2001/1
No.71
1. 21世紀を迎えて 2. WESTPRAC VII 会議報告 3. 音響校正器 NC-74
       <技術報告>
 音響校正器 NC-74

リオン株式会社 研究開発部 池 富 雅 幸

はじめに
 近年、騒音等の計測を行う場合に、計測の現場において、騒音計の音響校正を行うことが、求められるようになってきている。JIS Z 8731:1999にも、「4.2校正」の項目に「すべての計測器は校正を行う必要がある。その方法は、計測器の製造業者が指定した方法による。計測器の使用者は、少なくとも一連の測定の前後に現場で行わなければならない。その場合、マイクロホンを含めた音響的な検査を行うことが望ましい。」と記されている。この様な状況の中、常時、騒音計と共に持ち歩くことができ、簡単に騒音計の校正が行える音響校正器の必要性が高まってきた。

 リオン(株)においては、従来より、NC-72、NC-73という音響校正器が製造・販売されており、皆様にご使用いただいている。今回、新たに開発したNC-74は、製造系列上は前記NC-72、NC-73の中間に位置する仕様となっており、さらに従来にない技術的特徴を備え、どこでも、誰にでも簡単に騒音計の校正が行えるような製品となっている。

製品概要
 NC-74は、IEC60942 Class 1に適合する音響校正器で、精密騒音計の校正に十分な性能を備え、小型軽量で取り扱いの簡単な校正装置である。

 発生音圧周波数、発生音圧レベルは、公称1kHz、94dB。対象とするマイクロホンは、計測用の1インチマイクロホンと1/2インチマイクロホン(アダプタ使用)。単3形アルカリ乾電池2本で動作し、常温で連続30時間以上の動作が可能。大気圧の変化に伴う発生音圧の変化を自動的に補正する機能を有し、大気圧変化に対する音圧レベルの補正を必要としない。外形寸法及び重量は、約80mm×74mm×49mm、約200gであり、騒音計と共に常に持ち歩くことのできるサイズである。

構造上の特徴
 NC-74は扁平な直方体に近い形状をしており、置いたときに転がったりすることもなく、安心して取り扱うことのできるものである(図1)。

図1 NC-74外形

 ケース中央部にカプラの開口部があり、ここにマイクロホンを取り付ける。このとき1/2インチマイクロホンを取り付ける場合は、1/2インチアダプタを使用する(図2)。

図2 NC-74各部説明

 上ケースは電池カバーとなっており、取り外すと、単3形乾電池2本の収納部があり、ここへ、単3形アルカリ乾電池を2本取り付ける。電気部品は全て、この電池収納部の下側に配置されている。また、これら電気部品は一枚のプリント基板の上に実装されている。

 ケース、カプラ、電気部品、乾電池などはマイクロホンの中心軸に対して、対象になるように配置され、マイクロホンの上部より被せるように装着した場合に、重量のバランスが取れ、手を離しても安定してそのままの状態を保つことができるようになっている。

電磁両立性(EMC)については、電磁波の放射、イミュニティの両立について問題の無いレベルに押さえられており、EN50081-1:1992とEN50082-2:1995に適合している。

動作原理
 CPUから出力された1kHzの正弦波信号が増幅器を通り、カプラに取り付けられた小型スピーカーを駆動して、カプラ内に音圧を発生する。また、気圧センサーを内蔵しており、このセンサーで検出した大気圧のデータがCPUに入力され、CPUからその大気圧に応じた振幅の信号を出力することによって、大気圧が変化しても、カプラ内発生音圧レベルは一定に保たれるようになっている(図3)

図3 動作原理ブロック図

 この音圧発生用の正弦波信号は、CPU内部に格納されている正弦波のサンプリングデータを読み出すことによって出力される。このため、CPUに使用するクロック周波数の安定度によって、発生音圧の周波数安定度が決まり、非常に高い安定度が得られている。正弦波信号の発生、大気圧の変化に対する信号振幅の調整、バッテリーチェックインジケータの動作などを、1個のCPUと、このCPUに内蔵されたプログラムによって行っており、十分シンプルな回路構成となっている。
* 特許出願中

