1992/7
No.37
1. 夏の音雑感 おくのほそ道 2. 作業環境の振動に関するアンケート調査 3. ふいご型緊急用信号機 4. レーザー光源パーティクルカウンターKC-21Aの開発
       <研究紹介>
 作業環境の振動に関するアンケート調査

騒音振動第三研究室 廣 江 正 明

1.はじめに
 都市における土地の有効利用を目的とした「立体道路整備法」により、道路や鉄道の上部空間を利用したビルなどの建設が可能になり、実際に高速道路が建物内を貫通するようなケースも現れている(写真)。しかしながら道路や鉄道と一体構造をもつ建物の場合、車両の走行に伴って発生する振動が建物内に伝搬し、建物の揺れ(公害振動)を生じたり、二次的な固体音を発生するなどの問題を引き起こすことが予想される。高速道路と構造的な繁がりをもつ建物を対象に行ったこれまでの調査で、道路のジョイントを大型車両が通過した際に発生した振動が建物内に伝搬し、室内で作業者が感じることのできるほどの振動レベルにあることを明らかにした。
 そこで今回、この種の建物内で振動調査と作業者に対するアンケート調査を並行して行い、振動に対する作業者の意識内容と振動レベルとの対応関係を検討したのでその結果を報告する。

写真 「立体道路整備法」の適用例
2.アンケート調査
 今回調査対象とした7つの建物とアンケート回答者数を以下に示す。
(A)鉄筋コンクリート造9階建て・・・・・
(一部鉄骨構造)        
(B)鉄筋コンクリート造3階建て・・・・・
(C)鉄筋コンクリート造3階建て・・・・・
(D)鉄筋コンクリート造3階建て・・・・・
(E)鉄筋コンクリート造4階建て・・・・・
(F)鉄筋コンクリート造4階建て・・・・・
(G)鉄筋コンクリート造2階建て・・・・・
合計・・・・・
28人

29人
12人
22人
38人
159人
27人
315人
 建物(B)〜(E)は車両の乗り入れが可能な高速道路の付随施設で、(B)〜(D)はエキスパンション・ジョイントを支える梁が、(E)は連絡橋がそれぞれ道路と建物の構造的な繁がりになっている。また建物(F)、(G)は高速道路直下の建物で完全な一体構造とみなすことができる。建物(A)だけが道路と構造的な繁かりがない。
 この7つの建物内の施設で働く作業者に対して下記の要領でアンケート調査を行った。
 (1)車の振動をどの程度感じているか
 (2)支配的な振動源は何か
 (3)振動が作業に与える影響とその程度

3.振動の測定
 対象の建物内で多くの作業者が働いている室を選び、室内の鉛直方向の床振動レベルを測定した。測定時間中、屋上などに設けたモニター点で高速道路および付近の一般道の交通状況を常に監視し、高速道路上の車両の走行に対応したレベル波形をとらえた。なお、測定地点は揺れが大きいと考えられる室の中心付近で、一室当たり20分〜30分間測定を行った。

4.調査結果
 アンケートに関する調査結果および作業室内の振動レベルの測定結果などについて報告する。なお建物(C)、(D)では測定日の昼間ずっと高速道路が渋滞し、通常の車両走行に伴う振動が十分に測定できなかったので、建物(C)、(D)のアンケート結果および測定結果は除外した。

4.1.アンケート調査結果
 アンケートQ9.(外を車が通ったときに、あなたは室内に居て建物の揺れを感じてますか)の回答を各建物ごとに整理した。このアンケート結果と各建物ごとの振動レベルとの比較を図1に示す。なお、各測定点の振動レベルは測定時間内に観測された大型車通過時のピーク振動レベルの上位5つの平均値であり、建物ごとの振動レベルは各建物の室内で得られた測定データの平均値、最大値,最小値を示している。
 高速道路と完全に縁切りされた建物(A)の振動レベルに比べて構造的な繁がりをもつ建物(B)〜(G)の振動レベルは高く、高速道路との繁がりを通して振動が建物内に伝搬していることが伺える。また建物(G)を除くと、最大値の大きな建物ほど振動を良く感じるという回答の割合が高い。

図1 アンケート集計結果(Q9.)

4.2.室内振動レベルとの対応
 フロア当りのアンケート回答数が10人以上で、かつフロア内の測定箇所が2つ以上あるケースを対象にして、各フロア(階)で働く作業者のうち「振動が仕事に影響を及ぼす」と判断した人(アンケートQ12.(4);振動が(総合的に)仕事の邪魔になることが…1.頻繁にある,2.時々ある,3.希にある,4.まったくない,について1.あるいは2.と回答した人)の割合と、フロアの床振動レベルの対応関係をみた。なお、各階の床振動レベルはフロア内の各測定点で得られた振動レベルのパワー平均値を用いた。
 図2に示されているように、床振動レベルと作業者の反応は良い対応を示している。図中の破線は、直線近似を当てはめた場合の振動レベルと作業者の判断確率の関係を示していて、振動レベル60〜65dBで正反応の判断確率がほぼ30%になっている。

図2 判断確率と振動レベル(パワー平均値)

5.まとめ
 道路と一体構造をもつ建物内の作業者に対してアンケート調査を行い、振動に対する意識調査を行うとともに、室内の振動レベルを測定しアンケート調査結果との対応を調べた。今回得られた作業者の反応と振動レベルの関係は、これからこの種の建物の設計する際に参考になるものと思われる。
 今後、本調査結果をより詳細に分析するとともに、振動の伝搬性状や遮断効果など他の測定結果の解析を進めるつもりである。また居住環境についても同様な調査を行う予定である。

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