1992/1
No.35
1. 迎 春 2. 木造家屋の振動増幅特性(振動増幅の周波数的特徴) 3. デジタル補聴器 HD-10 (DIGITALIAN)
       <研究紹介>
 木造家屋の振動増幅特性
    (振動増幅の周波数的特徴)

騒音振動第二研究室 平 尾 善 裕

1.はじめに
 現在施行されている振動規制法では、敷地境界の地盤上の振動に対して人間への影響を考慮した上で規制値を定めている。そのため人間が建屋内部で振動を暴露される場合、地盤上と建屋内部での鉛直方向、水平方向別の振動レベル差(振動増幅特性)が重要となり、規制値にもこれが考慮されている。しかし、振動レベルでの建屋増幅量は建屋に入力される振動と建屋の振動増幅量の周波数特性の関係に左右されるため、構造や軒高が同じ場合でも振動増幅量にバラツキが生じる。
 ここでは、地盤振動の周波数特性から建屋内の振動レベルを予測する上での資料とするために、構造的に振動増幅量が大きいとされる木造家屋での鉛直方向、水平方向別の振動増幅特性の周波数的特長について検討した。

2.調査方法
 調査対象家屋は道路、鉄道、工場、新幹線等の振動源から5m〜50mに位置する木造家屋97戸(内プレハブ住宅12戸)である。振動源から発生した振動の加速度を図1に示す建屋敷地内地盤上、玄関、1階床(3点)、2階床(3点)で測定した。測定点は、平坦で堅い場所とし、建屋内では畳上は避け、板間上とした。

図1 測定点の概要

 鉛直方向(Z)、水平方向(X:建屋長軸方向、Y:建屋短軸方向)を同時計測し、中心周波数で1Hz〜80Hzの1/3oct.バンドごとの振動加速度レベルの最大値を求めた。(以下周波数は1/3oct.バンドの中心周波数を示す。)
 1階、2階の床面では場所による測定値のバラツキがあるため3点の平均を各階の値とした。各測定点で計測された各1/3oct.バンドの振動加速度レベルを用いて玄関、1階、2階と地盤上とのバンド毎のレベル差を算出し、周波数領域での振動増幅特性とした。
 図2に示すように地盤上で計測した振動が平均的に16Hz〜31.5Hzをピークとする周波数特性を持っており、2階床面でも同様の結果である。このために、2Hz未満と80Hzの周波数については、建屋内のS/Nがとれていないものが多く正確な振動増幅量を算出できないため検討の対象から除外した。

図2 地上盤と2階床での平均的周波数特性

 鉛直方向の振動増幅特性
 97戸の玄関、1階床、2階床の鉛直方向の振動増幅特性を図3に示す。図中各バンドの●印は中央値、長方形は50%レンジ幅、点線は90%レンジ幅を表わす。また平均値を〇印で示し実線で結んでいる。

図3 鉛直方向の振動増幅特性
(97全戸の玄関、1階床、2階床の振動と敷地内地盤上の
振動の周波数領域におけるレベル差)

 玄関では、全体に地盤上の振動よりも小さくなる傾向にあるが、特に10Hz以上の周波数でその傾向が顕著である。
 1階床では31.5Hz以上の周波数で増進する傾向が見られるが、それ以下の周波数では平均的には大きな振動増幅は見られない。
 2階床でも1階床同様31.5Hz以上で増幅する傾向が見られる。また、6.3Hz〜25Hzの増幅量は1階床よりも若干大きな値(平均値2dB前後)を示している。
 鉛直方向での平均的な増幅特性は、玄関では高い周波数になるに従い減衰する傾向を持つと考えられる。
 平均的な特性には周波数で増幅量が増大するような際立った特徴は見られない。しかし、各周波数での増幅量のバラツキは大きく、この中には特性の異なるものがいくつか含まれていると考えられる。そこで2階床での増幅量の周波数特性を用いたクラスター分析を行うことで特徴の抽出を試みた。その結果、図4に示す有意な差を持つ2つのグループが抽出された。

図4 2階床の振動増幅特性(鉛直方向)
(クラスター分析で分類された周波数領域での
振動増幅特性(a):46戸 (b):20戸)

 約半数の建屋は、(a)のグループに属し、全戸の平均的な増幅特性と同様の傾向を示している。一方(b)のグループに属する約20%の建屋では、6.4Hz以上の周波数で5dB(平均値)以上の増幅量を示しており、40Hz〜50Hzに極大点(平均値15dB)を有している。
 水平方向の振動増幅特性
 各戸のX方向(建屋長軸方向)、Y方向(建屋短軸方向)の振動増幅量の周波数的な特徴に有意義な差は認められなかったため、X,Y方向のうち全周波数帯域での増幅特性とした。対象97戸の玄関、1階床、2階床の水平方向の振動増幅特性を図5に示す。

図5 水平方向の振動増幅特性
(97全戸の玄関、1階床、2階床の振動と敷地内地盤上の
振動周波数領域におけるレベル差)

 玄関、1階床ともに鉛直方向の平均的な増幅特性と同様の特性を有し特定の周波数で増幅量が大きくなるような特徴は見られない。
 これに対して2階床面では、6.3Hzで増幅量が約10dB(平均値)となる極大点も持つ特性を示している。
 2階床の水平方向についても鉛直方向と同様にクラスター分析を行った。その結果、図6に示すような5Hz、6.3Hz、8Hzに鋭い極大点を持つ3つのグループに分類された。また、振動増幅量も全戸の平均的な増幅量よりも大きな値となっている。木造家屋の2階床面では5Hz〜8Hzの範囲に極大点を持つ建屋増幅特性であると考えられる。

図6 2階床の振動増幅特性(水平方向)
(クラスター分析で分類された周波数領域での
振動増幅特性 (a):27戸 (b):22戸 (c):35戸)

3.まとめ
 木造家屋の振動増幅特性を周波数領域で検討した結果、2階床面での水平方向の振動増幅量が大きく、人間が振動を感じやすい8Hz以下の周波数(ISO 2631-2の結合曲線による)で増幅量が極大値(平均値で10dB以上の値)を持つ特性を示している。
 しかし、一般的に地盤上の振動は水平方向よりも鉛直方向の振動が大きい傾向にあることや、調査した家屋では16Hz〜31.5Hzにピークを持つ周波数特性であるために2階床面の水平方向の振動が鉛直方向の振動を上回るレベルには達しておらず、水平方向の振動増幅が問題になることは少ないと考えられる。
 地盤上の振動特性が鉛直方向より水平方向が大きい場合や、低い周波数に主な成分をもつようなケースでは問題となることが考えられる。

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