2021/10
No.1541. 巻頭言 2. 多チャンネル音場再生技術を用いた防音壁の挿入損失推定 3. inter-noise 2021 4. 第13 回公衆衛生問題としての騒音に関する国際会議
5. 医薬・製薬業界向け生物粒子計数器 <会議報告>
inter-noise 2021
山 本 貢 平、牧 野 康 一、横 田 考 俊、横 山 栄inter-noise 2021 は今回が第50 回目を迎えることとなった。開催場所はアメリカ合衆国のワシントンDCで あり、ここは第1回inter-noiseが開かれた記念すべき都市である。しかしながら、COVID-19 の世界的感染拡大が収まらない状況の中、参加者の健康や旅行制限がある ことを考慮して、昨年に引き続きZoomを使ったオンラインでの開催となった。
開催期間は、8月1日(日)〜5日(木)の5日間であり、例年よりも一日長い。会議には山本のほか、発表者として牧野、横田、横山が、聴講者として広江、土肥 が参加登録を行った。
開会式は8月1日(日)の日本時間22:00(New York 9:00)からライブでのオンライン放送で始まった。まず、 実行委員長のRaj Singhが歓迎の挨拶を行った。この時、今回が記念すべき第50回の開催であること、inter-noise(1972 年)発祥の地としてワシントンDC が選ばれた経緯、また、この会議がINCE/USAとProAcoustica(Brazil)との共同開催であることなどが披露された。次にI-INCE 会長のRobert Bernhardが去年に引き続きネットを使ったオンライン開催となったことを述べ、inter-noise 2021 の開会を宣言した。
続いて、共同主催者でINCE/USAの会長であるMike Bahtriarianの挨拶があり、次にProAcousticaの代表者で共同実行委員長のDavi Akkerman はBrazil から挨拶を行った。このあと、テクニカル・プログラム・チェアの Tyler Dareが、オンライン発表会場への入室の方法や、質 問の方法などを説明した。最後にPatricia DavesとTyler Dare が学生発表者の優秀賞の選定結果報告を行った。引き続き、日本時間22:45から23:45(New York 9:45-10:45) まで、Brigitte Shculte Fortkamp とJim Tompson の司 会でPlenary Lecture が行われた。演題を「Soundscape : Progress in the past 50 years and challenges in the next 50 years」としてロンドン大学のJian Kangが講演を行った。終了後は日本時間0時からLatin American Syposium とClassic Papers in Noise Control Engineeringが行われ、終わったのが明け方の6:00(New York 17:00)であった。
第2日からは8つの放送チャンネル(virtual networking sessions)で研究発表が行われた。今回のテーマは「Next50 Years of Noise Control」である。聴講には自分の聞きたい研究発表を公式サイト(Platform)上の発表プログラムリストで検索し、発表時間にその講演番号をク リックすれば、入室できる仕組みとなっている。
発表セッションの分野は、いつもの航空機騒音、鉄道騒音、道路騒音、環境騒音、工場騒音、流体騒音、心理・健康、サウンドスケープ、音響材料、建築音響、音響教 育を含めて、120を超えるセッションに細分化されていた。このほかに、新たにnetworking sessions というものが設けられており、事前に設定された、いくつかの テーマについて興味を持つ人が入室をして、情報を交換するという形式のものであった。これには、例えば最新の技術情報のQ & A、ポスターセッションのQ & A、 I-INCE 役員との会話などが含まれており、人と人との情報ネットワークを重視した取り組みが行われている。 この他、機器展示(virtual exhibition)やソーシャルイベントも仮想空間で行われた。
最終日8月5日(木)の日本時間22:00 からPlenary Lecture と閉会式が行われた、統計として、今回の論文数が605件、ポスターが55件であったこと、参加登録者 数は46か国から988人であったことが紹介された。また、 参加登録者数を国別にみると、アメリカ合衆国が36 %で1位、日本が12 % で2位、ドイツが7 % で3位、中国 も7 % で3位、韓国が5 % で5位であった。今回のスポンサーはゴールドが3社、シルバーが5社、それから機 器展示が24社であったことが紹介された。最後に、internoise 2022 (英国、グラスゴー、2022 年8月21〜 24日)の紹介ビデオが流されて、全て終了となった。
