2007/10
No.98
1. 音に心を 2. inter-noise2007 3. コオロギ容れ

4. 第29回ピエゾサロン

  5. オージオメータ AA-74
 
 inter-noise 2007

山 本 貢 平、吉 村 純 一、松 本 敏 雄、
廣 江 正 明、大久保 朝直、中 森 俊 介

 今回が第36回目となるinter-noise 2007(国際騒音制御工学会議)は、2007年8月28日から31日の4日間にわたって、トルコ共和国のイスタンブールで開催された。この会議には小林理研から山本,加来,吉村,松本,広江,大久保,中森,横田の計8名が参加した。発表会場はイスタンブール新市街の小高い丘の上にあるコンベンションセンター(ICEC: Istanbul Convention and Exhibition Center)であった。

 会議は28日午後のオープニングセレモニから始まった。まず、大会委員長のH. Temel Belek氏が歓迎の挨拶を述べ、I-INCE(国際騒音制御工学会)会長の橘 秀樹氏が会議の開会宣言を行った。続いて,元I-INCE会長のBill Lang氏が基調講演を行った。この基調講演でLang氏は、I-INCEが現在取り組んでいる国際的な騒音制御政策への取り組みについて述べ、騒音制御技術者の意識改革とその取り組みが、騒音政策の世界的な進歩に大いに役立つであろうとの趣旨を力説した。その後、トルコの民俗音楽を現代風にアレンジした音楽が披露され、続いて展示会場でワインによるレセプションが行われ、その日の予定は終了した。

 翌日から3日間は,朝8:30からの基調講演に続いて12の会場でテーマ別の研究発表が行われた。基調講演は、29日にJ. H. Rindel氏による建築物の遮音、30日にH. Fastle氏による心理音響と音楽、31日にD. Ewins氏によるモーダル解析の歴史をそれぞれテーマとした興味深い話が行われた。一方、研究発表は毎回広範囲の分野から論文が出されているが、今回少し目に付いたものとして騒音地図に関するプレゼンが多数あった。これは2002年のEU騒音指令(END)で、各国が騒音政策のために騒音マップを作成することが義務付けられたからであると考えられる。その他、交通騒音,機械騒音,騒音対策技術,心理・生理・影響評価,計測なども従来どおり多くの発表があった。そのほかワークショップとしてGlobal Noise Policyをテーマとしたものがあり、各国のNGOの活動、発展途上国の騒音事情などが披露されていた。

 私は、このインターノイズに先立って開かれた会議の幾つかにも出席した。27日には空港環境整備協会の山田一郎氏と共に、CSC (Congress Selection Committee) の会議に出席し、2011年のインターノイズ開催を大阪に誘致するためのプレゼンを行った。また、28日午前中にはI-INCEのTSG#7 (Harmonization and Implementation of Global Noise Policies)の会議、その午後にはI-INCE総会に出席した。  最終日31日の夕刻にクロージングセレモニが開かれ、大会委員長より今回の参加者数等の集計結果が発表された。それによれば、48カ国から770人の参加登録者、79人の同伴者、52の展示社があり、合計901名の参加者数であったとしている。また、講演論文数は531件、ポスター発表が64件の計595件が発表されたとしている。  最後に、来年秋に開催されるinter-noise 2008の実行委員長から、会場となる上海の紹介があって、全ての催しが終了した。  (所長 山本貢平)
発表会場
(Istanbul Convention and Exhibition Center)

 

 会期の前後にISOのワーキングが予定されていたため、吉村は皆と別に飛行機、別なホテルを予約していた。結局、前日に開催されるISO/TC 43/SC 2/WG 18/AHG 3の会議のみに参加するため、ヒースロー空港で両替した高いトルコリラを使い「夜中でもタクシーなら安全」を頼りに、1時過ぎにホテルに入った。翌朝9時からの会議のためにホテルから5分の会場まで20分かけて到着、会場の入り口ではセキュリティチェック、予約されていたはずの会議室は会場係には伝わっておらず、メンバーが集まり始めてから会議室の交渉となるなど、予想通りの展開で会期は始まった。

