1997/7
No.57
1. 道路交通騒音の防止対策用施設のCEN規格 2. ASVA 97参加報告 3. タイ国訪問記 4. 回転機械設備の故障監視装置 MM-10/PG-02V
 
 道路交通騒音の防止対策用施設のCEN規格

研究企画室 室長 山 本 貢 平

1.はじめに
 I-INCEでは毎年テーマを設けて国際的な調査を行い、そのテーマに関するレポートをまとめている。1995年には、遮音壁の効果をテーマに、ワーキングパーティ(WP)を組織し、2年間を目処にレポート作成を行うことになった。このWPはカナダNRCのGilles Daigleをコンビナーとして13カ国の研究者やエンジニアがメンバーとなっている。このレポートは内容が固まり次第、どこかでまた紹介したいと思う。
 ところで、ちょうど昨年のinter‐noise96が開かれる直前に、リバプールで遮音壁に関するWPのレポート草案についての審議を行う機会があり、その時筆者も同席した。その際、ベルギーのJ.-P.Clairboisという男が、遅刻して会議室にやってきたが、全員にある資料を配ってくれた。本人はその資料のコピーに時間がかかって、遅刻したと弁解していたが、怪しげな資料なので帰国後も机の中に入れたままとなっていた。しかし、最近研究室の移動があって期せずしてこの資料を発見した。これは、ヨーロッパにおける道路騒音対策に関わる行政担当者やエンジニアにとって重要な規格であり、我々にも参考となるので、ここでその概要を紹介する。

2.道路交通騒音の対策施設に関するCEN規格
 ジョンピエール(J. - P.Clairboisのこと)からもらった資料は全部で5冊であった。そのうち、3冊は遮音壁などの道路騒音対策施設に対する音響性能の測定方法に 関するもの、他の2冊は音響性能以外の性能に関する規格である。これらはEuropean StandardまたはDraft CENとされており、CENのメンバー国に適用されるものである。CENのメンバー国とは、規格によればAustria, Belgium, Denmark, Finland, France, German, Greece, Iceland, Ireland, Italy, Luxembourg, Netherlands, Norway, Portugal, Spain, Sweden, Switzerland and United Kingdomの18カ国である。
規格の名称は以下のとおり、
(1)CEN/TC 226/WG6/TG1/N106 prEN 1793-1(revised):1996
Road traffic noise reducing devices‐Test method for determining the acoustic performance - Part 1: Intrinsic characteristics‐sound absorption.
(2)同/N107 prEN 1793-2(revised):1996
同 Part - 2: Intrinsic characteristics‐airborne sound insulation
(3)同/N108 prEN 1793-3(revised):1996
同 Part - 3:Normalized traffic noise spectrum
同シリーズで以上のほか、
Part - 4: Extrinsic characteristics‐in situ effidency.
Part - 5: Intrinsic characteristics‐in situ values of sound absorption and airborne sound insulation.
が検討作業中であり、規格化の予定であるとのことで ある。
また、昔響以外の性能規格として、
(4)Draft CEN/TC 226 WG 6,prEN1794-1E modified after inquiry,May 1996.
Road traffic noise reducing devices‐Non‐acoustic performance‐Part 1: Mechanical performance and stability requirements
(5)同,prEN1794-2E modified after inquiry,May1996.
同 Part 2: General safety and environmental conditions.

