2007/10
No.98
1. 音に心を 2. inter-noise2007 3. コオロギ容れ

4. 第29回ピエゾサロン

  5.オージオメータ AA-74
 
  オージオメータ AA-74

リオン株式会社 計測器技術部  中 島 龍 一

■ はじめに
 平成19年度の新製品AA-74は、大学病院ならびに総合病院向けの、2チャンネル・オールインワンタイプのオージオメータである。製品の位置づけとしては大学病院向けの最高級機種であるAA-78と、開業医向けのAA-79Sとの中間に位置する。  性能としては、JIS T1201-1:2000のタイプ3、およびJIS T1201-2:2000のタイプBに適合しており、標準純音聴力検査、SISI検査、ABLB検査、自記オージオメトリー、語音聴力検査といった検査を行うことができる。標準純音聴力検査および語音聴力検査時はブースト受話器の使用も可能である。また、スピーカ出力を1チャンネル有しており、音場で域値検査ならびに語音聴力検査を行うことができる。 標準純音聴力検査では、自動マスキング機能として自動プラトー法および固定マスキング法を搭載している。語音聴力検査では、57-Sおよび67-S語表音源を内蔵しており、CDプレーヤー等を接続せずに検査を行うことができる。また、トークオーバ、トークバックの両機能を備えており、オプションのマイクを接続することで、検者と被検者の間で双方向の通話が可能である。

 検査結果は、カラー液晶表示器による表示と内蔵の感熱プリンタによる印字のほか、RS-232-Cによりパソコン等へ出力することができる(図1)。
図1 オージオメータAA-74

 

■ 構造と性能
 図2にAA-74のブロック図を示す。制御部はCPU、ROM、RAM、各種ドライバIC等から構成され、語音データを書き込んだ語音ROMも搭載されている。語音ROMには、日本聴覚医学会が定める57-S語表と67-S語表の単音節語音および数字語音がメモリーされている。また、音場での域値検査ならびに語音聴力検査に対応するために、最大1Wのスピーカアンプを1チャンネル備えている。

 純音ならびに震音、スピーチノイズ、バンドノイズ、ホワイトノイズ等の音源は、いずれもDSPで生成されるため優れた周波数特性を示し、また掛算器回路によりリニアリティー精度の高い出力音を実現している。
図2 AA-74ブロック図
(図をクリックすると拡大図を表示します)

 

■ 原価低減、および設計期間の短縮
 本器の開発では、以下の点を重視した。

1.筐体の共通化
 AA-74の筐体には、既存製品のオージオメータAA-79Sと同じケースを使用した。これにより、新たに筐体の型を起こす必要がなくなり機構設計の金型費を大幅に抑えることができた。また、大きさに変更が生じなかったことで、包装材も共通化することができた。

2.プラットフォームの共通化
 プラットフォームについても、AA-79Sと共通化してソフトの新規開発部分を減らすことにより、開発期間の短縮および大幅なソフト開発費の削減ができた。また、AA-79Sと共通の機能が多かったため、ソフトデバッグの工数も短縮することができた。

■ 筐体の共通化に伴う機構部品の変更点
 AA-79Sの筐体を使用したことにより、必然的にシートスイッチの形状も同一となったため、キーの配置を変更する必要が生じた。AA-74は、AA-79Sに対して検査項目や機能が追加されるため、キー4個、レベルメータ表示1箇所が増える。これらを決められた空間に配置する必要があった。解決方法として、キー全体の大きさをAA-79Sよりも少し小さくし、バランス良く全体に配置することにした。

 また、モニターの音量調整や画面の明るさの調整などはボリュームを使用した方が使い勝手が良いが、筐体を共通化しているため割り当てることのできる数が限られてしまった。この点については、使用頻度が比較的低いと考えられる「トークバックの音量」と「画面の明るさ」をCPU制御で行うよう条件設定の中に移した(図3)。
図3 AA-74条件設定画面

 

 上記対応により、AA-79Sと同じ形状のシートスイッチに、追加した検査機能に対応するキーを配置することができた。なお、基本的なキー配置はAA-79Sと大幅に変更していないため、両方のオージオメータを備えた施設においても、違和感なく使用していただくことができると思われる。  また、既存製品であるAA-79Sのシートスイッチに関する意見、要望の反映、ならびに量産時の品質向上のために、金属ドームを廃しクリックエンボスを採用した。従来使用していたシートスイッチから構造を変更するにあたり、操作したときの押し心地やクリック感に違和感がないよう、様々な人に実際に操作してもらって印象を聞き、最適と思われる状態が得られるまで試作を繰り返した。  シートスイッチのカラーリングについては、AA-79Sとの差別化として上位機種のAA-78を連想させる配色を採用した(図4)。
図4 AA-74操作部

 

■ 改正薬事法への対応
 平成17年4月に改正薬事法が施行されたが、AA-74はオージオメータとしては改正薬事法に基づく最初の新規申請機種となった。医療機器であるオージオメータは、当然のことながら従来より薬事法に則って製造販売されてきたわけであるが、法改正によりその申請手順や各種規格への適合条件等が大きく変わった。

 新法下では、オージオメータを認証申請する場合、認証基準で引用しているJIS規格(JIS T1201-1:2000[純音オージオメータ]、JIS T1201-2:2000[語音聴覚検査に用いる機器]、JIS T0601-1:1999[医用電気機器の安全に関する一般的要求事項:安全性規格]、JIS T0601-1-2[電磁両立性:EMC規格])の適合が要求される。これらの規格に対しては、公的試験機関での委託試験と社内での確認作業に分けて適合確認を行ったが、特に安全性規格については主たるハードウエアおよびソフトウエアの設計に直接関係しない部分、たとえば温度ヒューズの溶断温度の表記など、細部に至るものであり、その確認作業にはかなりの時間を要した。

■ おわりに
 AA-74は、価格面においてAA-78は購入できないがAA-79S以上の機能を必要とする病院等を中心に、製品のニーズは多様にあると思われる。本器が、より多くの聴力検査の場で使用され、医療に貢献することを期待している。  

 

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