2022/1
No.1551. 巻頭言 2. 聴覚保護具の遮音性能測定に関する規格 3. 航跡観測システムR-TRACKのご紹介
<技術報告>
航跡観測システムR-TRACKのご紹介
リオン株式会社 S&V エンジニアリング課 廻 田 恵 司
1.はじめに
COVID-19の影響で航空機の往来が減少している現状ではあるが、航空機の運用は経済を支える欠かせないものである。そのため飛行場騒音・航空機騒音は環境課題 として存在し、現在も苦情の原因となっている。技術発展とともに航空機の静音化が進み、低騒音機の導入が実施され、飛行場周辺で観測される航空機騒音レベルが下 がっている。この問題に対する関係者の40 年以上の長 い取組は騒音低減に寄与しているが、航空機騒音に対する苦情はなくならないのも実状である。例えば1日当たりの騒音暴露量で比較したとき、自動車騒音や生活騒音よりも航空機騒音が小さな曝露量であっても苦情が生じている。つまり、騒音の大きさや件数の問題ではなく、空港運用、飛行状況を含めた情報の共有、理解を目指すべき状況ではないかと考えている。
そこで、当社では、正確な航空機騒音の測定を実現することと、空港・航空機の運用状況を分かりやすくステークホルダーで共有できるシステム構築を目指し、新しい航跡観測システムR-TRACKを開発した。2.航跡観測システムの概要
当社の航跡観測システムは、主として航跡観測装置と 航跡データ処理システムとで構成される。航跡観測装置は飛行場周辺や、広域の航跡を観測できる見通しの良い場所などに設置され、ネットワーク経由で、航跡データ処理システムにデータを常時送信する。その分析結果はリアルタイムで航跡表示することができる。
リアルタイム航跡表示による動的分析(図1左)、重ね書き航跡図で静的分析(図1右)、PSSR/ADS-B 方式を 用いたハイブリッド航跡観測方式で網羅的な観測を実現、 騒音監視システムとの連携できることが特徴である。
図1 航跡観測システムR-TRACK の画面例3.航跡観測方式の統合
当社ではPSSR 方式航跡観測とADS-B 受信を統合し たハイブリッド方式ですべての航空機の位置を観測でき るようにした。
当社はPSSR(Passive Secondary Surveillance Radar)方 式の航跡観測システムを開発して(電子航法研究所と空港支援機構と共同開発)納入した実績がある。この手法 は、管制レーダーの質問電波と航空機に搭載されたトランスポンダの応答電波を受信することから航空機の位置 を計測する手法であり、自ら質問電波を発出しないため Passive のP を冠してPSSR と称している。この方式では Mode A/C という質問波、応答波を観測しており、すべ ての航空機の位置を観測することができる。また、受信 装置が最小1地点で観測可能であり、システム構築が容易で、保守の負担が小さい長所もある。マルチラテレー ション(MLAT)という航跡観測手法もあるが、同時に3地点以上の装置で航空機の電波を受信できる環境を維持しなければ観測できないため、運用や保守の負荷が大きい。
また、ADS-B(Automatic Dependent Surveillance- Broadcast)という航空機に搭載されたGPS情報を航空 機が放送する電波を受信して航空機の位置を把握する仕組みを新たに採用した。ADS-B はGPS による位置情報であるため、PSSR に比べて位置精度が良いというメ リットがある。欧米ではADS-B を航空機に到来する義務があるため日本に飛来する国際線ではADS-B を搭載 している航空機が多いが、日本の国内線ではADS-B 非 搭載の航空機が飛行している。そのため、ADS-B で全航空機を網羅することができない。
そこでPSSR とADS-B を同時に観測して、すべての航空機位置を観測できるようにした(図2,図3)。
図2 航跡観測装置設置概観 図3 アンテナ部の説明4.航跡観測データ処理
航跡観測装置で観測された各航空機の位置情報はネッ トワークを経由してリアルタイムに航跡データ処理シス テムにアップロードされる。データ処理システムでは 個々の航空機の位置情報を時系列データとしてまとめ、 気圧高度補正を行い、GIS を利用したWEB 画面上に航跡をアニメーション表示(図1の左図)することができる。さらに、次のような航跡分析機能がある。・ 離着陸空港、滑走路、時刻の自動検出
・ ゴーアラウンドの検出、リバーサルの検出
・ PSSR とADS-B の情報統合
・ 騒音と航跡との照合
・ 接近検出
・ 航跡リスト生成 (離着陸時刻、滑走路、機種などの実績リスト)
・ CSV、KMLデータ出力機能網羅的に航跡観測を実施するため、PSSRで観測された航跡とADS-B で観測された航跡とを自動比較している。一致する航跡がある場合はADS-B 情報を優先採用し、PSSR でしか観測できない場合は、PSSR 情報を採用する。これらの情報の相互比較を自動的に行っている。図4は羽田空港から35 km 離れた地点で観測した離陸の航跡図である(赤:ADS-B、青:PSSR)。
図4 同一機のPSSR/ADS-B の航跡比較航跡アニメーション画面は、騒音とともに表示させることで空港運用の実態を理解しやすいものにできるため、地域社会との相互理解に役立つものと考える。騒音と航跡との照合機能およびその他の機能は、正確な騒音測定を実現するために役立つものである。
今後も個別の状況に応じた航跡観測ができるよう観測技術の向上、情報処理技術の向上に努めていきたい。