1994/4
No.44
1. 個人的に"謎"めいた北京への旅 2. 電磁型オシログラフ 3. 新時代の防水式補聴器HB-54
       <技術報告>
 新世代の防水式補聴器HB−54

リオン株式会社 聴能技部1G 成 沢 良 幸
荒 木 敏 之

1.はじめに
 世界初の防滴型補聴器HB-35が1984年に開発されて今年で10年になります。2年後の1986年には防水型HB-35PTに進化し、以来、今日に至るまでHB-35PTは世界で唯一の防水式補聴器としての立場を維持してきました。  
 この間に、防水式補聴器に対する関心は世界のどの地域でも高く、幾つかの補聴器メーカーが防水式補聴器の開発に挑戦しましたが、生産までには至りませんでした。このことは、防水補聴器の開発・生産が、いかに難しいかを示しているといってよいでしょう。
 新製品のHB-54はこれまでのHB-35PTの開発ノウハウ、生産ノウハウを結集し、新世代の防水式補聴器として生まれました。

外観写真
 
図1 HB-54 透視図

2.開発ポイント
 新型防水式補聴器の開発ポイントは以下の通りです。
 1.空気電池の使用を可能にする。
 2.サイズの小型化。
 3.防水性能の信頼性向上。
 4.生産性の向上。

3.防水式補聴器と空気電池
 近年、環境汚染の問題で、水銀電池の生産使用が規制され、補聴器においては空気電池の使用へと移り変わっています。防水式補聴器は必然的に補聴器内部を気密状態にしているため空気電池への酸素の供給ができないという新たな問題が発生しました。
 この問題の解決のため、当社では(財)テクノエイド協会の福祉機器開発改良研究事業の委託を受け「防水式補聴器で空気電池の使用を可能にする研究開発」に取り組みました。
 空気電池が必要とする空気量は、概ね0.5ml/hourであり、連続高出力時に十分な酸素供給を行なうには、防水膜の透過空気流量が約2cc/c以上必要であり、この空気流量を確保しつつ、耐水圧を確保する構造が課題となりました。2年間の委託研究の結果、厚さ0.3mm、耐水圧0.7kg/c、空気流48cc/cの通気性防水膜を超音波溶着で電池カバーに固定する構造が開発されました。また、この防水膜は水だけでなく油や洗剤、アルコールなども表面ではじく処理がされていますので、汚れが付着しにくく、安定した通気度を確保できます。万一汚れても水で洗浄することができます。

4.サイズの小型化
 防水式補聴器だからといって、サイズが大きくても良いという時代は終わりました。HB-54では一般補聴器と比べても遜色のないサイズを実現しました。
 小型化のための一つの手段は使用電池のサイズをワンランク下げる(PR44からPR48に)ことです。そのままでは容量が小さいので電池寿命が大幅に短くなってしまいます。この点は増幅器の出力段をDクラス駆動として消費電流を下げることを検討し、結果としてHB-35PTより大幅に電池寿命を延ばすことが出来ました。
 また、出力段をイヤホン内臓タイプにすることにより増幅部の容積を小さくすることができました。

5.防水性能の信頼性向上
 防水式補聴器は、各部に防水ゴムパッキンを設け、所定の水圧に耐える構造が必要なため、一般補聴器よりもケース各部の負荷が大きくなります。このためケースには十分な強度が必要です。HB-54では、より安定したゴムパッキンの形状を検討し、限られた負荷圧力を安定して等分布にできる円形断面を採用しています。円形断面パッキンは断面形状がシンプルなため部品としての安定度、低圧力でのたわみ量の安定度等が優れていますが、反面、受け側でこれを保持する形状が難しくなります。そのため形状の調整を金型で何度も行ない、最適寸法ヘ仕上げています。

6.生産性の向上
 生産性を上げるためには、部品の不良率を下げることが必要です。防水式補聴器ではゴムパッキンの形状が複雑だと部品の安定生産が極めて難しくなります。HB-54では、この点を第一に考え、ゴムパッキンの形状のシンブル化をめざしました。断面形状は先に記述したとおり円形断面とし、全体形状をできるだけフラットに構成しています。パッキン面をフラットに近い形状にすることにより、ゴムパッキン単体をフラットにすることが出来ます。これにより、従来、複雑な三次元形状なため高かったゴムパッキンの不良率を、大幅に低減することができました。また、パッキンの組込みも単純化され、生産性を向上できました。

7.基本性能
 表1に基本性能を、図2に規準周波数レスポンスを示します。
 適応雑聴度は中等度から、防水式を最も必要とする高度難聴までカバーし、例えば、いままで入浴時に難しかった親子のコミュニケーションや、温泉での親しい仲間との会話等を可能にし、難聴者の快適生活空間を広げることができます。
 調整機能としては、高音、低音独立の音質調整を設け、フィッティング時の聴力型への適応を幅広く可能にしています。
 出力制限装置(OGC)は、その変化と利得を運動させ、出力と利得のバランスを確保できるようになっています。防水性能は、JISの防水保護等級4、防まつ形(JIS C-0920)をクリアし、水深80cmで10分間を保証します。

表1 HB-54の主な性能
 
図2 規準周波数レスポンス

8.防水式補聴器と特許出願
 世界で唯一の防水式補聴器メーカーとして、その技術保護は重要な課題です。防水補聴器の開発に関連して行なわれた特許関係の出願は、これまでにHB-35で10件(内8件が登録済)、H3-54で9件に上ります。内容は、防水補聴器の基本構造から、細かい部品の形状まで多岐にわたっています。

9.おわりに
 多くの難聴者がどのような環境下でも安心して、気軽に使用できる補聴器をめざして、防水式補聴器は開発されてきました。そして今後は、この機能がすべての補聴器に適用できるように改良、研究を続け、補聴器の防水が常識化されることを、めざして行かなくてはなりません。

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