2016/4
No.1321. 巻頭言 2. 多段階式空間音響シミュレーションと 小型6ch マイクロホンの開発 3. 竹の楽器 4. プレシアⅡシリーズ
<骨董品シリーズ その98>
竹 の 楽 器
理事長 山 下 充 康ジャワで買い求めた竹の楽器を2点紹介させていただく。一つは竹で造られたシロホン(xylophone:木琴)である。叩くと乾いた竹の音がする(図1)。
石板でも鉄片でも叩けば音が出る(骨董品シリーズその77「カンカン石」本紙No.111 (2011/1) )。音の出る メカニズムは単純なので、様々な材料で造られたシロホンが世界各地に存在している。音階になるよう長さを調節した木片や石片を並べてマレットで叩く(その75「マ レット:撞木」本紙No.109 (2010/7))。叩かれた衝撃で材料が振動して音を放射するため、振動を妨げないように材料を紐で吊ったり、柔らかなスポンジのようなもの で固定したりするのが普通である。一例として図に示したのはタイのシロホンで、これは硬い木の板を並べて紐で吊るしてある(図2)。
バリ島のガムラン音楽で使われる打楽器を図に示した。長短の金属片が紐で吊るされている。放射される音色は甲高く素朴である。多人数でこれを叩くとガムラン音楽に特有の響きを構成する(図3)。
図1 インドネシアの竹製打楽器「リンディック」
図2 タイの木琴「ラナート」
図3 バリ島のガムラン楽器「ガンサ」と演奏風景
右手に持ったハンマー状のマレットで鍵盤を叩き、左手で叩いた鍵を押さえて余韻を調節する
もう一つの竹の楽器は、同じくガムラン音楽で使われる楽器で「アンクルン」と呼ばれるものである。支柱の竹に色とりどりの羽飾りが付けられていて、雰囲気はいかにも南方の楽器である(図4左)。買い求めたものは 飾りが付いていないが、Cから次のCまでの1オクターブ8音が組になっていて、揺するとカラカラと乾いた竹の音がする(同右)。構造は単純で、長短複数の竹筒が組み合わされている。それぞれの竹筒の下の部分が別の竹の溝に緩く嵌めこまれていて、振動によりこの部分が溝の中で当たって音を放射する。
図4 アンクルン
縦の竹筒が各々上部一点で軽く固定してあり、左右に揺らすと下部の竹筒に接触してカラカラと鳴る
右は音響科学博物館所蔵のアンクルンで、8音1組で構成されている
図5 アボリジニの伝統楽器「ディジュリドゥ」
竹のシロホンもアンクルンも音を放射する部分は竹の節を利用して好ましい音で鳴るように工夫されている。素朴で手作りの音が響き渡る。
竹の楽器でまず思い当たるのは「尺八」や「篠笛」といった管楽器であろう。古来、アジア人とって竹は身近で加工も容易なことから、様々な管楽器に利用されてきた。節を取り除いた長短の竹筒の口をスリッパなどでポンポンと叩いて音を奏でるような楽器も考案されている。他の地域に目を向けると、例えばオーストラリアにはアボリジニに伝わる楽器「ディジュリドゥ」があるが、 これはユーカリの木の中心部を白アリに食わせて長い筒状に加工している。もし竹がより身近な存在であれば、また違った楽器が誕生していたかも知れない(図5)。今回はこの種の管楽器を避け、形の珍しい「竹の楽器」を 紹介させていただいた。