1994/1
No.43
1. 一寸の光陰 2. 欧州国際会議に参加して 3. マルチチャンネル型リアルタイムアナライザ SA-28型の構成と応用
      <技術報告>
 マルチチャンネル型リアルタイムアナライザ
     SA-28の構成と応用

リオン株式会社 音測技術部 小 白 井 敏 明

1.はじめに
 リアルタイムアナライザSA-28型は、1/Nオクターブ分析を行うマルチチャンネル型のアナライザです。本器はディジタルフィルタを採用し、2〜18チャンネル(最大)までの多点同時測定を初めて可能にしました。
 また本器は最新の技術を駆使し、精度向上、データのパソコンとのインターフェイス向上(MS-DOSフォーマットの採用)をはかると同時に、小型軽量化、省電力化(電池駆動も可)を実現しております。

図1 リアルタイムアナライザSA-28
 以下にその概要を紹介します。

2.構成
2-1.入力部
 本器の入力部は、1チャンネルにつき次の5種類の入力方法が可能で、4種類の端子(またはコネクター)を備えています。
 (1)マイクロホン(プリアンプ入力端子)
 (2)加速度ピックアップ(チャージアンプ入力用マイクロドットコネクタ ー)
 (3)汎用入力(BNCコネクター)
 (4)プリアンプ内蔵加速度ピックアップ(BNCコネクター、ICP電源供給: +12V、2mA)
 (5)コモン入力(BNCコネクター)
 このように各種入力に対応することによって、騒音、振動測定システムの軽減化をはかっています。

2-2.入力フィルターの挿入
 主としてマイクロホン入力に対応して、フラット特性測定用に10Hzバイパスフィルターが、また周波数ウエイトを通した測定用にA特性、C特性フィルターが準備されています。
 加速度ピックアップ入力に対応しては接触共振の影響の除去用等に1kHz、20kHzローパスフィルターが準備されています。

2-3.A/D変換部
 各チャンネルごとに16ビットのA/D変換器を備え、マルチチャンネルのA/D変換器が完全に同期してサンプリングしています。
 タイム波形のストアでは、320kHz、80kHz、40kHz、20kHz、10kHzの各周波数でサンプリングが可能です。

2-4.1/Nオクターブ分析
 16ビットでA/D変換された入力データは、次に示す目的に応じて0.4Hz〜80kHzの周波数範囲を分析します。
 1/Nオクターブフィルターは、2チャンネル単位で一組を持ち、1チャンネル使用時は2チャンネル使用時に対して分析上限周波数が2倍になります。
 1/1、1/3オクターブは0.4Hz〜20kHzでリアルタイム分析ができます。20kHz以上はバッチ(処理による)分析手法を採用しています。
 1/6、1/12、1/24オクターブは周波数分解能が良くなる反面、計算時間が長くなり、リアルタイム分析周波数が低下します。リアルタイム周波数以上を分析する場合はバッチ分析を行います。

図2 1/3オクターブ・リアルタイム分析例(2ch)
 
図3 1/12オクターブ・リアルタイム分析例(2ch)
 
図4
  1/12オクターブ・バッチ分析例(2ch)
バッチ分析周波数部は黒い帯で表示
     
図5 1/24オクターブ・リアルタイム分析例(1ch)
 
図6
  1/24オクターブ・バッチ分析例(1ch)
バッチ分析周波数部は黒い帯で表示

 (1)リアルタイム分析
   不規則に変動する音や振動を連続測定するのに最適です。

1/ 1オクターブ :0.5Hz〜16kHz
    1/ 3オクターブ :0.4Hz〜20kHz
   1/ 6オクターブ :0.4Hz〜10kHz
  1/12オクターブ :0.4Hz〜 5kHz
  1/24オクターブ :0.4Hz〜2.5kHz

  (2)リアルタイム、バッチ併用分析
   この場合は、定常といわれる一定に発生している音や振動の分析に使用します。
   1/6、1/12、1/24オクターブ:0.4Hz〜20kHz
   (但しリアルタイムの上限周波数は(1)の半分になる)

 (3)高周波数分析(オプション)
   模型実験や超音波、傷の振動等の測定に使用します。
  バッチ分析によるため、定常信号が対象です。

  1/1〜 1/6オクターブ:200Hz〜80kHz
       1/12オクターブ:400Hz〜80kHz
       1/24オクターブ:800Hz〜80kHz 

 (4)タイム波形ストアとその分析(オプション)
   各チャンネルのメモリにタイム波形をストアし、波形を見て分析することができます。

図7 時間対レベル表示例
 
図8
  時間対分析パターンの例
(1/12オクターブ・リアルタイム分析)
     
図9
  時間対分析パターンの例
(1/12オクターブ・バッチ分析
−バッチ分析部の応答時間は長い )

2-5.マスメモリー部
  フィルタ出力はその実効値をアベレージ(指数平均、リニア平均、最大値ボールド等)されたあと、2チャンネル単位で持つマスメモリー(半導体メモリーSRAM250kワード、電池でバックアップ)に最高1ミリ秒ごとにストアすることができます。
 マルチチャンネルデータの同時性は、このメモリーを使用することによって保つことができ、1/3オクターブバンドデータでは約2000枚を、全チャンネル同期して連続、または個々にストアが可能です。

2-6.測定機能の種類
 本器は次の測定機能を持ちます。
 (1)多点での1/Nオクターブバンドの瞬時レベル
 (2)リアルタイムでのパワー平均レベル
 (3)リアルタイムでの最大レベル
 (4)指定周波数の時間対バンドレベルのリアルタイム表示
 (5)時間対分析パターンの準リアルタイム表示
 (6)マスメモリデータのLx値10種
   L5、L10、L50、L90、L95、Lx、Leq、Lmax、Lmin、Lmean
 (7)周波数ウェイト補正
   A、C、F、VLxy、VLz、VLcombine、VLhandtool
 (8)微分、積分補正
 (9)音響インテンシティ関連機能(オプション)

3.応用
 SA-28は2チャンネル以上の多チャンネル同時分析を強力な武器として、解析内容の多様化、高度化、高能率化を実現する目的で設計されています。
 以下に測定へのいくつかの応用例を紹介します。

3-1.音・振動の伝搬調査
 多チャンネルの同時分析結果から、バンド毎に時間対レベル表示機能で伝搬時間を測定する。

3-2.環境騒音・振動評価の多点同時処理
 標準機能のLx測定機能を用いて直接処理できる。
(L5、L10、L50、L90、L95、Lx、Leq、Lmax、Lmin、Lmean

3-3.音響透過損失の測定
 結合型残響室を用いる場合、音源室、受音室の各室5点以上のパワー平均を同時測定し、また受音室の残響時間も多点同時測定により、短時間で音響透過損失の測定が完了する。

図10 音響透過損失測定システム

3-4.音響パワーレベルの測定
 半無響室法による音圧の多点同時測定により、音響パワーレベルの測定が短時間に実施でき、対策と効果の検証サイクルを短縮できる。
 また、1/12、1/24オクターブ分析によって、離散音の検出ができる。

図11 音響パワーレベル測定システム

3-5.音響インテンシティの測定(オプション)
 1軸のインテンシティプローブを多点配置して、面状、または線状測定により、パワーレベルを瞬時にして測定できる。

図12 3軸用及び1軸用プローブとシステム構成

 3軸のインテンシティプローブによって、空間の一点でのインテンシティベクトルが観測できる。

図13 3軸用インテンシティプローブSI-33


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