2014/1
No.1231. 巻頭言 2. inter-noise 2013 3. 17th workshop of the Aeroacoustics Specialists’ Committee of CEAS 4. はかり・天秤(重さを計る)
5. 誘発反応検査装置 Integrity V500 ER-H1 <会議報告>
inter-noise 2013
inter-noise 2013(第42 回国際騒音制御工学会議)は 9月15 日(日)〜 18 日(水)の間、オーストリアのインスブルックで開催された。会場は旧市街に隣接するインスブルック国際会議場であった。小林理研からは山本の他 に、吉村、平尾、牧野、横田、中森、豊田の合計7名が出席した。
私は1日早く現地入りし、14 日(土)の早朝から開かれたCSC 会議(Congress Selection Committee)に出席した。この会議は3年先のinter-noise開催地を選定す る役割を担っており、2016 年はドイツのハンブルグが会場となることが決まった。
翌15日(日)は、W. Lang氏が主宰するNCPP (I-INCE Noise Control Policy Panel) 会議、I-INCE 総会に出席した。これらの会議は国際会議場から徒歩5分のHotel Grauer Bar の会議室を使って行われた。その後、国際会議場に移動して、inter-noise 2013の開会式に出席した。 開会式はブラスの演奏から始まり、実行委員長の Werner Talasch 氏他の歓迎の挨拶につづいてGilles Daigle 氏から引き継いだI-INCE新会長 Joachim Scheuren 氏が開会宣言を行った。
この後、特別講演に入った。この講演はMarion Burgess 氏が担当し“Community noise management and control: successes and challenges”と題する発表を行った。この発表では、EU の騒音政策の次にどのような政策が必要であるかを示唆したものであった。続いて、同じ会議場のロビーで恒例の歓迎レセプションが催された。レセプションには多くの人が参加し、かなりの混雑であった。
翌16 日(月)から、12 の会場に分かれて分野ごとのテクニカルセッションが開始された。今回の会議のテーマ は“Noise Control for Quality of Life”であり、主な発表分野として通常の環境騒音の他、自動車騒音関係、鉄道騒音関係、航空機騒音関係、機械騒音関係、建築音響関係、振動関係などに加え、騒音と健康問題、風力発電騒音(再生可能エネルギー関係)が取り上げられた。と りわけ、建築音響関係は発表件数が多かったように思われた。今回のプログラムではコーヒーブレークがなく、 基調講演もセッションの途中で切れ目なく実施されるという窮屈さがあった。そんな中、JR東日本の栗田氏による基調講演では、新幹線鉄道の騒音低減対策の苦労話 が披露され注目を受けていた。
一方、機器展示は会議2日目の16 日(月)の夕刻から 開始された。53 のブースで音響計測システムやソフトウェアの展示が行われた。
最終日、18 日(水)の夕刻よりvon Estorff Otto 氏に よる特別講演があり、引き続き閉会式に移った。実行委員長のWerner Talasch氏の発表によれば、今回の参加登録者数は1,332名であった。参加国は40か国以上とされ、国別では参加登録者の多い順にドイツ、日本、オー ストリア、フランス、中国、スウェーデン、英国、韓国、 米国、イタリア、オランダ、ベルギーの順であった。ただし、国別の参加者数は発表されなかったが、ドイツは 約170 名、日本は約150 名と推定される(円グラフからの目視による)。一方、論文数は800 件と発表された。
閉会式に続いて来年のinter-noise 2014 の開催地オーストラリアのメルボルンがプレゼンを行い、この後、参加者はワインを片手に再会を約束し合って別れた。
(所長 山本貢平)
図1 会場のCongress Innsbruck
背後には雪山が広がる
図2 オープニングセレモニーinter-noiseを含めて国際学会で発表したのは、これが8度目であった。ところが、ヨーロッパ大陸での学会に参加するのは、初めてであることに成田出発の時に気づ いた。成田から西(本当は、ほぼ北)へ飛ぶのも約10年ぶりであったため、時差ボケにならない方法を思い出すことが一番重要な最初の仕事であった。10 時間を超え るフライトの度に思うのは、「アンカレッジ経由のころはよかったなー。あのころはタバコも吸えたし」である。よくよく考えると、長旅がいやでヨーロッパを避けていたのかもしれない。そんなこんなで、身体はこちこちにはなったが、なんとか時差ボケにはならず、4日間の会議を楽しむことができた。