3.音響規格について
 音響性能の規格は上記(1)が吸音性能、(2)が遮音性能(3)が吸音・遮音の評価に用いるための道路交通騒音の代表スペクトル(A特性で相対値表示)を規定している。特徴としては(3)を用いて、吸音・遮音を一つの数値で表現することが挙げられる。また、その数値に対して、ランクづけが行われている。いずれもLaboratoryでの性能試験が中心であるが、検討作業中とされているin situ methodも興味あるところである。
3.1.吸音性能 - prEN 1793-1
 吸音性能を表現する指標はであり、以下の式で表わされる。

ここで、
    : 1/3オクターブバンドのi番目の周波数における吸音率
    : 1/3オクターブバンドのi番目の周波数におけるA特性補正の代表的道路交通騒音相対値(dB)。
数値はprEN 1793-3に記載されている。
指標はdB値で表現されるが、これは吸音板からの反射音が何dB低減されるかという値に相当する。つまり、反射音に注目した際の減音量である。一方、吸音率はEN20354(ISO 354)による測定値とされているので、残響室法吸音率である。ただし、吸音率が1.0を超える 場合には0.99を計算に代入することになっている。試料は、現場設置と同じ条件で床面に設置し、H鋼のような支柱も試料に含めなければならない。
  の値によって、試料は次のようにカテゴライズされる。

Table 1 Categories of adsorptive performance

3.2.遮音性能- PrEN 1793-2
 遮音性能の指標も一つの数値で表現され、透過損失と道路交通騒音のA特性スペクトルから計算される。遮音性能はDLRで表わされ、以下の式で求められる。

 ここで、
    : 1/3オクターブバンドのi番自の周波数における透過損失(Sound reduction index:dB) A特性補正の代表的道路交通騒音相対値(dB)
    : 1/3オクターブバンドのi番目の周波数におけるA特性補正の代表的道路交通騒音相対値(dB)
   数値はprEN 1793-3に記載されている。
 透過損失の測定はEN 20140-3:1995(ISO 140-3:1995)で行う。試料の取りつけに際しては、現場と同じ条件とし、支柱も含めることになっている。周壁からのリークを防ぐためのシールは行うが、試料のパネル間のシールは現場条件と同一にする。
 遮音指標もその数値によって次表のようにカテゴライズされている。

Table 2 Categories of air borne sound insulation

3.3.A特性の代表的道路交通騒音相対値prEN 1193-3
 吸音と遮音を単一の指標で表現するために、道路交通騒音のスペクトルを規定している。どのようなデータを基に作成されたがは不明であるが、以下の表のような値を設定している。
 特徴としては1000Hzに山があるスペクトルである。

Table 3 Normalized traffic noise spectrum

このままでは、わかりにくいので、日本音響学会が提案している道路交通騒音予測手法ASJ Model-1993で採用しているスペクトルと比較したのが図1である。両者の1000Hzを一致させて表示した。ご覧のように、CENのスペクトルの形状はややいびつであり、ASJ Model-1993に比べると、高音域がやや低く、低音域の重みがやや高くなっている。

図1 CENとASJ/Model-1993の道路交通騒音(A特性)比較

4.非音響規格について(prEN 1794-1E, prEN 1794-2E)
 非音響規格については、項目のみをリストアップしておく。まず、prEN 1794-lEでは、Part1- Mechanical performance and stability requirements(構造上の性能と安定さに関する要求)として、以下のものが規定されている。
(1) Wind loading and static loading(風荷重と静的荷重)
(2) Self weight(自重)
(3) Impact of stones(小石による衝撃)
(4) Impact of vehicles(自動車による衝突)
(5) Dynamic forces from snow clearance(除雪による動的衝撃)
 これらに対する計算方法、測定方法、評価方法が示されている。石をぶつけたときの衝撃や除雪作業時における配慮などが興味深い。
 また、prEN 1794-2Eでは、Part 2-General safety and enviromental cosideration(一般的安全性と環境上の考慮)として、以下の項目があげられている。
(1) Resistanceto brush fire(耐火性)
(2) Secondary safety(falling debris)(2次的安全性)
(3) Environmental protection(環境保護)
(4) Means of escape(避難の方法)
(5) Light reflection(光反射)
(6) Tranparency(透明性)

 遮音壁を代表とする道路交通騒音の対策施設に対して、昔響性能のみならず、安全性、2次災害の防止、環境への配慮などきめ細かな要求がなされていることは、特筆すべきであろう。

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