 AHG 3では、ISO 140シリーズの再編について審議している。会議の流れにただ一カ国水を差している日本に対し、相当の嫌みを覚悟していたが、言葉のままならない吉村に対し比較的穏やかに接してくれた。再会するのはほぼ1年ぶりではあるが、みなさん私の顔を覚えてくれているのはうれしい。

 インターノイズ初日は連名者の発表、二日目の午後は知り合いの発表、そして三日目の自分の発表と、吉村はBuilding Acoustics(建築音響)の会場に入り浸りであった。セッションオーガナイザーであるNightingale氏の影響もあり、床衝撃音の発表、特に木造床の伝搬解析、EN 12354関係の発表が多い。セッション全体を通して、オーガナイザーの影響がつよい。発表内容にかかわらずInvitedの5編がはじめに、残りのContributedは順不同、発表順の脈略は一切考えられていない。ICA京都やinter-noiseハワイのプログラム編成で、セッション編成と発表順であれこれ悩んだようなきめの細かい配慮はない。

 吉村の発表は、最終日の本セッションの最後であった。昼食前の時間帯であったこともあり、直前の発表がキャンセルとなったとたん聴衆は半減してしまった。今回は一応出発前に原稿を作って出かけてきたものの、発表当日の朝に練習してみると、約1分オーバー。発表しながら時計とにらめっこし、ばっさりスライド1ページを削り「そろそろまとめてね」と言われずに済んだ。質問は顔見知りの人からで、会場の音響設備、口の中でもごもご言う質問者、大事なときに咳払いをした人などの所為にはしたくないが、よく聞き取れなかった。そこで、前もって考えていた台詞を関係ありそうにべらべらとまくし立てた。

 あとで、私の答えでよかったかと質問した本人に聞くと、いや違っていた、とのことであった。でも、おまえの話には興味がある、日本語でもいいから論文にまとめたのがあったら送ってほしいとのこと。ガラスの研究で有名なQuirt氏もセッションが終わってからわざわざ私のところにきて「論文にしたのはないのか」。口頭発表も大事だが、論文にまとめておく必要性を痛感した。

 Nightingale氏が君のをInvitedにしなくてごめんねといいにきてくださった。「いやー、結果が思わしくなくハワイの発表の焼き直しになってしまったし、delayed paperだし」あっ、発表順は原稿の到着順か。 (建築音響第二研究室室長 吉村純一)

 

 韓国・済州島で開催されたinter-noise 2003以来、4年振りにinter-noise 2007へ参加した。私の発表は2日目の午後の“Noise Barrier 2”のセッションで、そのトップバッターであった。今回は、遮音壁ではなく半地下道路の騒音対策に利用される吸音ルーバーの遮音性能の予測方法について実験と数値解析によって検討した結果を報告した。質問を二つ受けたが、一つ目は共著者が代わりに答え、二つ目はしどろもどろで答えはしたが、席に戻ってから質問の本当の意味を理解し、的外れの答えをしてしまったと反省した。以前ほどは緊張していないと思っていたが、どうやら錯覚だったようである。

 自分の発表以外では、幹事を務めている道路交通騒音の委員会での検討に参考となる騒音マップに関連する“Environmental Noise and Vibration Management and Mapping”のセッションを聞いた。このセッションは1日目の午前、午後の前半、2日目の午前、3日目の午後の前半と4つ設けられ、29件の発表があった(幾つかキャンセルもあったが)。他にも、“Transposition and Implementation of the END in Eastern European Countries”が1日目の午後の後半、“Noise Mapping and Action Planning in Turkey”が2日目の午前にあり、併せると騒音マップに関連する発表が40件に上り、欧州での注目度が伺えた。現在、EUでは2002年に欧州議会と理事会から出された指令Directive 2002/49/EC (Environmental Noise Directive/END)を達成するために実施されたHARMONOISEとIMAGINEの両プロジェクトが終了し、EU各国の騒音マップがちょうど出来上がった時期であった。そのため内容の多くは、出来上がったばかりの騒音マップの紹介とその結果の市民への開示方法、来年度までに実施予定のアクションプランに向けての展望であった。

