2021/10
No.154
1. 巻頭言 2. 多チャンネル音場再生技術を用いた防音壁の挿入損失推定 3. inter-noise 2021 4. 第13 回公衆衛生問題としての騒音に関する国際会議
  5. 医薬・製薬業界向け生物粒子計数器

 
  第50回を迎えたinter-noise  


  理 事 長  山 本  貢 平

 inter-noise は今年、第50 回目の開催を迎えた。騒音に関する国際会議として、50 年もの長きにわたって世界の騒 音制御技術と騒音政策をリードしてきた功績は極めて大きい。このinter-noise 開催の出発点はINCE-USA の設立に ある。その経緯についてBill Lang がNoise-Con 2011 で講演しており、この資料を参考に紹介したい。

 INCE-USA の設立の背景には、1950 年以降1970 年代にかけて、工業先進国アメリカ合衆国で発生した深刻な騒音 問題がある。過酷な騒音環境下で働く工場労働者の聴覚保護問題、DC8 やB707 に代表される当時の爆音ジェット機 や道路を集団走行する大型トラックの騒音に悩まされる市民からの激しい苦情問題などである。行政府や議会には騒 音問題に対処するための法整備を急ぐことが要請され、技術者には騒音を制御するためのテクノロジーが要求された。

 一方ASA(アメリカ音響学会)は騒音に関する実務的な記事を集め、1955 年には雑誌“NOISE CONTROL”、及 びその後継としての雑誌“SOUND”を発行して、騒音制御に関する技術的サポートを行っていた。しかし、ASA 内 には純粋科学の研究論文誌(JASA)のみの出版に固執する強い意見があったため、これら実用雑誌は1963年に廃刊 となった。実務を重視する技術者や研究者にとって、騒音制御に関する貴重な情報交換の場が失われたのである。

 ここに3人の重要人物が登場する。Leo Beranek、Bill Lang、George Maling である。Bill は1970 年にASA/TCN (Technical Committee on Noise)の委員長に就任したが、その時には市民のニーズに応える非営利組織INCE (Institute of Noise Control Engineering) 設立の構想を持っていた。そして1971 年1月に最新の騒音制御レビューを行うワー クショップをNew York 州コロンビア大学のArden House で開催する。そこには大勢の音響コンサルタント、大学 関係者、企業技術者、行政関係者が集合した。この会議でASAとは別組織のINCE設立の構想を発表したところ、参 加者から多くの支持を得た。そして、国際的な会議inter-noise を毎年開催すること、第1回のinter-noise を翌 1972 年10 月にワシントンDC で開催することなどが決められた。その年の秋にINCE-USA は発足し、Leo が会長、 Bill は実務の副会長、George は事務局と財政を担当し、inter-noise 開催へ向けて組織づくりを開始した。

 小林理研の図書室にinter-noise’72 のプロシーディングスがある。それには11 分野で92 件の研究発表、14 件の Tutorial があったと記録されている。日本から五十嵐寿一がSession Chairman として参加した記録もあった。参加 者は予想の850 人を超えて1,300 人にも達してinter-noise は大成功を収めた。世界に受け入れられたのである。

 1972 年以降のinter-noise 開催には隔年でアメリカの都市が選ばれたが、1987 年以降はアメリカ、ヨーロッパ、ア ジアの3地域から順に選ばれるようになった。日本ではこれまで仙台(1975 年)、横浜(1994 年)、大阪(2011 年)の 3都市が開催地となった。再来年2023 年には千葉幕張メッセでの開催が決まっている。第50 回のワシントンDC はコロナ禍でオンラインの開催となったが、幕張では是非とも大勢の人々を海外から日本に迎え入れたい。

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