2021/10
No.1541. 巻頭言 2. 多チャンネル音場再生技術を用いた防音壁の挿入損失推定 3. inter-noise 2021 4. 第13 回公衆衛生問題としての騒音に関する国際会議
5. 医薬・製薬業界向け生物粒子計数器 <技術報告>
医薬・製薬業界向け生物粒子計数器
リオン株式会社 微粒子計測器事業部 新規事業推進室 鈴 木 智 大
1.はじめに
医薬・製薬業界での注射用水、精製水の管理手法として 培養法での微生物検査が主流であるが、2016年に第十七改 正日本薬局方の参考情報に「微生物迅速試験法」が新たに掲載されてから迅速測定の注目が高まってきている。
その理由として、従来の培養法では結果を得るまでに 数日間かかることや、選択した培養条件で検出できる微生物が限られる等により、リアルタイムで製造現場の異 常に気が付かない、または不具合原因の特定が出来ずに 対応が遅れてしまうことがある。また、培養法からの置き換えを行うことにより、培養を行う為の部材のコスト削減や、自動化することによって作業者のスキルに関係 なく工数低減できることも期待されている。昨今のコロ ナ禍においては、試験作業者の在宅勤務の促進を目的に 自動的に連続モニタリングできる測定器の要求も増えて きている。
ここでは当室で開発し上述に適用した医薬・製薬業界 向け生物粒子計数器 Microbial Particle Counter XL-M4B (図1)について、開発背景、製品の紹介、活用例を簡単に紹介する。2.開発経緯
本紙No.150(2020 年10月)1)で紹介したように生物粒子計数器システムは、センサ部、制御用PC、流体制御部、深紫外線照射部と分かれているものであり、このシステムでは医薬・製薬業界で使用する場合、設置をする上でかなりの手間がかかることと、装置がそれぞれ大き く、場所を取ることが懸念事項であった。また、昨今大 手医薬・製薬企業でデータ改ざん、隠蔽、偽装等の問題 がニュースで取り上げられることが多くあり、業界とし てもデータインテグリティ(データの完全性)が議論さ れ各社取組みを積極的に行うようになってきた。
その為、同業界へ製品を販売する為には弊社測定器も その状況に柔軟に対応していく必要があったが、データ インテグリティ対応に必要な機能の構築に苦慮し、業界へ導入し難い状況が続いていた。そこでデータインテグ リティに対応した業界にも既に受け入れられている横河電機社製ペーパレスレコーダSMARTDAC+ を制御部 に採用、さらにシステムを一体型にしたMicrobial Particle Counter XL-M4B の開発を行った。
図1 Microbial Particle Counter XL-M4B3.検出原理と動作
3.1 検出原理
本紙No.149(2020 年7 月)2)の2項で紹介した原理であり、本装置は微生物が持つリボフラビンに着目し、同項で紹介した散乱光の検出は行わず、蛍光のみを検出し生物粒子のみの計数を行うこととした。
また、本紙No.150 で紹介した深紫外線照射部を内蔵しており、微生物の自家蛍光増強効果、偽陽性リスク低減効果、システム内の微生物汚染リスクの低減などの利点を備えている。3.2 内部構成
本製品の特徴として、熱殺菌処理された高温(〜80℃ 程度)の測定対象水を直接測ることを実現する為、試料導入部の後に、冷却部を用意した。また、インライン測定を行う際に本器の試料圧力範囲10〜300kPaの中で測 定を行うことが必要である為、本器内部に圧力計を設けることで圧力監視をしながら測定ができるようにな り、生物粒子の計数値と合わせて圧力値の記録も可能となった。
測定設置環境への配慮として、内部の液体が導入部へ逆流し、元配管を汚染することを防ぐ為、最後部に逆止弁を設けた(図2)。
図2 XL-M4B 簡易構成図3.3 洗浄・測定動作
XL-M4Bの測定操作は至ってシンプルであり、操作ポ イントは洗浄開始・停止操作の「PURGE」と測定開始・ 停止操作の「MEASURE」の2つのみである(図3)。
内部配管の洗浄および、測定試料の置換として 「PURGE」を行う。また、測定を行う場合には 「MEASURE」ボタンを押すと後述の通りの測定動作を 開始する。
測定動作の動きとしては、測定試料がセンサ部に流れるまで(冷却部、深紫外照射部、他配管を通る)約4 〜 5分かかる為、MEASUREボタンを押してから試料が流 れた状態で同時間待機状態となり、時間経過後実測定に入り連続的にBio Count(個/10 mL)を計数し、1分毎のデータを内部ストレージに記録していく。また、ステータス表示でレーザー、深紫外ランプ、流量、圧力、 内部の漏れ、泡検知、セル状態のエラーをリアルタイム に監視することが出来る。