自身の発表は、最終日であったことから、それまでは いろいろなセッションを聴くことができた。ヨーロッパ、中でもドイツ語圏には多くの自動車メーカーの研究開発機関があることからレシプロエンジン車だけでなく、ハイブリッドカーや電気自動車の車室内の音に関連した講演が目を引いた。ある超高級スポーツカーメー カーの開発者の講演では、6,000 cc を超える排気量(なんと500 PS 超、最高速度は300 km/h に迫る)の車にもかかわらず、車室内の音によるアノイアンスを左右するのは、エンジン音ではなくトランスミッションとドライブライン(プロペラシャフト、ディファレンシャルギヤおよびドライブシャフト)が発する音、英語では“whine”(発音は“(h)wάIn”または“wάIn”、私にはお酒のワインと聴こえた。意味は、「すすり泣きの声」)なのだそうだ。音自体を小さくするのには限界があるらしく、マスキングによってアノイアンスを低下させることを研究していた。話は変わるが、帰りの飛行機から見たフランクフルト空港周辺のアウトバーンは、片側5車線であった。確かに巡航速度200 km/hで長時間走るためには、500 馬力のエンジンとそれを支える駆動系が必要なのかもしれない。日本では考えられないが、一度車内で実際の音を体験してみたいものである。
対照的に、ほとんど音を出さないモーターで走る電気自動車の車内音で問題となっているのは、なんとこちら もドライブラインからの音なのだそうだ。レシプロエン ジン車のようにエンジン音でマスキングするわけにもいかず、ドイツの大学と自動車メーカーとの共同研究では、なんとか音を小さく、加えて気にならない音質にすることを目標にしているとのことであった。3次元スキャンができるレーザー振動計を3台使って無響室内でトラン スミッションの振動と音を計測し、音源の同定とその対策例を報告していた。一方は大排気量エンジンのスーパーカー、他方は最先端エコカー、両極にありながらどちらも同じ悩みを抱えているとは少し滑稽でもある。
私の発表はというと、戸建て住宅を地盤から加振し、振動特性を調査するための加振器の開発と2階建て木質系および鉄骨系住宅での実施例についてであった。公演中に、「スライドを切り替えるたびにカメラを向ける青年がいるなー」と思っていたら、彼から「加振器は家の中に置いたのか」という質問がきた。「写真を撮る暇があったらスライドをよく観てなさい」といいたいところではあったが、実験系列のスライド(1階と周辺の見取り図)を見せて、「ほら、地盤でしょ」と答えた。なぜそんな誤解を招いたのか、講演終了の30 秒後に気付いた。ヨーロッパ諸国では、日本でいう1階(First floor) は、2階のことである。すなわち、1階とその周辺の見取り図には“Ground floor”、2階の間取り図に“First floor”と書くべきだったのである。学生のころ、ロンドンで痛い思いをした。エレベータを1階で降りたにもかかわらず、出口が無い。関係のないオフィスフロアをうろうろとしばらく歩き回って怪しまれたことを思い出した。“G”または“0”のボタンを押さなければならなかっ たのである。「郷に入れば郷に従え」、知っていたのにもかかわらず、なぜ気づかなかったのか、悔しい思いが残ったインスブルックであった。
(補聴器研究室/騒音振動研究室 平尾善裕)
図3 インスブルック凱旋門
私は2009 年のカナダ トロント以来、4年ぶりのインターノイズで、初めての欧州であった。成田空港には打合せや現地調査などで度々お邪魔しているが、搭乗したのは久しぶりで新鮮な経験であった。
inter-noise2013では航空機騒音に関連したStructured Sessions(SS)が4つ設けられ、一つの会場で連続して二日間、合計39 の講演が行われた。航空機騒音に関しては例年だと日欧米の講演が多いのだが、今回は米国の講演が少なく、欧州の講演件数が多かった。特に欧州9か国の共同研究プロジェクトであるCOSMA(Community Oriented Solutions to Minimise aircraft noise Annoyance) の関連の発表が5件行われていた。なお、inter-noise の翌日にインスブルック市内でCOSMA のWorkshop が 開催されていた。日程の都合でこのWorkshopには参加することができなかったのは残念であった。
