2005/10
No.90
1. 私の「イヤリング」

2. inter-noise 2005リオデジャネイロ報告

3. ロッセル塩によるクリスタルセンサ 4. 第25回ピエゾサロン 5. 防水型オーダーメイド補聴器HI-G4WE
      <技術報告>       
 リオネット新製品
    防水型オーダーメイド補聴器HI-G4WE

リオン株式会社 聴能技術部 斉 藤  敦

防水型オーダーメイド補聴器HI-G4WE

はじめに
 「補聴器は体の一部」と言われます。補聴器装用者にとってどんな状況下であっても補聴器を装用できることが望ましく、例えば適度な運動により汗をかく場合や、スポーツクラブなどの不慣れな場所で入浴する場合、聴覚による情報を十分に得る必要から補聴器を装用したままでいたいと思います。
 しかし、現在の補聴器ではそのような状況下において補聴器装用者は補聴器を外すか、または汗や水の浸入によって補聴器が故障するのではないかなどの心配をしながら装用しています。
 平成17年7月19日に発売されたHI-G4WEは世界初の防水型オーダーメイド補聴器(カナルタイプ)です。汗や水しぶきはもちろん、入浴やプールなどでも使用でき、軽い水洗いも出来るようになりました。
HI-G4WEについて
 防水性能としてはIPX4相当(JIS C 0920:2003)で、いかなる方向からの水の飛沫によっても有害な影響を受けないレベルです。また駆動した状態で水深40pに10分間放置しても有害な影響は受けません。駆動した状態では空気電池が補聴器内部の空気を消費してしまうため、補聴器内部圧力が時間とともに低下していくために時間の制限が発生します。
  また、防水構造を実現しながら快適でクリアな聴こえを実現し、ひずみが少なく言葉の聞き取りがしやすいのも大きな特徴の一つです。
 従来製品に搭載されている「おまかせ回路」や「マルチメモリー機能」と言った機能も標準で搭載しています。
 防水型オーダーメイド補聴器HI-G4WEの主な構成は多孔質ポリテトラフルオエチレン膜の空気取入口とワンタッチロック機構とパッキンを備えた電池ホルダー(図1)。防水構造のメモリスイッチとマイク・イヤホン側の防水キャップからなります。(図2、3)

図1 電池ホルダー断面
(画面をクリックすると拡大図が別ウィンドウに開きます)
 
図2 イヤホン断面
(画面をクリックすると拡大図が別ウィンドウに開きます)
図3 マイク部断面
(画面をクリックすると拡大図が別ウィンドウに開きます)

 今回開発した防水キャップは、10ミクロンの高分子膜をステンレスの板に接着し、さらにエラストマー樹脂でインサート成形したものです。
 イヤホン側は出力音圧の低下をさせず、100dB以上の出力音圧をクリアに伝えなくてはなりません。膜の音響インピーダンスは、膜の第一共振周波数より低い周波数域では、その音響スティフネスによりほぼ決定されます。
 円形膜の音響スティフネスは膜張力に比例し、膜径の4乗に反比例します。オーダーメイド補聴器(カナルタイプ)の場合、膜径は外耳道に挿入するため、直径が 2oほどになってしまいます。そして、膜径が小さくなると膜張力の変化に対する膜音響インピーダンスの変化量は急激に大きくなります。従って防水型オーダイメイド補聴器では膜張力が変化しないように膜内外の気圧を平衡に調整することが重要なことになります。
 そのため数秒以下の短時間で気圧の平衡をとり、補聴器としての特性上無視できる程度の音響インピーダンスを持ったチューブを取り付けることにより、この問題を解決することができました。
 マイク側ではそれに加え、防水キャップとマイク音口までの容積が感度に影響を与えてしまう為、十分に接近させ容積を小さくした構造になっています。
最後に
 今回、世界初となる防水型オーダーメイド補聴器(カナルタイプ)を製品として仕上げました。このことは、今後の補聴器に対する大きなターニングポイントとなる製品に仕上がったと思っています。
 今回のHI-G4WEは新構造を採用したためサイズを犠牲にしてしまったという課題もあります。
 今後はそれを解決し、さらに他製品にも展開して、より多くの方々の生活を豊かにしたいと思っています。





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