2006/1
No.91
1. 謹んで新年のお慶びを申し上げます

2. ブラジルでのエレクトレット国際シンポジューム

3. 1st ISMA参加および Technical University of Liberec 訪問報告 4. レイリー板の復元 5. 4chデータレコーダ DA-20
   
 謹んで新年のお慶びを申し上げます

        平成18年 元旦

理事長 山 下 充 康

 平成16年10月1日現在、日本の総人口は1億2,769万人。この内65歳以上の高齢者人口は過去最高の2,488万人で、総人口に占める割合は19.5%にも上昇しているとの調査結果が報告されています。
 多くの高齢者が遭遇する課題の一つに聴力の衰え、すなわち「老人性難聴」があります。加齢による難聴は、先天性の難聴や騒音性難聴、薬剤の副作用による難聴などと違って日常生活の中で、自覚のないままに次第に聴力が衰えてゆくので本人が気づかないままに進行します。「テレビやラジオの音が異常に大きい」とか「声をかけられても気がつかない」といった体験に思い当たったら難聴の症状が出始めているのかもしれません。
 聴力を補うのが「補聴器」です。小林理学研究所では戦後の復興期の昭和23年5月、ロッセル塩を応用して作製した小型のクリスタルレシーバを使用した電気補聴器国産一号機を発表しました。ミニチュア真空管回路と乾電池とを組み込んだ弁当箱の様な大きな電気器具でした。現在の補聴器に比べると不恰好で巨大で重くてとても携帯しやすい器具ではありませんでしたが、同年4月に制定された身体障害者福祉法に難聴者問題が取り上げられ、この補聴器が大きな注目を集めました。株式会社小林理研製作所(リオン株式会社の前身)の主力製品である「補聴器」となりました。
 真空管がトランジスタに代わり、集積回路の技術発展やマイクロホン、レシーバを始め部品の小型化が進んで今日では小型で高性能な補聴器が市販されています。リオネット補聴器として広く知られている製品がその一つですが、これが辿ってきた過去を振り返ると半世紀を遡った音響研究の成果の一つに行き着くことになります。
 今日の音響研究は騒音や振動などの環境問題や建築材料の音響性能向上に主眼を置いているところですが、小林理学研究所は「音」「聞く」。言い換えると「聴覚」についての研究にも眼を向ける時期であるやに考えます。今日の補聴器が未解決のままに積み残してきた課題は少なくありません。例えば多くの騒音に囲まれている環境の中で言葉や信号音を正しく聞き取るための技術、小型化によって生じやすくなったハウリングを防止する技術、重度難聴者用の高出力補聴器の開発、聴力に衰えを感じた高齢者が違和感を持たずに気軽に装着することの出来る補聴器(例えばオープンフィッティング)など、われわれが音と上手に付き合ってゆくための補聴器の研究に取り組みたく考えています。医療関係者、福祉関係者、教育関係者、行政機関・・・そして私どもの研究所やリオン株式会社の音響技術者が力を出し合って好ましい補聴器の開発研究を展開したいものです。今年は「補聴器研究室」の開設を計画しています。
 新年にあたり、音は耳で捉えることの出来る大切な物理刺激であることを考え、いつまでも音と上手に付き合って行きたいものと、補聴器に思いをはせました。自分自身が「耳順」の歳をとうに過ぎて、そろそろ加齢による難聴を感じ始めたオジイとなった今「好ましい補聴器」の開発は切実な課題であると感じています。諸兄におかれましてはご指導ご鞭撻のほど、くれぐれも宜しくお願い申し上げます。

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