のもと、長時間の連続測定を容易にし測定後のデータ処理の効率を上げることを目的に開発したのが本稿で報告する積分形普通騒音計NL-06です。以下に今回採用された新技術および新機能を紹介します。
写真 積分型普通騒音計 NL-062.ディジタル式実効値演算の採用
(1)実効値演算 騒音計にはエネルギーに対応した指示値を示すために実効値を演算する回路が組み込まれています。
この回路を構成する方法としてはアナログ式とディジタル式があります。アナログ式は低い消費電力で構成できるためこれまでハンディタイプの騒音計ではこの方式が採用されてきました。ディジタル式は使用環境への安走性、性能の均一化、部品点数の少ないことによる信頼性の高さなど多くの優れた点を有しますが、消費電力が大きくなるため規模の大きな騒音計に搭載されてきた方式です。
しかし、今日の半導体の省電力化は低電圧化技術との相乗効果により目覚しい発展があります。これらの技術を活用することによりNL-06ではディジタル式でありながら単三型アルカリ乾電池4本で24時間の電池寿命を実現しています。
図1にNL‐06のブロック図を示します。
特性等で周波数補正された交流信号は増幅率の異なる2種類のアンプに入力され、その出力はそれぞれ独立した16ビットA/D変換器により48 kHzでサンプリングされます。さらにその2つのディジタル出力はDSPで波形合成され24ビット分解能の1つの信号に再生されます。この手法によりA/D変換の分解能を上げることが可能となり100 dBの広いリニアリティーレンジを確保しています。(2)LAeqの計算
LAeqを求める方法についてはJIS Z 8731の附属書に次の二つの方法が記述されています。
(1)A特性音圧の二乗積分による方法
(2)騒音レベルのサンプリングによる方法アナログ式の実効値演算回路を持つ騒音計では(2)の方法により、騒音レベルを10ミリ秒程度でサンプリングしてLAeqを計算しています。
NL‐06では交流信号出力を20.8マイクロ秒でサンプリングし、定義式どおりの(1)の方法でLAeqを計算しています。
図1 NL-06のブロック図3.長時間の連続測定への対応
安定したLAeqの測定を行うためには例えば24時間など長い時間にわたる連続測定が望ましいとされています。このような測定を支援するための機能を装備しました。(1)騒音レベルの連続記
内蔵メモリーには43万個の騒音レベルのサンプル値、またはLAeq,1secが連続記録できます。このデータ数はサンプル間隔が1秒の時は5日分、100ミリ秒の時は12時間分に相当します。
LAeq,1secで連続記録をするとデータは急激なレベル変動に確実に応答します。また、これをサンプル間隔の短い騒音レベルの連続データと比較するとデータの総数を少なくできるため、後のデータ整理が楽になる利点もあります。他にLAeqや最大値、時間率騒音レベルなどの値を設定した測定時間毎に連続記録する機能も選択することができます。(2)測定時刻の任意設定
図2 表示画面の例
複数地点での同時測定や無人での測定のために、設定した時刻に測定を開始し、終了するタイマー機能を装備しています。(3)電池寿命
多くの場合、ハンディタイプの騒音計では電源として乾電池を使用します。乾電池の性能は使用環境の温度によって変化するため、電池寿命としては一般に常温での値が表記されています。
図3にNL-06を負荷として測定した時の各種電池の温度特性を示します。アルカリおよびマンガン電池では低温において寿命が大幅に短くなるため、外気温が低い場合の連続測定ではリチウム電池を使用するなどの配慮が必要です。
図3 電池寿命の温度特性4.データ処理における利便性の向上
測走効率向上のためには最終的なデータのまとめまで含めた改善が必要です。メモリーカードとソフトウェアの活用がそのデータ処理を支援します。(1)小型メモリーカードの活用
パームトップPC、ディジタルカメラなどの小型情報端末機器では記憶媒体としてコンパクトフラッシュ、ミニチュアカード、スマートメディアなどさまざまな規格の小型メモリーカードが使用され、機器の小型化とパソコンとの良好なインタフェースを実現しています。NL-06にも小型メモリーカード(コンパクトフラッシュ)用のスロットを設け、内蔵メモリーのデータを短時間でカードに転送できるようになっています。コンパクトフラッシュはアダプタを装着した状態でパソコンのPCカードスロットに直接接続します。書き込まれたデータはMS‐DOSフォーマットでテキスト形式のため、ハードディスクなど他のメディアヘの複写や削除などの編集作業が容易であり、汎用の表計算ソフト等を直接データ整理に利用することもできます。
図4 小型メモリーカードとNL-06(2)専用ソフトウェアによるデータ整理
NL-06専用に開発されたソフトウェアを利用するとさらに簡単にデータ整理が行えます。そのソフトウェアがまとめた結果の例を図5に示します。5.終わりに
図5 専用ソフトウェアによる出力例
ディジタル技術の急速な進歩によりこれまで大型のシステムでなければできなかったような測定も身近になりつつあります。私共は今後も測定者のご意見を反映しながら、より一層測定効率の向上に貢献できる機器を提供できるよう努める所存です。測定効率の向上がより詳細な騒音調査の実現に繋がることを願っています。