1998/1
No.59
1. 謹賀新年 2. 音の形と相 3. 高速移動体上の騒音発生源の同定 4. 携帯の美学 ポケット蓄音機 5. 積分型普通騒音計 NL-06 6. ISO NEWS
       <研究紹介>
 高速移動体上の騒音発生源の同定
     - ドップラー効果を利用した位置推定方法について -

騒音振動第三研究室 土 肥 哲 也

1.はじめに
 鉄道における車両の高速化に伴い、空力的な現象に起因した騒音が増えてきている。例えば、新幹線ではパンタグラフからの騒音が増大するとともに、車両連結部、窓・扉等の凹凸部、換気用ルーバーなどが新たな騒音源として問題になっている。これらの音源に効果的な騒音対策を実施するためには、車体上の騒音源の位置や騒音特性を知ることが必要である1)。今回、高速移動体上の騒音源を同定する一つの方法として、ドップラー効果を利用した手法2)を開発したので、その概要を報告する。

2.音源位置の推定方法
 図1のように、受音点からr(m)離れた直線軌道上(x軸)を点音源が速度v(m/s)で通過する場含について考える。音源の信号が周波数(Hz)の純音のとき、受音点で観測される周波数の時間変化f(t)は、音速をc(m/s),マッハ数をM = v/cとすると、式(1)のようになる3)

図1 音源と観測点の位置関係


式(1)を、観測した周波数とそのときの音源位置との関係式に変換する。移動する音源位置x = v tを用いると

となる。ここで、音源が受音点正面にいたときを時刻 t = 0、その音源位置をx = 0としている。高校の頃、物理で習ったドップラー効果の式と異なるのは、音源から受音点までの音の伝搬時問遅れを考慮しているためである。式(2)において、音源の移動速度を一定として軌道までの距離rが1〜16mまで変化した時の音源位置と周波数の関係を図2に示す。周波数変化の度合は距離によって異なり、距離が近いときは急激に変化し、遠いときはゆっくりと変化する。この性質を利用して、観測した周波数の変化の度含から逆に距離を推定することができる。更に、音源の進行方向に対して断面方向にマイクロホンを複数配置することで、各々のマイクロホンから推定した距離の交点から断面方向の音源位置を求めることができる。

 音源の進行方向の位置については、観測される周波数の変化の傾きが、音源が正面を通過したときに最大になることから推定できる。

図2 距離による周波数変化の違い

3.実験
 移動音源として乗用車を用いて本手法を実験から確認した。乗用車の側面に取り付けたスピーカ(口径25.4mmのドライバーユニット)から放射した音を図3に示す各マイクロホンで測走した。車速および乗用車の通過時刻を道路両端に設置した光電センサを用いて計測し、その信号をマイクロホンの出力信号とともにDATに録音した。後にFFTを行い、周波数変化の度合を求め、音源位置を推定した。

図3 実験の測定点配置
 実験結果の一例として、マイクロホン1,2,4,5における距離rの推走値を用いて断面方向の音源位置を推走した結果を図4に示す。各マイクロホンから推定距離を半径とする円の交点(推定位置)と実際の音源位置とはよく一致している。
図4 断面方向の位置推定結果
 次にスピーカーを後ろ向きに設置し、音源自身に後ろ向きの指向性を持たせて実験を行った結果を図5に示す。音源が指向性をもっているため、レベル波形は音源がマイク正面を通り過ぎて4〜5m進んだ時にピークが観測されているが、周波数の変化は音源がほぼマイク正面を通過したときに傾きが最大になっていることが分かる。このことから、ドップラー効果を用いた本手法は、音源の指向性に影響されずに進行方向の音源位置が推走できることが分かる。
図5 進行方向の位置推定結果(音源の指向性あり)

 音源から放射する音が純音であれば、本手法を用いて音源の3次元的な位置が同定できることが分かった。しかし、実際の騒音が純音であることは少なく、たとえば 空力音は帯域幅を持った純音性の騒音であることが多い。

 ここで、音源のもつ周波数の帯域幅とドップラー効果による周波数の変化幅の関係を考える。図6に騒音が同じ帯域幅を持つ時に、音源の移動速度の違いによる周波数の変化の様子を示した。上の図のように、音源の帯域幅が周波数の変化幅より広いと、周波数の変化の傾向が分かりづらく推定精度は悪くなるが、速度が速くなると周波数の変化幅が広くなり、推定精度がよくなる。つまり、速度が速いほど帯域幅の広い音源に対して推定ができるため、実用性が高まると考える。
図6 帯域幅と周波数変化幅の関係
4.まとめ
 ドップラー効果による周波数の変化の度合が音源と受音点間の距離によって変化することに着目し、変化の度合を計測することによって音源位置を推定する方法を開発した。純音性の騒音については、3次元的に精度よく音源位置を同定できることを明らかにした。この方法は音源が広帯域の騒音の場合は適用が難しいが、速度の増加に伴って推定可能な帯域幅も広がることが分かった。

[参考文献]
1)土肥,廣江,加来:日本音響学会講演論文集, pp.739-740,(1997.3).
2)土肥,廣江,加来:日本音響学会講演論文集, pp.663-664,(1997.9).
3)P. M. Morse and K. U. lngard, "Teoretical Acoustics", McGraw-Hill Book Company, pp. 717-732.

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