2005/10
No.90
1. 私の「イヤリング」

2. inter-noise 2005リオデジャネイロ報告

3. ロッセル塩によるクリスタルセンサ 4. 第25回ピエゾサロン 5. 防水型オーダーメイド補聴器HI-G4WE
      <会議報告>
 inter-noise 2005リオデジャネイロ報告

所 長 山 本 貢 平

 inter-noiseは今回が第34回目となり、初めて南米の地ブラジルで開催された。会議場はリオデジャネイロのコパカパーナ海岸に建つリゾートホテル・ソフィテルであった。小林理研から私と加来騒音振動第三研究室室長が参加した。
 さて、日本からブラジルへの旅は結構しんどかった。成田を発ったのが8月4日(木)の夕刻19:30であり、リオデジャネイロに到着したのは8月5日(金)の現地時間11:40であった。成田からリオまで2回の乗り継ぎ時間を加えておよそ28時間。その間、夕食を2度食べ、睡眠を2回とった。髭は伸び放題で服は汗臭い。空港からは、あらかじめ用意してもらったバスに乗り、恐ろしく治安が悪いと聞かされた旧市街を通り抜け、緊張しつつ海岸通りのホテルに到着した。ここは亜熱帯であり、8月は真冬であっても日中の気温は30度と夏の東京と変わらない。海岸に目をやると、日光浴や海水浴の人で賑わっている。一体この長閑な風景のどこが危険なのだろう?疑問に思いつつチェックインを済ませた。

Copacabana海岸とソフィテル(左端)

 一日休養をとって8月7日(日)はI-INCEの総会に出席。橘I-INCE会長が議長となり、議案の審議と採決が行われた。I-INCEの各種活動、特にTSG (Technical Study Group)の活発な活動の報告、今後の開催予定地などが次々に報告された。ちなみに2006年はハワイ、2007年はイスタンブールでinter-noiseが開催されるとのこと。総会に続いてオープニングセレモニーが行われ、開催国ブラジルのコングレスプレジデント、Samir N.Y. Gerges氏から歓迎の挨拶と会議運営スタッフの紹介があった。特別講演に続いてリオに発するサンバのリズムで歓迎の音楽が演奏され、参加者は強烈なリズムに魅了された。翌8月8日(月)から10日(水)までの3日間は、テーマごとの会場に分かれて各種の研究発表が行われた。今回の研究発表論文数は事前の発表では526件としている。一方、参加登録者数は891名、協力スタッフを加えると約1000名の規模であったことが会議終了時に発表されている。そのうち日本人参加者数は48名で第3位。いつもながら日本人参加者は大きな勢力となっているようだ。

inter-noise2005 発表会場

 まず第一日目は、Global Noise Policy - Second Annual Workshopに参加した。このWorkshopはI-INCEのTSG#5の会合であり、"Noise as a Global Policy Issue"というテーマで調査を行っている。このTSG#5は2001年より活動を行っており、昨年末に一つのDraft Report"A Global Approach to Nose Control Policy"を発表した。それは、職場騒音(Occupational noise)、社会騒音(Community noise)、消費者用製品騒音(Consumer product noise)について、国際的な騒音規制の必要性を述べ、さらにその規制のための国際的な取り組み方を提案している。この報告書に関してI-INCEは、全加盟団体に賛否の投票を求めた。その結果、14カ国から投票があり、12カ国が賛成、1カ国が棄権、1カ国が反対であったと報告された。ただし、賛成票を投じた団体から報告書に対する膨大な量の注文がついたため、関係者は頭を抱えているらしい。さて、このワークショップはUSAのWilliam W. Lang氏がリーダーを勤め、昨年以降の新しい情報や検討結果の報告が順次行われた。中でも、オランダのTjeer Ten Wolde氏の話は興味深い。健康影響の面からproduct noiseの中にheadphone stereoのような機器のほかに、ロックコンサートのような音楽会も含むべきという意見を述べた。日本でもロックコンサートの大音量が、聴覚上の障害につながるとの意見もあることを思い出した。また、イギリスのBernard F. Berry氏は機器の騒音ラベリングについて各国の取り組みを述べた。さらに、騒音規制に対するラベリングの効力について問いかけを行った。フランスのJean Tourret氏は開発途上国に対する騒音政策の啓蒙と政策が重要であるとの意見を述べた。しかし、なぜそれが重要であるのかという質問がフロアから出された。これに対して、インドや中国のような発展途上国の労働者の健康保護に重要なのだとの説明が行われた。午後もこのワークショップは続けられ、Global noise policyに関する多くの質問や討論が行われた。
 この日の午後の夕方には自分の発表を行った。発表のセッションは建築音響の分野である。今回は、曲率を持つ高分子材の低音に対する透過損失の発表を行った。内容としてレーザードップラ振動計を使って音響インピーダンスを計測し、その結果より低音の音響透過損失を推定するという話と、曲げを持たせた板は平板に比べて低周波音の透過損失が優れるという話を行った。このような話は建築音響分野には馴染まないと思っていたが、意外にも4人の聴衆からそれぞれ質問を受け、手法や理論に興味を持ってもらえたのには大いにうれしかった。
 研究発表の主な分野として目に付いたのは、交通騒音では、タイヤ・路面騒音、航空機騒音、鉄道騒音があり、環境騒音ではその評価・規制・政策、sound-scapeやsound-qualityなどが多かった。また、建築音響、機械騒音・振動、屋外伝搬、防音壁、能動制御、計算音響などのほか、聴覚保護や超音波分野の発表もこのinter-noiseには含まれていた。
 通常の研究発表のほかには、オープニングでのTor Kihlman氏の講演を含む6つの特別講演が行われた。また、先ほどのGlobal Noise Policyのほか、航空機騒音の騒音証明に関するWorkshop、TSG#2の会議、今年から名称がTechnical Divisionsと名前の変わった5つのグループの会議も行われた。3日間という短い期間にさまざまな会議が行われている。
 その他の催し物として特筆すべきはバンケットである。バンケットはソフィテルからバスに乗って20分ほどのPORCAO Rio Flamingo beach restaurantで開かれた。レストランの入り口から、Brazilian Caipirinha(カイピリーリャ)というサトウキビの酒Pinga(ピンガ)とライムで作った極めて強いカクテルを飲まされた。アルコール性難聴になった頃、今度は打楽器による強烈なサンバのリズムに全身曝露されて耳鳴りを覚えながら、それでいてその大音量に慣れっこになりながら、ひたすら肉を食うというスタイルである。誰かが「わんこ蕎麦」ならぬ「わんこ肉」だと表現した。大きな串に刺された肉の塊を、人をも殺せるような剣でスライスしながら客に配って回るのである。しかも食べきれぬほど次々に供給される。サンバのリズムが最高潮に達しているころ、紳士淑女は理性を失った踊り子と化していた。この様子はとても家族には見せられない邪悪な夜の出来事である。そしてその頃、コルコバートの丘に立つキリストが堕落した我々を哀れみの目で静かに眺めていた。

強烈なサンバのリズム
 
シュラスコと呼ばれる肉料理

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