使用方法について
 騒音計のマイクロホン部分を音響校正器のカプラに取り付ける。その際、騒音計を立てるようにし、マイクロホンが上を向くようにして、音響校正器をマイクロホンの上方から被せるように装着する(図4)。NC-74は、この状態でバランスが取れるように、重量の配分を考慮したうえで設計されている。

 したがって、騒音計を上向けておけば、校正器から手を離すことができ、校正器に伝わる手の振動の影響や、マイクロホンとカプラの間の結合状態が変動することによって生じる校正作業の不安定さを、避けることができる。

図4 使用方法

 このままの状態で、音響校正器のスイッチを入れ、音圧を発生させて、騒音計の指示値を94dB(校正値)調整する。

 なお、この校正値については、騒音計の機種によって違いがあるため、各騒音計の取扱説明書の指示に従う。これは、騒音計の筐体反射や、マイクロホンの回折効果の影響を考慮に入れる必要があるためである。

補正量について
 NC-74の場合、従来のNC-72などピストンホン型の音響校正器のように、大気圧の変化に伴う音圧レベル補正を必要としない。これは先にも述べたとおり、NC-74には大気圧が変化しても、カプラ内発生音圧レベルが一定に保たれるような機能が内蔵されているためである(大気圧が101.325kPaのときの音圧レベルを基準とした場合、大気圧が65kPa〜108kPaにおいて、音圧レベルの偏差は±0.3dB以内(温度:23℃、相対湿度:50%)。

 また、NC-74の公称音圧レベルは、94dBであるが、これは、基準条件(主な仕様を参照)で使用した場合のカプラ内発生音圧レベルである。NC-74は、この基準条件により、マイクロホンによる実効負荷容積(振動膜等価容積+前室容積)が1025である、として設計されている。この条件を満たすマイクロホンは、リオン製UC-27,UC-11,UC-53A(1/2インチアダプタ使用時)であるが、他のマイクロホンの場合、負荷容積の違いによって、カプラ内発生音圧レベルに違いが生じる。負荷容積が大きくなると、発生音圧レベルは低下し、負荷容積が小さくなると、発生音圧レベルは増大する。そのため、マイクロホンの機種に応じて、補正量を適用し、音圧レベルの値を補正する必要がある。リオン製のマイクロホンについては取扱説明書に、補正された音圧レベル(指定音圧レベル)が、マイクロホンの各機種毎に記載されている。それ以外のマイクロホンについては、カプラに取り付けた際の負荷容積が分かれば、「1当りの負荷容積の変化に対する発生音圧レベルの変化(-0.00072dB/)」より、補正量を求めることができる。

主な仕様
・適合規格 IEC60942:1997 Class1
・指定マイクロホン
<1インチマイクロホン>
 IEC 61094-1 Type LS1P
 UC-27,UC-11,UC-25,UC-34
<1/2インチマイクロホン>
 IEC 61094-1 Type LS2aP
 UC-53A, UC-52, UC-26, UC-30, UC-31, UC-33P
・基準条件
 周囲温度23℃
 静圧 101.325 kPa
 相対湿度 50%
 マイクロホン実効負荷容積 1025(カプラ全容積 12004(代表値))
・公称音圧レベル 94 dB
・公称周波数 1000 Hz
・1/2インチマイクロホン用アダプタ
 型式 NC-74-002
 負荷容積 767(代表値)
・マイクロホン実効負荷容積の変化に伴う、音圧レベルの変化
 -0.00072 dB/(代表値)
・電池 単3形アルカリ乾電池LR6 2本
・電池寿命 30時間以上(LR6 2本仕様 基準条件)
・仕様環境範囲
 周囲温度 -10℃〜+50℃
 静圧 65kPa〜108kPa
 相対湿度 90%RH以下(結露しないこと)
・電磁両立性 EN50081-1:1992、EN50082-2:1995に適合

おわりに
 音響校正器NC-74について述べたが、本製品は現場での音響校正に威力を発揮するものと思われる。従来製品ともども、音響計測に携わる皆様のお役に立つことができれば幸いである。

 参考文献
 (1) IEC60942:1997 Electroacoustics-Sound Calibrators
 (2) JIS Z 8731:1999 環境騒音の表示・測定方法

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