今回は昨年に引き続き、2度目のオンライン開催となったが、各国間の時差の問題もあってライブ放送への参加は困難であることが多かった。それを補う方法とし て、全録画が8月12日から10月5日までinter-noise 2021 のプラットホーム上で公開された。いつもは聴講できないセッションを、後からゆっくり見ることができるとい う長所はあるが、一方通行の放送であることに変わりがなく、ロビーでの議論や友人との親交を深めることができない。それにしても会議は成功裏に終了した。実行委 員会の努力を高く評価したい。 (理事長 山本貢平)
I-INCE 会長Robert Bernhard のinter-noise 2021 開会宣言私は2年ぶりのinter-noise参加であったが、オンラインでの国際会議は初体験で、勝手がわからず右往左往し てしまった。Airport Community Noise のセッションで、航空機騒音暴露の日変動について発表したのだが、準備不足といろいろなトラブルとが重なってしまい、持 ち時間の最後数分でまとめの部分だけをライブで話すということで終わってしまった。このセッションの時間帯 はシステム不調でライブ配信も行われず、残念だった。
セッションの実施時間と業務の関係で、主にライブではなく、後でビデオを視聴するだけであったがAirport Community Noise のセッションを聴講した。地域別の 発表件数は北米4件、欧州7件、日本4件であった。現地時間の6時、11 時、14 時からの3セットに分かれていて、日本からの発表は現地時間6時のセッションに割 り当てられていたため、リアルタイムでの欧米からの参加者は少なかったように思う。
興味深かった発表をいくつか紹介する。オランダの von den Hoff は、Taxibot というトーイングカーのような車両による地上走行と、通常のジェットエンジンを 使用した地上走行の比較を報告した。燃費節約、CO2 削 減のために開発されたシステムであるが、騒音対策としても有効であることが示された。 航空機騒音のバーチャルリアリティー(VR)によるシ ミュレーションについて、ドイツのDreierとフランスの Dedieu が報告していた。地域住民へのデモンストレーションなどに使用できると面白いのではないだろうか。
アメリカの連邦航空局(FAA)からは、空港周辺 で大規模に実施した社会調査 FAA Neighborhood Environmental Survey について3件の報告があった。 航空機騒音暴露に対する dose-response curves の更新結果が示された。郵便による調査の詳細も示されてい て、米国でも回答率はそれほど高くないということが分 かった。 (騒音振動研究室 牧野康一)
オンライン参加風景(当所会議室にて)「Thank you Chairperson」。初めの一言はこれまでずっとこの言葉で通してきた。発表動画を事前に投稿す ることになったが、今回は座長がスケジュールされた発表時間にリアルタイムで発表者を紹介し、動画再生が開始されるとアナウンスがあった。また、動画は後から視 聴も可能とのアナウンスもされた。そこで困った。いつもの一言で始めるか?録画動画で座長への感謝は変ではないか?いつもは言わないタイトルや自身・連名者の名 前を言うべきか?等々。結局、“Hello everyone”と無難に始めたが、他の発表者のスタートが非常に気になった。座長への紹介のお礼は無く、挨拶、所属と名前、で 始める人が多く、タイトルを言うかどうかは発表者によって様々という印象を受けた。
発表では、ここ数年続けてきた北海道当麻町での屋外音響伝搬実験の結果について数値解析結果も交えて紹介した。座長から、実験データを公開・共有できるように して欲しいと言われ、大変うれしく感じた。今後、実験データを公開できる仕組みを作っていきたいと考えている。チャットによる質問では、質問者の氏名が表示さ れ、また、そのメールアドレスはinter-noise のホームページで簡単に検索できる。時間内に十分に答えられなかった質問には、セッション終了後、すぐにメールで補 足説明をすることができ、質問者からも発表の感想をもらうことができた。対面で会話するよりも気軽な面も感じられた。
オープニングセレモニーの後、「Special Latin American Symposium:Environmental Noise Management」が開催 された。各国の法体系、noisemap作成状況、アクションプラン等が紹介され、この地域の各国の状況を一度に聞く機会が得られ、とても良い企画と感じた。inter-noise開催地域毎に、このような地域の状況を紹介する企画が あれば、またぜひ参加したいと思った。
