1997/4
No.56
1. 音響式体積計 2. 日米音響学会ジョイントミーティング 3. オージオメータ AA-55/55T/56
       <技術報告>
 オージオメータ AA−55/55T/56

リオン株式会社 聴能技術部2G  中 隆 司

1.はじめに
 平成元年10月1日より、労働安全衛生規則に基づく一般健康診断(雇入れ時および定期健康診断)の内容が改正され、一般健康診断における聴力検査の具体的な検査方法が示された。その中で、一般健康診断の選別聴力検査にはオージオメータを使用することが明示され、特に検査環境の騒音を考慮した規格(一般健康診断用オージオメータ規格:日本耳鼻咽喉科学会産業環境保健委員会作成)に適合したオージオメータを使用することが推奨された。 当社では、この一般健康診断用オージオメータ規格に適合するオージオメータとして、平成元年にAA−53、54を発売、その後AA−54A、およびそれらの上位器種となるAA−51Aを発売した。今回報告するAA−55/55T/56は、これらのモデルチェンジ製品であり、機能の拡張と操作性の向上、ならびに付属品となる遮音カップの性能向上を目指して開発した製品である。
 AA−55は、1人の被検者を測定対象とした標準的な選別聴力検査用のオージオメータであり、これに遮音カップを2個追加して、3人まで同時に検査をできるようにしたものがAA−55Tである。また、選別聴力検査だけでなく自動域値聴力検査にも対応し、データメモリーやデータ出力等の機能を持たせたものがAA−56である。

2.一般健康診断用オージオメータ規格
 一般健康診断用オージオメータ規格の中で、通常のオージオメータ規格と大きく異なる点は(1)受話器に遮音カップをつける、(2)周りの騒音レベルが検査に適しているかどうか否かを判断できるように、環境騒音モニターを内蔵する、という点である。これは、一般健康診断における選別聴力検査は、多くの場合聴力検査室では行われないことが予想されるため、検査環境の騒音を考慮して規定されたものである。

3.構成
 図1はAA−55および付属品となる遮音カップFB−15の外観写真であるが、AA−55TならびにAA−56もパネル面を除いては共通の本体ケースを使用している。

図1 AA−55と遮音カップFB15

 検査の性質上、一般のオージオメータに比べてスイッチの使用頻度が高く、スイッチ周辺のシートが破れる可能性が高いため、スイッチ類には、シートスイッチではなくキースイッチを採用している。
 フロントパネルを保護するカバーは、検査時には検査士の手元を隠して被検者に操作が見えないようにするブラインドの役割を果たす。
 今回初めて内作化した遮音カップは、装着時の長さ調節が不要なヘッドバンド、ワンタッチで交換可能なイヤーパッド、応答スイッチ一体型の受話器コード等の開発により、従来品に対して操作性、耐久性の面での性能向上を実現した。
 図2にAA−55のブロック図を示す。

図2 ブロック図

4.AA−55の特徴
 3器種のうち、最もベーシックなタイプであるAA−55について、その特徴を示す。
1) 自動選別聴力検査  選別聴力検査は、1000Hzと4000Hzの周波数について表1に示す一定レベルの検査音を提示し、被検者の応答(聴こえる)の有無により、「所見なし」または「所見あり」を判定する検査である。
表1 選別レベル

 AA−55は、手動による選別聴力検査のほか、「スタート」ボタンを押すだけで自動的に検査音の周波数とレベルを切り替えて提示し、被検者の応答信号により「所見なし」または「所見あり」を判定し、その判定結果をランプ表示する自動選別聴力検査機能を持つ。
2) 手動選別聴力検査  手動選別聴力検査時の検耳、周波数およびレベルは、「次検査」ボタンを押すだけで自動的に切り替わる。
3) 環境騒音モニター
 検査環境の騒音が検査可能なレベルかどうかを、緑・黄・赤のランプにより表示する。
 緑ランプ〔検査可能〕:そのまま検査を行って良い。
 黄ランプ〔検査注意〕:被検者の様子を確認しながら検査を行い、応答がな  かった場合は緑ランプ下で再検査する。」
 赤ランプ〔検査不可〕:検査を中断し、検査可能の状態を示す(緑ランプ)  まで待ってから検査を再開する。

※遮音カップの遮音量と環境騒音モニターの関係  オージオメータ本体に組み込まれたマイク位置における環境騒音(臨界帯域)のレベルを、外耳道入口部の音圧レベルに変換する。
 外耳道入口部の音圧レベル
 L=Lm−Amin
但し、Lm=マイク位置の環境騒音(臨界帯域)の音圧レベル
 Amin=遮音カップ(受話器込み)装着による最低遮音量
    =平均遮音量−標準偏差×3
 なお、遮音カップFB−15に気導受話器AD−05Bを組み込み、約30名の被検者について遮音量を測定した結果、平均遮音量、ならびに標準偏差は表2に示す通りであった。

表2. FB−15の遮音量

 上式により求めた外耳道入口部の音圧レベルと、環境騒音モニターのランプ表示の関係は表3の通りである。但し、検査音周波数1000Hz(検査音レベル30dB)ならびに4000Hz(40dB)の場合である。

表3. 外耳道入口部の音圧レベルと、
環境騒音モニターのランプ表示

5.AA−55の仕様
・適用規格     JIS T1201-1982 選別用II形
          日本耳鼻咽喉科学会、産業環境保健委員会
          「一般定期健康診断用オージオメータ規格」
・検査音周波数   1000、4000Hz誤差±5%以内
・検査音レベル   25〜70dB、5dBステップ
          10dBブースト時、最大80dB
・出力音圧精度   1000Hz:±4dB未満
          4000Hz:±5dB未満
・受話器      AD−05B気導受話器
          遮音カップFB−15、
          コード中間部に応答スイッチ付き
・自動選別検査機能 検査順序_右1000Hz→右4000Hz→
          左1000Hz→左 4000Hz
          判定結果_2色ランプ表示
         (緑:所見なし、赤: 所見あり)
          検査レベル_1000Hz:30dB、
          4000Hz:30dB または40dB
・環境騒音モニター 検査可能(緑色ランプ表示)
          検査注意(黄色ランプ表示)
          検査不可(赤色ランフ表示)
・電源       AC100V±10% 50/60Hz 約12VA
・寸法、質量    約250(幅)×90(高)×240(奥行)mm約1.5kg

6.おわりに
 本報告を終わるにあたり、本製品の開発にご協力を頂いた関係各課にお礼を申し上げます。特に、遮音カップの開発に尽力して頂いた生産技術部第1Gに謝意を表します。

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