1992/10
No.38
1. 拡声機騒音(暴騒音!?) 2. 遮音壁構造開発の最近の動向 3. 人工鼓膜の看板 4. インターノイズ’92に参加して
       <会議報告>
 インターノイズ'92に参加して

騒音振動第二研究室 平 尾 善 裕

 インターノイズ'92は7月20日から22日までの3日間、カナダはオンタリオ湖に面した商業都市トロントにおいてTony F.W.Embleton博士を組織委員長(オーガナイザーはCanadian Acoustical Association,INCE/USA)として開催されました。冬には雪に覆われる地方ですが、この時期のトロントは梅雨期の日本とは違って初夏の過ごしやすい気候でした。ただ、緯度が高い上に(旭川と同じぐらい)夏時間を採用していることもあって夜9時過ぎまで明るく、日本との時差が半日もあることも相俟って生理的な時間感覚が狂ってしまい、体調はいまいちの状態でした。
 会議はダウンタウンから8kmほど離れた広大な美しい縁が広がる公園の一角に位置するリゾートホテルFour Seasons Inn on The Parkを会場として開かれました。初夏ということもありプールサイドで日光浴をしたり、テニスに興じるリゾート客も多く、また家族連れでの参加者もいて、国際会議には少しばかり似つかわしくないのんびりとした雰囲気の中で会議は行われました。
 我々小林理研からは山下充康所長以下、山田一郎騒音・振動第一研究室室長、木村和則騒音・振動第三研究室主任、それに初参加の私と合計4名が参加し、同ホテルの地平線が見渡せるタワー19階に部屋をとりました。それゆえ不慣れな町での会場とホテルの往復をする必要もなく雄大な自然の中で会議に集中する(集中せざるを得ない)3日間でした。

会場となったInn on The PARKの客室から見たトロントのダウンタウン
(中央に見えるのがCNタワー)

 初日の開会式では派手なオープニングセレモニーは無く、W.Lang I-INCE会長の挨拶の後、PLENARY SES-SION、6つの会場に別れての招待講演を含む一般講演が淡々とした調子で行われました。
 PLENARY SESSIONは3日間共に午前の一般講演の前に行われました。初日はK.M.Eldred氏(米)による米国における空港周辺の騒音低減のための規制と対策効果に関してその経緯と将来の展望についての講演が行なわれました。2日目はJ.Tourret氏(仏)によるエアコンプレッサー、ポンプ、ファン等の騒音低減のための音源、伝搬経路、放射のメカニズムを探る新技術についての講演が行なわれました。3日目はA.Laurence女史(豪)による屋外からの騒音の遮断手法に関する、壁や窓等の遮音対策と効果についての講演が行なわれました。
 一般講演は講演17分、質疑応答3分の計20分で行なわれ、1会場につき午前約6件、午後約10件、3日間で262件の講演が行われました。インターノイズ'91から半年しか時間が無かったこともあってか、前回(308件)、前々回(332件)を下回っていました。講演の内容と件数は大別して次頁の表の通りです。また、国別の論文数は米国が90件あまり、次いで日本、カナダが30件あまり、以下フランス、UK、ベルギーと続いています。北米での開催とあって米国とカナダを合わせると半数近い数になっています。

表 分野別・国別発表論文数(日本音響学会 騒音研究会 資料 N-92-53より)

 今回のメインテーマは"Noise Control and Pablic"ということもあり、環境騒音、交通騒音をテーマとした発表が多かったように思われます。特に航空機騒音、空港周辺の環境騒音をテーマとした発表論文が多かったことが目につきました。また、環境騒音、工場騒音、機械騒音等に対する基準や、規格をテーマとしたセッションで7件の招待講演を含む17件の発表があり、EC統合に向けたEN規格の内容など各国の騒音規制に対する取り組みが紹介されていました。その他に、"Active Control"をテーマとしたセッションが4つあり、能動制御に関する発表論文が約30件(その内米国から21件)と多数あったことも今回の特徴と言えると思います。
 我々小林理研からの発表論文は、
山田  "Identification of outdoor sound sources with the aid of automatic tracking of sound arrival direction"
木村  "A study on acoustical characteristic of absorptive panels attached to the underside of an elevated freeway bridge"
平尾  "Experiment on evaluation method of human exposure to whole body level-fluctuating vibration"
の3件でした。
 山田室長は3日目の午前、"Measurement and Calculation of Aircraft Noise "をテーマとしたスペシャルセッションでの発表でした。このセッションでは主に航空機の騒音予測に関する報告がまとめられていました。なかでもB.F.Berry氏による低空で飛行する軍用機の騒音レベルパターンの予測モデルについての講演が聴衆の前で計算処理を実演していたこともあって話題を呼んでいました。山田室長の講演は、音の到来方向を自動追跡することで屋外騒音源(航空機)を同定する手法に関するものでした。航空機騒音の自動測定に関する講演は他に無かったこともあり、講演後も山田氏を囲んでディスカッションが続いていました。関心を持った参加者も多かったようでした。

 木村主任は2日目の午後、"Characterization of Sound Absorbing Materials"をテーマとしたスペシャルセッションでの発表でした。このセッションでは様々な吸音材料の特性について、また、音響インピーダンスの測定方法についての報告がまとめられていました。木村主任は、2層構造道路における裏面反射音の低減対策に用いる吸音パネルの開発に関する報告を行ないました。その内容は、斜め入射吸音率を測定することで吸音パネルの入射角ごとの吸音率を求め、その結果から反射音に対する対策果量を算出する方法を紹介したもので、質疑応答では吸音パネルの構造等について活発なディスカッションが行われました。
 最後に私の発表ですが、初日の午後の"Perception of Noise and Vibration"をテーマとしたセッションの最後でした。このセッションでは騒音、振動の生理的、心理的反応についての10件の報告がまとめられていました。そのうち8件が騒音に関するもので、1件は指先の感覚閾値に関する報告、残りが私の全身振動の評価に関する報告でした。騒音の知覚に関する報告の中にはニューラルネットワークを用いて騒音のアノイアンスを時々刻々に評価する方法、人間の持つ臨界帯域で騒音の周波数分析を行なうことで主観反応に対応したスペクトルを得る方法等様々な研究が報告されていました。
 私の発表の内容は家屋内等で道路交通振動を全身暴露された時の人間が感じた振動の大きさと振動評価量の関係をME法を用いた評価実験によって明らかにしたものでした。全身振動に関する報告が他に無かったこともあってか、質疑応答では振動評価量の算出方法についての質問がほとんどでした。また、周波数補正、時定数等、日本国内の地盤振動の振動レベル測定方法に関して興味を持たれた方もいて、講演後にLouis C.Sutherland博士ほか数名の方から日本国内の振動規制についての質問を受けました。我が国の振動規制の現状を紹介することに少しは役立ったのではないかと思います。主観的評価に関するディスカッションが少なかったことは少々残念でしたが、はるばる異国の地まで出かけた甲斐があったと思います。
 次回インターノイズ'93はベルギーのカトリック大学ルーベンにおいて1993年8月24日から26日までの日程で開催される予定です。我が小林理研からも参加が予定されております。

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