4日目のkeynote lecture「Environmental noise in cities: lessons learned and what is next」では、noise mapping に関する話題も触れられた。不特定多数の人がスマートフォンを用いて音環境のデータを取得する Crowdsourcing によるnoise mapping についても紹介された。スマートフォン利用について、機種固有のノイズ処理等の問題点も述べられたが、いわゆる騒音評価量を 計測する機器として使用するのではなく、その場の騒音源が何かを把握するために使用するのが有効ではないかとの提案もされた。また、Dynamic noise mapping について、騒音をモニタリングして表示するのではなく、騒音源を把握し、騒音評価量は予測計算で求めるという考えも示され、道路交通騒音について、カメラを用いて交 通流のモニタリングを行い、その情報を基に予測計算によりnoise mappingするアイデアが紹介された。最近、非接触型の体温計が格安で販売されている。体温を正確に 測るのではなく、AI技術による微調整の結果、それらしい値が表示される機器が増えている気がする。騒音のモニタリングでも、正確に音を計測するのではなく、簡便 に「ほどほどの誤差範囲で皆がそれらしいと感じる値」をシミュレーションやAI技術を駆使して表示する方法が求められてきているのかもしれないと感じた。
inter-noise 2021のコンテンツは10月まで視聴可能となっている。先端改良型遮音壁の実測および実測結果に基づく道路騒音の予測、ヘリコプタ騒音低減のためのパ イロットへの飛行方法の訓練、Shooting noiseの評価など、様々なセッションで興味深い研究発表が多数されていた。時間を見つけて動画を見直したい。(騒音振動研究室 横田考俊)inter-noise 2021 は昨年に続きオンライン開催で行われたが、私自身としては今年初めてオンライン開催によ る国際学会に参加し、また、初めてOccupational Noise のセッションで発表した。私の発表時刻は日本時間 24 時(現地時間13 時)からで、発表時刻になると、周 囲が寝静まった自宅のパソコン画面内で繰り広げられる inter-noise 2021 の第8会場(Channel 8)で座長による紹介があり、現地Staff によって私が事前にアップロードした15 分間のプレゼン動画が再生された。とても不思議な感覚であった。今回、座長および発表者と聴講者は異なるサイトにアクセスしており、このサイト間で 30 秒間のタイムラグがあったため、発表者サイトでは発表時刻の30秒前にStaffが座長に紹介を始めるように促し、また発表動画が終了する30 秒前に質問を始めるように合図を送った。このタイムラグがあるために、聴講者からの質問はChat機能によるものに限定されており、座長が質問を集約して発表者に口頭で質問をするこ とになっていた。動画再生中も、発表者サイトでは質問やコメントがChat 機能によってなげかけられ、非常に慌ただしく時間が流れていた。今回、私が発表した Occupational Noiseのセッションでは8件の発表があり、座長や現地Staff を合わせた15 名程が発表者サイトに参加していた。アメリカN I O S H 、イギリスの HSE、ポーランドのCIOP-PIB 等の各国の研究機関の他、NASA やIntel Corp. からの発表があり、内容は Occupational Noiseの暴露レベル調査、アノイアンス評価、リスク評価、規格、政策等、多岐にわたっていた。質疑応答では、発表内容に関する具体的な質問の他、労 働者の作業環境を改善するための方策やビジョンも議論された。アジア地域からの発表は他になく、また実際の聴講者数は発表者にはわからず、欧米の少人数の専門家 会議に紛れてしまったような何とも心細い印象であっ た。それでも、今回、2020 年に聴力保護具(イヤーマフや耳栓)の遮音性能試験方法に関するJIS*1がISO規格を 対応国際規格として制定されたのを機に、ISO やANSI 等の関連規格の変遷や現行国際規格を比較し、JIS に準拠した実験システムを構築した内容を発表できた事は良 い機会であった。わが国では「騒音障害防止のためのガイドライン」で騒音区分によって聴覚保護具の着用が励行されているが、罰則規定はなく、欧米諸国と比べると 遅れを取っている印象であった。現在、ガイドラインの見直しが検討されており、今後の動向にも注目したい。
inter-noise 2021は例年より1日長く5日間にわたり、全8会場(8 Channel)で開催され、発表者の滞在地域が考慮され、連日、15 時間(現地時間6:00 〜 1:00, 日本 時間19:00〜翌10:00)にわたるプログラムが組まれていた発表時刻以降であれば、いつでも発表動画を試聴する ことができ、会議閉会後も約2か月間、試聴できるようになっていて、この原稿を執筆している現在もパソコン画面内で繰り広げられた会議を振り返ることができる。 ただ、やはり世界各地での対面での国際会議が懐かしく、一日も早く以前の日常が戻り、対面での国際会議が開催されることが望まれる。 (騒音振動研究室 横山 栄)
*1:JIS T 8161-1:2020「聴覚保護具(防音保護具)−第1部:遮音値の主観的測定方法」