2022/1
No.1551. 巻頭言 2. 聴覚保護具の遮音性能測定に関する規格 3. 航跡観測システムR-TRACKのご紹介
新年はコロナ禍でも世界旅行を
理 事 長 山 本 貢 平新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。今年も新型コロナウィルス感染再拡大に不安を覚えての年明けとなりました。私たちは、これまで数度にわたる緊急事態宣言を経験し、すっかり出歩く喜びを忘れてしまいました。コロナ禍であっても勇壮な虎のごとく悠々と海外の街を歩いてみたいものです。
このような状況で世界を旅行するには、バーチャル空間を利用する方法があります。一冊の旅行記とネットにつながる世界地図があれば十分です。時間も空間も超えて旅行を楽しむことができるでしょう。飛行機も鉄道も自動車も使わずに世界中を旅するなんて魅力的ではありませんか。旅行記として例えば「マルコ・ポーロ旅行記」はいかがでしょう? 13世紀に彼はイタリアから中国まで旅しました。約3年もの長期間を費やして広大な平原、険しい山岳地帯、不毛の砂漠を、ラクダに乗って旅するなんて我々には想像もつかないことです。今なら飛行機で半日です。
早速、身近な文庫本「東方見聞録」(長澤和俊 訳・解説)を左手に、Google マップを右手に仮想空間に入ってみましょう。マルコ・ポーロの一行は、1271 年にヴェネツィアを出発し、トルコからイラン経由で中央アジアのパミール高原に達しました。さらに現在の新疆ウイグル自治区のカシュガルを通り、タクラマカン砂漠から敦煌を経由してフビライ・ハーンの夏の都、上都開平府(北京北方275km の遺跡。UNESCO 世界遺産)にめでたく到着したのです。
Google マップには航空写真、街や自然の風景写真、動画も埋め込まれています。マルコが訪れた街名などを知れば、現在の自然風景や人々の生活もグーグル情報から読み取ることができます。例えばマルコは、「大アルメニアの中央部(現トルコ領)に、その頂上に『ノアの箱舟』がたどり着いたとされる山がある」と述べています。現在のアララト山(標高5,115 m)のことです。地図に埋め込まれた写真には、氷雪に覆われた雄大で美しい2つの山がそびえています。旧約聖書「創成期」の伝説を背景に、今も昔ながらの遊牧生活をする人々が居ることに感銘を受けました。なお、マルコが記録した地名が現在無くなっている場合があります。旅行記の文脈から、その地名が現在の何処に該当するかを推理して地図の中から見つけ出すのも一つの楽しみです。
ところで、マルコが安全に長距離を旅行できたのはなぜでしょうか。彼が通過した地域は当時「元」の領土でした。「元」は西アジアの黒海沿岸地域から中央アジアを経て東アジアの朝鮮半島までを含む大帝国であり、ユーラシア大陸史上最大でした。約8,000 km にわたる「モンゴル帝国」を安全に通過できたのは、支配者フビライ・ハーンの手厚い保護を受けることができたからです。マルコ・ポーロが歩いた道をすべて体験するのは、未知の探検のような楽しさがありそうです。また、異民族の歴史や風習にも興味が出るでしょう。ただ、これはバーチャル旅行なので長時間楽しめても運動不足は避けられません。コロナ禍の運動不足は寅年のリアルワールドで解消してください。