以下に航空機騒音関連の4つのSS の概要を示す。
SS11 Aircraft Noise Modeling - from the individual Aircraft to the Airport Scenario
航空機騒音予測に関するセッション。講演件数は日本7件、欧州7件(うちCOSMA 関連が2件)。セッションオーガナイザは空環協の山田氏とドイツのUllrich氏。COSMAの関連もあり、欧州でシミュレーションモデルへの関心が高いようである。
SS12 Uncertainty of Aircraft Noise Measurements and Calculations
航空機騒音測定と予測計算の不確かさに関するセッション。講演件数は欧州5件。オランダのHebly氏の講演では高さ100m の気象タワーの上にスピーカを設置し、長期間に及ぶ上空からの伝搬実験の結果が紹介された。今回、当研究所の横田がSS11 で高度500m の係留気球に取り付けたスピーカからの伝搬実験の結果を報告したが、同様の実験であり参考になった。
SS13 Aircraft Noise Effects
航空機騒音の影響に関するセッション。講演件数は欧州9件(うちCOSMA 関連が3件)、アフリカ1件、タイ1件(空環協 山田氏、熊本大 矢野先生と共著)。
SS14 Aircraft Noise Management and Mitigation Measures
航空機騒音の管理に関するセッション。講演件数は日本1件、欧州6件、米国1件、台湾1件。台湾のHsieh氏の講演では衝撃的で低周波数帯域の強いヘリコプタ騒音の評価方法について紹介された。砲撃音の評価方法とも似た考え方で参考になった。
私の発表はSS11 の航空機騒音の予測に関するセッションで、飛行中の航空機騒音の音源特性について行った。発表会場は全体で2番目に大きなHall Innsbruck (定員300 人!)で、初日の朝一番(8:20)だったので、 緊張する間もなく発表時間が過ぎていった。聴衆からいくつかの質問をいただいたのだが、例のごとく英語力の無さを露呈して、座長の山田氏から助け船を出していただき、時間を終わらせるという始末であった。まだまだ精進が必要だと痛感した。
ここで、学会とは関係の無い話題を。航空便の関係で、往路はオーストリア航空で成田−ウィーン(機種はB777)、ウィーン−インスブルック(F100)、帰路はルフ トハンザ航空でインスブルック−フランクフルト (Q400)、フランクフルト−成田(A380)とすべて異なる路線と運航機種であった。ウィーンからの乗り継ぎで乗ったF100(Fokker 100)は国内ではお目にかかれない航空機で、テイルマウント双発ジェット機でサイズの小さなMD-81といった感じであった。また、フランクフル トからの帰路は総2階建てで大型のA380であったが、想像通りの機内の広さと安定した飛行であった。A380は満席であったこともあり、成田到着時に荷物がなかなか出てこなかった。大きすぎるというのも考え物である。
また、今回降り立った3空港はそれぞれ風情が違ってい て、ウィーンは北海道の大きな空港のよう、フランクフルトは航空機整備の大規模な施設(Lufthansa Technik)もあり巨大な空港という印象だった。時間が許せば各空港の周りを見て回りたかった。
インスブルック空港は近くまで山が迫っているローカル空港で、市街地のすぐ西側に位置し、離着陸時は旧市街の真上を低空で飛行(図4参照)していた。離着陸時の窓からの眺めは最高であった。
(騒音振動研究室 牧野康一)
図4 インスブルック旧市街上空を通り着陸する旅客機
3日間Grenobleというレクチャールームで床衝撃音、遮音、木造構造物の固体音といったテーマを聞いた。私は初日の午後、impact sound のセッションで“小走り模擬衝撃源”について発表した。これは裸足で生活する日本のような国独特の問題であるので馴染みがないのかと心配であったが、直前(ドイツ人)に歩行衝撃力についての発表があり、衝撃力特性などの検討課題が共通であった。特にかかとからつま先の蹴り上げまでの時系列波形は、歩行と小走りの違いはあるが、かかとの衝撃が重要である点などは私の内容と一致していたので非常に助かった。質疑応答に限らず、今回は全体を通して英語に対する“耳”が劣化していた。2つ目の質問(ゴムボー ルと小走り衝撃源の使用目的や違いについて)に答えられず、発表後フォローしに行ったが、やはりうまく説明できなかった。日頃いろいろな人種の英語を聞いて“なまり”に耳を慣らしておかないと、聞き取れない人の言葉はいくら注意して聞いても駄目なのだということに気付かされ、深く反省した。