 最後に、イスタンブールの道路交通騒音について一言。騒音について云々する前に運転マナーに問題がありそうである。制限速度はあってないようなもので、誰もがクラクションを鳴らし、隙あれば左右どちらからでも追い抜きをする。ボスポラス海峡を渡りアジア側へと延びる高速道路(ETCのようなゲートはあったが遮音壁を目にすることはなかった)も遅い車へのクラクションは当たり前であった。道路交通騒音はよく変動騒音の典型的なものとして参考書などで紹介されるが、イスタンブールで観測される道路交通騒音は除外できないほど多数の衝撃音(クラクション)を含む変動騒音のようである。次のinter-noise 2008は上海で開催される。経済成長が著しい中国では一体どのような道路交通騒音が観測されるのか興味は尽きない。 (騒音振動第一研究室 松本敏雄)


ボスポラス海峡から見たドルマバフチェ宮殿

 

 防音壁に関するセッション“Noise Barriers”は8月30日(木)に100名程度が入れる広さの“Dolmabahce(ドルマバフチェ) B”会場で開かれ、研究所から松本、大久保と私の3人が発表した。自身の発表の出来は時間厳守できたことが唯一の救いで、3つも質問を受けながら、いずれも的確な回答は出来ず反省しきりであった。さて、私自身、今回が久々の国際会議ということもあり、“Noise Barriers”以外に“Railway Noise Emission”、“Dose-response relationship and source response comparisons (air-road-rail)”、“Airport Noise and the Local Community”などのセッションに積極的に参加した。その中から印象に残った報告を紹介する。

 “Dose-response relationship and source response comparisons (air-road-rail)”より:周知のようにEUではLdenLnightを騒音の評価指標する施策を推進しているが、今学会でもHenk M. E. Miedema (TNO)らが道路・航空機・鉄道の複合騒音に対するannoyanceを騒音レベルLden,T (航空機・鉄道の各騒音レベルLdenをannoyanceが等価な道路交通の騒音レベルre(Lden)で置換して求めた全騒音レベル)で表すモデルや、夜間の騒音レベルLnightで睡眠妨害の影響%HSD (percentage highly sleep disturbed)を表す関係式を紹介していて、EUではエネルギーベースの指標による影響評価の研究が着実に進んでいることを改めて感じた。ただ、Alexander Samel (DLR) & Barbara Griefahn (Dortmund University)らのように、昼間の評価指標はLAeqなどエネルギーベースの評価値が適当であるが、夜間は睡眠妨害の即時的な影響を考慮するならばLAmax(動特性はFastらしい)を考慮すべきという指摘もあり、エネルギーベースの騒音指標だけで評価を行うことへの疑問はまだあるようだ。また、矢野(熊本大学)やJaehwan Kim (Soul National University)らは、自国の社会調査結果から求めたLdenとannoyance、Lnightと%HSDの量−反応関係を報告していたが、それらはEUにおけるMiedemaらの調査結果と異なる点が多く、欧米の参加者から多くの質問やコメントを受けていた。ただ、アジア諸国の調査結果の間には共通点も多く、私はEUと異なる結果を生む何らかの要因があったのだと感じた。

 来年は上海でinter-noise2008が開催される。日本における同種の調査研究がより一層充実し、EUとの違いを議論するようになっていることを期待している。 (騒音振動第三研究室 廣江正明)

 

 ハワイで開催された前回に続き、2度目のinter-noiseに参加した。他のメンバーより2日遅れてイスタンブールへ移動した。一人で海外へ移動するのは初めてで緊張していたが、機内で偶然隣り合わせた東京外語大トルコ語専攻の学生さんにタクシー乗車までお付き合いいただき、無事にホテルへ到着できた。

 遮音壁に関するセッションが2日目の午前と午後に分けて開催され、計13件の発表があった。午前のセッションで、私は先端改良型遮音壁の性能評価法について前回の続報を発表した。発表後、質疑応答が活発に行なわれ、6件もの質問をいただいた。質問へはそれなりに回答したつもりだったが、あとあと考えると、一部の質問はそのとき考えた意味より突っ込んだ質問だったように思う。英語の聞き取りに精一杯で思いつかなかった。CEN/TSの同様の規格を策定したメンバーからはセッション終了後にもコメントをいただき、自分の研究内容に興味を持ってもらえたことに安心した。