図3 メイン画面4.データインテグリティ対応
本器の制御部として採用したSMARTDAC+ の拡張 セキュリティ機能を利用して、米国FDA21CFR Part11 (電子記録および電子署名に関する規則)及び、厚労省 ER/ES(電磁的記録及び電子署名)指針の厳格な要件に 対応した。
具体的には下記がその特徴や機能の例である。
・ 改ざんが出来ない暗号化されたバイナリ形式のデータ管理
・ サインイン機能(電子署名)
・ 監査証跡(オーディットトレイル)機能
・ オペレータ管理権限設定機能
・ 自動ログアウト機能
・ パスワード有効期限設定5.分析バリデーション
第十七及び十八改正日本薬局方参考情報 微生物迅速 試験法に「微生物迅速試験法により新たな管理方法が考 案され従来法が無い場合には、その妥当性を検証して微生物迅速試験法を用いることが出来る」と記載がある為、本器についても妥当性を検証する必要があった。
当室は大手製薬メーカー2社へ協力いただき、妥当性検 証の内容・方法の協議を行い、下記の項目にて基準を作成 し、それぞれに対し検証を行い製品の妥当性を評価した。
・ 真度(Accuracy) 従来法との比較結果が同等またはそれ以上であること
・ 精度(Precision) 測定値の結果のばらつきが少ないこと
・ 特異性(Specificity) 蛍光 / 非蛍光粒子、泡との弁別評価
・ 検出限界(Detection Limit) 検出可能な最低の個数濃度の確認
・ 範囲(Range) 上限および下限の個数濃度の確認
・ 直線性(Linearity) 試料濃度と直線関係にある測定値であること
・ 頑健性(Robustness) 製品仕様範囲で環境に変化をさせても計測に影響な いこと6.活用提案
活用例1:リアルタイム検出
従来法の培養法では、用水管理の中で異常が発生した場合、異常発生時に採水した検体の結果が出るまで一般的に約5〜7日程度掛かり、リアルタイムに対処が出来ないケースがある。その場合には本器を用いリアルタイ ムに計数させることで、異常発生時には即時に対応でき る為、製造現場で高度なリスク管理をすることが可能となる(図4)。
図4 リアルタイム測定例活用例2:生産性向上
現状、各社用水管理手法は様々であるが、一般的には長期休暇等によるメンテナンス、生産停止後の復帰の際 には、培養法で微生物試験を行い基準以下の結果が出て結果に問題がなければ再稼働となる。活用例1も同様だが、この場合も結果が出るまで時間が掛かりその期間を 短縮すれば早期に生産を再開できる。例えば計数値に基準を設け、再稼働が可能となる計数をした場合に即時に生産稼働が出来る為、培養法と比べるとより多くの生産が可能となり生産性向上に寄与することが出来る (図5)。
図5 生産性向上事例活用例3:不具合早期発見
製造用水ラインの中で定期、不定期に菌の発生が起こるケースがある。その場合に想定される複数箇所の採水を行い培養法にて原因特定、改善作業、運転前評価まで行うとかなりの時間を要する。
図6のように本器で複数のユースポイントを測定する ことにより、原因調査を迅速に行うことが可能となる。 図7で示したグラフは図6のP3 の位置でモニタリングを行い、その間にボールバルブを操作した際に計数したものである。このように、操作による状態の変化をモニ タリングすることでリアルタイムに微生物検出が可能となる為、原因特定が迅速かつ容易に行うことが出来る。 また、対処後の効果も早期に確認可能となり生産ライン復帰までのロスも最小限に抑えられる3)。
図6 不具合検知イメージ
図7 ボールバルブ部(P3) 測定結果7.おわりに
日本薬局方へ「微生物迅速試験法」が記載され5 年程経過するが、まだ業界として積極的な機器導入が少ない状況ではある。昨今のコロナ禍における自宅勤務より製造現場の品質管理の自動化の要求や、各社の高度なリスク管理の構築や切り換えにより製品の問い合わせが増え てきている。
それらの要望に応える為にも、当室は本製品の使い勝手や機能向上、実績に基づく新たな活用提案の模索等、 積極的に行い、各社の品質管理向上に少しでも貢献していきたいと考える。参考文献
1) 水上 敬、関本一真:< 技術報告> 深紫外線照射技術を採用した生物粒子計数システム、小林理研ニュース No.150 (2020/10)
2) 水上 敬、関本一真:< 技術報告> 生物粒子計数器、小林理研ニュース No.149 (2020/7)
3) 水上 敬 液中バイオパーティクルカウンタを用いた菌検出の原因調査 2019.6,21 日本PDA製薬学会主催「無菌製品 GMP 委員会研究成果発表会」