1991/10
No.34
1. 国際化と教育 2. パラボラ付きのハルトマンの噴気発音器 3. 音が出る舗装について 4. AM-08型 エアベロチェッカー
       <研究紹介>
 音が出る舗装について

物理研究室 田 矢 晃 一

1.はじめに
 最近、街中を車で走っていると、カーブ区間では縞状に舗装面の色と粗さを変え、注意を促したり、道路中央のはみ出し禁止の黄線上に等間隔に小さな突起を設け、タイヤが黄線を踏むと『ブーッ』と言う音と共に車体振動が発生し、車の位置を認識させるような工夫が見られるようになった。従来はこれらを「視覚」のみで判断していたが、ここに「聴覚」ヘの刺激が加わることによって、運転者は新たな注意を払うことになる。

 高速道路においてもこの様な「特殊舗装面」が考案された。これは、グルービング工法と呼ばれる、道路に溝を付ける工法により、運転者の身体に衝撃を感じさせぬ程度の溝を走行方向と直角方向に設け、走行車両の車体振動から室内へ音を発生させる方法である。高速道路において居眠り運転は重大な事故に直結する。これに対する警告として、標識、看板、垂れ幕などの「視覚」に訴える方法は、居眠りに対する効果は少ないと考えられる。そこで、覚醒へのより効果的な方法として、グルービング工法が考案された。実際に、高速道路本線で、「魔のカーブ」と呼ばれる事故が多発する区間で試験施工を行ったところ、この区間での事故は大幅に減少し、覚醒への効果は十分にあったと評価されている。

 この試験施工区間を走行中の車内音を収録し、その分析結果により、溝幅やピッチと車内発生音の関係について報告する。

2.試験施工の方法
 グルーピング(溝切り)の工法は、Table1に示す3通りとした。工法Iは、V型9mmの溝でピッチは40 mmである。工法II、IIIは、U型で、それぞれ溝幅は、18 mm、24 mm、ピッチは150 mmおよび200 mmである。いずれも溝の深さは10 mmである。これらの溝を数m区間施工し、さらに間隔をおいて施工した。こうして、Fig.1に示す4パターンの試験施工を行った。最初の3パターンは、下り線に設置したもので、第1パターンの後第2パターンを2回繰り返し、第3パターンを施工した。第4のパターンは上り線に設置した。

Table1 Section plans of grooving
Fig.1 Grooving patterns.

 施工場所は九州自動車道で、これらのパターンは、九州地方の伝統的な大鼓の音色を模したものである。

3.車内音分析結果
 Fig.2に、特殊舗装区間走行時の車内音圧レベル波形を示す。測定に用いた車はブルーバードであり、運転者の耳元での測定結果である。Fig.2(a),(c)に示すように、車内発生音は0.A.レベルに影響を与えるほどの音圧は発生していないことが分かる。Fig.2(b),(d)は、900〜1800Hzのフィルターをかけ、時定数0.01秒で記録した結果である。各パターンに対応したレベル上昇が観測され、太鼓の拍子が見事に再現されている。この例から、溝による発生音は、1kHz近傍に主成分があることが分かる。聴覚上もこのレベル変化をはっきりと聞き取れた。

Fig.2 S.P.L. in the car running on the grooving road.

 Fig.3は、発生音のFFT分析結果例である。図は、工区IIを走行中の結果であるが、このときの聴覚上の主成分は1110Hzであることが分かる。また、約160Hz間隔で等間隔に卓越周波数が存在している。

Fig.3 An example of FFT analyses for the sound.

4.溝と発生音の関係
 車内発生音と、溝幅およびピッチの関係について考察する。Fig.4は、車内発生音を900〜1800Hzのフィルターを通して見た音圧波形である。振幅の大小はあるものの、ほぼ同波形の連続波と見ることができる。Fig.5は、タイヤと、溝の関係を示したものであるが、波形の出現間隔τは、タイヤが溝の間隔dを通過するに要する時間とほぼ一致している。また、出現周波数は、タイヤが一つの溝を通過する時間の逆数にほぼ一致している。

Fig.4 Sound pressure of 900-1800Hz in the car.
Fig.5 Schematic diagram of a wheel and grooves.

 この関係を数式上で考える。車内音圧をy(t)とし、1つの溝から発生するパルスをp(t)とする。p(t)は、ある時間領域のみ値を持ち、その前後は0の関数である。

 p(t)が時間遅れτを持ってn個連続しているとすると、

と表せる。y(t)のフーリエスペクトルは、

従って、その絶対値は、

となる。は、簡単のために角周波数の正弦波2波長から成り立っているとすると、その絶対値は、

Fig.6は、およびを図3の条件で計算した結果であり、Fig.7はそれらの加算値である。Fig.3と比較すると、卓越周波数の出現傾向はよく似ており、車内発生音の発生メカニズムはほぼ表されていると考えられる。

Fig.6 Fourier spectra of |P| and |W|.
Fig.7 Fourier spectrum of |Y|(=|P| |W|).

 Table 2に、各パターン走行時のおよびの分析値を示す。車速は速度計の読み値(V1)および音圧波形からの計算値(V2)を示した。V2とからの計算値(V3)を比較すると、これらは良く一致しており、が溝の間隔に起因するものであることが確認できる。また、と、溝幅と速度の比を比較すると、V型のパターンIを除いて、その比がほぼ同一の値(0.84)になっている。即ち、v/wから計算される周波数よりもやや低い周波数の音が主成分となるような音が発生している。これは、発生メカニズムに大いに関係することであるが、現在のところ解明するに至っていない。この比を用いて、発生音と周波数と車速の関係をFig.8に示した。

 
Fig.8 Measured and predicted value of and

5.あとがき
 道路にグルービングを行い、車内にリズム感のある音を発生させ、運転者の覚醒を喚起する方法は、交通事故防止の観点からは顕著な効果があると認められる。ただし、これに伴い三つの新たな問題が生じている。一つは、運転者が自動車の故障ではないかと心配することである。これについては、道路標識を設けたり、発生音をユニークなリズムにすることにより解決されると考えられる。次の問題点は、高速バスの乗客等の睡眠を妨害してしまうことが懸念されることである。第三の問題点は、グルービングを行うことにより、車内のみならず車外、即ち沿道でも異常な音が聞かれることである。眠気を催す区間は、街中ではなく、郊外、或いは山間の区間が多く、現在のところ直接的な苦情はないが、沿道環境にも十分注意しなければならないことは言うまでもない。解決すべき問題が残されてはいるが、グルーピング舗装は、交通事故防止に対し一石を投じたと考えられる。

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