 このセッションでは、私の発表の他に、先端改良型遮音壁の開発に関する発表がオランダとイギリスから2件あった。日本では以前から先端改良装置が普及しているが、欧州ではまだ着目され始めたという段階のように感じた。性能評価法の需要があるのではないかと思う。また、遮音壁背後の回折音ではなく、遮音壁前面の反射音の低減や予測に関する発表がフランスと香港から3件あった。いずれも道路沿いに建つ高層住宅への影響を検討対象としており、道路と住居の近接は日本だけの問題ではないようである。

 遮音壁以外には、欧州の騒音マップ作成に関する発表が数多くあった。HARMONOISEとIMAGINEの両プロジェクトにより規定された騒音予測計算法を実装したソフトウェアを作る上での問題点に関する発表があり、興味深かった。音源の配置や伝搬経路の設定などにおける一義的でない定義について、多くの例を挙げて説明していた。あいまいな定義を減らすには計算法を規定する文書を作成する時点でソフトウェア技術者を使え、という主張だった。日本国内のある騒音予測モデル構築に関わる私にも、耳の痛い話であった。音響的な精度だけでなく、計算の意図をユーザーに伝える文書の正確さも、予測モデルを構築する上で欠かせないことを痛感した。 (騒音振動第一研究室 大久保朝直)

 

 イスタンブール行きの機内では学会に参加する人が多く、私の隣も例外ではなかった。自動車の部品を作っている会社の方(株式会社セキソー、高尾氏)で成蹊大の橋本先生と研究をされているそうだ。発表は私と同じ初日の午後(Sound Qualityのセッション)で、後輩が海外で初めて発表するので共同研究者として付いてきたとのこと。私も今回初めてなので緊張していますと言いつつ、旅行ガイドの特集にあるボスフォラス海峡縦断クルージングの計画を立てていた。結局、高尾氏とはほぼ毎日会場等で顔を合わせた。

 発表は初日の午後のBuilding Acousticsのセッションだった。スタートをゆっくりペースで始めたため、途中でピッチを上げられず2分ぐらい時間をオーバーしたが、順番がセッションの最後で司会がNightingale氏ということもあり、問題はなかった。質問はフランスの方(C.T.B.A. 英名:Technical Center of Wood and Furniture, Kouyoumji氏)から床衝撃音レベル低減量の周波数特性が本来と違う(本当はもっといろいろおっしゃっていた)という意見があり、私が困っていると会場内で議論が始まり、収拾がつくまで取り残されてしまった。セッションの後、「今回示したのは相対値です。」と彼のところに経緯を説明に行き、フォローをしておいたが、もうちょっと発表のとき丁寧に説明しておけばよかったと反省した。周りの手助けもあり無事?に初めての海外発表を終えた。

 Building Acousticsのセッションは3日間に渡って設けられていたが、明確に分野分けされていなかったように感じた。全体に隣接する室の壁や床によるFlanking Transmissionの予測や木造床組みの振動予測計算などが多かった気がした。一方、日本人の発表は実測データが多く頭に入りやすかった。セッションオーガナイザーのNightingale氏もあなた達(小林理研)の発表内容はとても実用的だとおっしゃっていた。

 トルコは治安もよく、各地区に古く立派なモスクが多くみられ、美しい街だと感じた。悪い印象の残らなかった初の海外出張も最後に落とし穴があった。やはり生もの、魚には気を付けなければならなかった(結局、魚を食べた人のほとんどがおなかをこわした)。

 体調が最悪であった最終日の市内観光中は、山本所長に腰を擦ってもらい、歩けずに一人で座り込んでいたトプカプ宮殿では高尾氏の一行に声をかけてもらい、成蹊大の橋本先生に水を恵んで頂いた。ここにお詫びと感謝をいたします。 (建築音響第二研究室 中森俊介)      

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