小サイズの標準床(80 cm×120 cm程度)を用いた床仕上げ材の振動低減量の測定に関する発表も2件あった。 この方法により軽量床衝撃音レベル低減量に相当する測定結果が得られ、コンクリート標準床を用いた測定方法のISO/DIS 16251-1が現在審議中である。日本の場合は、これに適用できる“コンクリートスラブに直張りする床仕上げ材”の試験はあまり盛んではないが、part 2 として検討中の木造標準床による方法は、公共建築木材促進法や災害復興住宅などの政策もあることから、床面積が大きな建物の場合、手軽に床仕上げ材の選定が出来るので需要があるのではと感じた。昨年作製したコンクリー トパネルを用いて、これらの結果を参考に検討を進めて行きたい。
多くの講演の中で“rubber ball”“Japanese ball”と いうワードがよく聞かれた。欧米でも木構造を採用するケースが多く、コンクリートや組積造に比べて軽いため低周波数の性能が低下してしまう。タッピングマシンでは、低い周波数成分が少ないため、ゴムボールを用いた 測定や予測が行われている。ISOにも標準衝撃源として現場の床衝撃音レベルの測定方法に導入される予定である。日本建築学会規準(AIJES)でもゴムボールが主体となる方向なので、ゴムボールに関する校正方法から測定の留意点まで、さらなる整備が必要と考えられる。
(建築音響研究室 中森俊介)日本は9月というとまだ残暑が厳しかったが、訪れたインスブルックは涼しいというよりもう冬の寒さだった。山が近いせいか変わりやすい天候であったが、蒸し暑い毎日に嫌気がさしていたこともあり、ピリッとした空気と落ち着いた街並みが心地良かった。もともと個人的には冬は好きな季節だが、仕事的には毎年ちょっと憂鬱になる問題がある。実はそれが、今回の自分の発表テーマであった残響室法吸音率測定と関係あるのだ。
一般的に、残響室法吸音率の測定結果は空気吸収の影響を受けやすいことが知られているが、その影響は気温が低い時に顕著である。そのため冬は、測定精度を保つために、温湿度変化に非常に神経を使うので憂鬱なのである。発表では、継続的に観測している当研究所の残響室の温湿度の推移や、測定精度を保つための工夫を実験的に検討した結果などについて報告した。4度目の国際学会発表にして相変わらず緊張していた割には順調にこなすことができたのだが、残念だったのは聴講者が極端に少なかったことである。直前の2件が続けてキャンセルだったため、40分の空き時間ができてしまい、また運悪く私の発表後はちょうどランチタイムであったため、多くの人が会場からいなくなってしまったのだ。そんな中、残って発表を聞いて下さった方々には本当に感謝している。また、発表後にはたくさんの方に話しかけて頂 いた。海外の実験室事情等について聞くことができ、大変貴重な経験であった。
発表が終わってからは緊張から解放され、やっと他の発表を集中して聞くことができた。私の参加した、建築音響関係の主なセッションは、“Building Acoustic Properties, Regulations and Comfort Classes” “Measurements in Room and Building acoustics” “Lightweight Constructions and Systems”“Room Acoustics” 等であり、これらが隣同士の会場で平行して進行していたので、常に荷物を抱えて右往左往していた。中でも面白いと思ったのは、ロックウールの天井材を低域で吸音するように最適化する研究だ。日本でも、岩綿吸音板は天井吸音を目的として良く用いられる材料であるが、この研究では、ロックウール板の表面や背面に多孔質な薄 い材料をとりつけたり、ロックウールを孔あき板に加工したりして、数値計算と実験でパラメトリックに検討を行なっていた。背後空気層を大きくすることなく低音域で高い吸音性能を実現できれば、非常に有用であると思った。国内では、快適な音環境づくりのために吸音材料の需要が更に高まりつつあるので、今後も音響材料の開発に関する発表には注目していきたい。今回、“Materials for Noise and Vibration Control”のセッション が、会場が離れていたため聞きに行くことができなかったのは非常に残念であった。
(建築音響研究室 豊田恵美)
図5 クロージングセレモニー