1995/4
No.48
1. 所長就任のご挨拶 2. 地震のデシベル値 3. 自動演奏楽器 4. 超音波診断装置UX-02
       <技術報告>
 超音波診断装置 UX-02

リオン株式会社 研究開発部1G 田 島 哲 郎

写真1
超音波診断装置
UX-02型

1.はじめに
 画像診断は、現代医学がもたらした先端医療技術のひとつだといえます。体内を外科的に切り開くことなしに観察できることは、患者に負担を掛けない究極の診断法として医療現場に広く普及してきました。
 画像診断にはMRI・CT・超音波診断がありますが、この中でも超音波診断はリアルタイム性に非常にすぐれており、各診察室において診察・スクリーニングに使用されています。従来、腹部領域に限られていた超音波診断も現在、乳腺・甲状腺・泌尿器科・眼科領域でも行われるようになっています。そのため、超音波診断装置のここ数年の進歩はめざましいものがあり、その活用法・種類も多様化が進んできています。弊社の超音波診断装置UX-02は、小林理研ニュースNo.39で紹介されたUX-01を基に眼科・皮膚科での使用を目的に開発されました。

2.超音波診断装置UX-02
 超音波診断装置は、パルスエコー法に基づいて二次元断層画像を形成しています。まず、振動子より体内に超音波パルスを送波し、体内の音響インピーダンスの不連続点で反射した超音波エコーを受波し、深さ方向の線データを得ます。次に、超音波パルスの送波位置を移動した後、超音波パルスを送波して別の線データを得ます。この操作を繰り返すことで、線データで組み上げられた二次元断層画像を形成し表示しています。
 超音波診断装置UX-02は、UX-01の機能を削減し、高画質化・リアルタイム性の向上を目標に開発されました。
 アニュラアレイの各振動子は円弧状に配置されており、各振動子の超音波パルスの送受信信号のディレイ時間を変化させることで焦点位置・超音波ビーム径が変化します。超音波診断装置の分解能は、超音波ビーム径を細くするほど向上します。UX-02ではディレイ時間の調整を、振動子ごとに非常に細かく設定できるため、高い分解能と高画質を維持しています。
 つぎに、リアルタイム性の向上ですが、UX-01では画像処理の大部分をソフトウェアに頼っていたため、1〜2枚/秒の診断画像の表示が限界でした。そのため、目標部位を捕らえるまで非常に多くの労力と時間を必要としました。臨床現場では、迅速な診断が求められており、UX-02は画像処理をハードウェアで実行することにより10枚/秒の表示を可能とし、診断の効率化に大きく貢献しています。

図 UX-02型のブロックダイアグラム

3.探触子UF-31・UF-32
 超音波診断装置UX-01で実績のある、高分子圧電膜(PVDF)を用いた凹型アニュラアレイ振動子(振動子を同心円状に配置したもの)を採用しています。分解能を上げるため曲率等を変更し、30MHz・15MHz専用の振動子UF-09・UF-08を新たに開発しました。特に30MHz専用の振動子UF-09は、製作可能である最小の曲率となっています。また振動子は、常に超音波伝搬の媒体である水に浸され、さらに使用中は高電圧がかかるという過酷な条件下におかれており、対腐食性について十分な検討を加えました。

表 超音波UX-02型の主な仕様

 現在、UX-02は、UF-31型とUF-32型の2本の探触子を使用可能です。UF-31型探触子は、15MHzの超音波を発生し、標準モードで20mm(深さ)×20mm(幅)、2倍モードで10mm(深さ)×10mm(幅)の断層像を得ることが出来ます。UF-32型探触子は、30MHzの超音波を発生し、標準モードで5mm(深さ)×10mm(幅)、2倍モードで2.5mm(深さ)×5mm(幅)の断層像を得ることが出来ます。(写真2)

写真2 探触子
UF-31型とUF-32型

4.超音波診断装置のシステム構成
探触子UF-31・UF-32
 超音波を送受信する振動子と振動子を走査するための機構部分から構成されています。
超音波診断装置UX-02
 探触子からの超音波信号を受波し、画像処理を行った後CRTに表示します。
診断面像記録部
 画像出力をNTSC方式に統一し、汎用的な画像記録装置の接続が容易になりました。例えば、サーマルプリンタ、VTRや光磁気ディスク画像記録装置の接続が可能となっています。
その他
 探触子の自重による測定部位の変形を軽減するため、オプションとしてウェイトキャンセラーを設けました。
ファントム例
 超音波診断装置(1〜10MHzの装置)に関するJISによれば、画像の分解能は、φ200μmステンレス鋼線を10〜1mmピッチで張ったファントムにより試験することになっています。しかし、10MHzを越える装置の規格がないため、我々は、独自のファントムを製作し、分解能の試験をおこなってきました。30MHzで使用するファントムとしてφ128μmのナイロン線を1mm(積)、2mm(縦)ピッチで張ったもの、15MHzで使用するファントムとしてφ128μmのナイロン線を2mm(横)、5mm(縦)ピッチで張ったものを使用しています。

 写真3と写真4はそれぞれUF-31(15MHz)探触子とUF-32(30MHz)探触子を用いたファントム画像例です。φ128μmのナイロン線が、はっきりと分離されていることが分かります。

写真3 UF-31型によるファントム画像例
 
写真4 UF−32型によるファントム画像例

画像例
 写真5は、UF-31(15MHz)探触子で正常者の甲状腺総頸動脈のエコー像です。写真6は、UF-32(30MHz)探触子で正常者の指先の爪根のエコー像です。

写真5 UF-31型による甲状腺総頸動脈のエコー像
 

写真6 UF-32型による爪根性隅角

5.おわりに−応用分野の広がり−
 展示会あるいは臨床でUX-02を使われた先生方の中にも、眼科・皮膚科・形成外科等、非常に浅い部位で高分解能を必要としている先生方を中心に評価を得てきました。

 眼科では、緑内障管理において不可欠な前房隅角検査を正確におこなえる装置が現在までなく、隅角鏡に頼ってきたのが現状でした。超音波診断装置を用いた隅角診断が何度か試みられましたが眼科医師の要求する分解能を満たすものがなく、超音波診断装置UX−02によって初めて鮮明な隅角画像を得ることが出来るようになりました。また、探触子を角膜に直接接触させる直接法で診察がおこなえるため、操作性が良く検査が迅速におこなえると評価をいただいています。従来、眼科でおこなわれてきた超音波診断の多くが、アイカップを用い眼部に直接水が接する水浸法を使用してきたことを考えると大きな進歩だと言えます。写真7は、UF-32(30MHz)探触子を使用した緑内障患者の隅角測定の例を示しています。角膜と虹彩に囲まれた隅角をはっきりとみることが出来ます。

写真7 UF-32型による隅角測定例

 皮膚科では、腫瘍等の大きさを診断画像から判定し、術前の患者への説明に有効に利用されています。また、形成外科でも有効性が認められつつあり今後、より広い分野にUX-02が浸透していくことを望みます。

-先頭へ戻る-