1991/10
No.341. 国際化と教育 2. パラボラ付きのハルトマンの噴気発音器 3. 音が出る舗装について 4. AM-08型 エアベロチェッカー <技術報告>
AM-08型 エアベロチェッカー
リオン株式会社音測技術部2G 鴻 田 好 信
1.はじめに
最近、テレビで"快適なオフィス空間"などの言葉で"快適環境"をアピールするコマーシャルがあります。人は高品質な生活環境を求める時代に入っているように思われます。
快適環境を創り出すためには音、空気、熱、光の要素を制御する必要があります。この中で最も基本的で重要な要素は"空気"です。
快適さを保つためには生活環境の換気と温湿度を管理する必要があります。この様な快適環境を求めるために、年々、建物内の気流を測定することが増えています。
AM-08型エアベロチェッカー(Air-Velo Checker、空気・速度・簡易測定器の意)は、そのような時代の要求を受けて産れた超小型・軽量・安価な風速簡易測定器です。
風速計には、一般にくるくる回転する"おわん"のイメージがあります。この"おわん"は回転軸受けに摩擦抵抗があるため建物のゆっくりとした気流を測定することができません。
ゆっくりとした気流も、温度が高い物体から熱を奪う作用があります。リオンの風速計はこの作用を応用して風速を測定しています。つまり、故意に加熱した温度の高い素子と、周囲の温度を測定する素子を組み合せて、この二つの素子の温度差を測定することで風速を測定しています。AM-08はこれら加熱素子と音測素子にトランジスターを使用しています。
図1 エアベロチェッカー AM-08型 図22.簡易操作
AM-08は操作性や表示などのヒューマン・インタフェースを徹底的に追及した風速計です。
本器は胸ポケットに入る超小型(183×55×22mm、たばこケースの幅と奥行)なサイズであり、重さは約160gと軽量で常時携帯しても負担感覚がない極めて機動性に優れた風速計です。
センサーと本体の一体構造や、従来あったレンジ切換えスイッチ、表示切換えスイッチをなくすなどしてシンプルな構成にしました。
測定した風速と気温は単位(m/s、℃)や他の情報と共に大型液晶に一括同時表示します。
スイッチの表示は""、(バックライトスイッチ)、"▲▼"(アップ、ダウンスイッチ)など、戸惑わず操作できるようにした、先練されたデザインです。
現場での操作性を追及した結果、電源の入切や、ホールド、メモリなど全てのスイッチ操作が片手で行えます。3.データロガーとして
本器は、測定状態を含む測定データを999組まで記憶することができ、データロガー(測定値の集積器)としての使用が可能です。
測定箇所を巡回して行う場合はスイッチ操作によるマニュアル記録をします。一箇所を長時間連続で測定する場合はオート測定をします。オート測定は内蔵の単3型アルカリ電池2本で約15時間の無人計測が可能です。
測定データの読み出しは、本体での呼び出しは無論、プリンタで出力したりパソコンで呼び出すことも可能です。
また、上限と下限のしきい値を設定することによって、測定値が設定した範囲内か否かを測定者に知らせる比較機能を持っています。この機能は規格の決められた送風機などの検査に有効です。
図3 プリントアウト例4.直線化回路のソフトウェア化
測定器の中には測定した物理量とセンサーの出力が直線的な関係にない場合が多くあります。風速計も例外ではありません。このような測定器においては電子回路によって、物理量とセンサー出力を直線的な関係にする必要があります。
この電子回路は直線化回路とも呼ばれ、非直線性の入力信号を数本の直線を組合せた折れ線で近似する回路になっています。従来のリオンの風速計も直線化回路を使用しております。
直線化回路は、折れ線近似のため精度が向上しない、均一な品質を保ことが難しい、調整に多くの時間を必要とする等、幾つかの欠点を持っています。
これらの欠点を克服するために直線化を電子回路からソフトウエアにしました。
ソフトウエアによる直線化は次の手順で行います。
(1)直線的に物理量(ここでは風速)を変化させて、センサー出力を数点計測します。
(2)計測したセンサー出力値を基に最少二乗法によってカーブフィッティングをします。
(3)求めたフィッティングカーブをAM-08に組込みます。
(4)AM-08はセンサーで検出した測定値をフィッティングカーブを基に風速値に換算をして表示します。
この方法の採用により当初目的は当然の事ながら、回路規模の減少による省電力など二次的利点も発生しました。
図4 通信サンプルソフト画面例 図5 多チャンネル測定例 図6 直線化回路入出力例 図7 直線化回路と直線化処理5.微風速値のトレーサビリティー
微風速(ここでは1m/s以下の風速、人の感じにくい程度の風)領域で絶対基準とすることができる風速を実現することは技術的に非常に困難です。
従って、これまでは風速計メーカー各社は独自の校正技術を確立しておりました。このことが各社の製品の指示値が一致しない理由であり、ユーザーに迷惑をかける結果となっておりました。
リオンにおいても、独自な方法として、"ターンテーブル"により微風速領域の校正を行って来ました。これは、閉ざされた空間の中で大きな円盤(直径1.3m)を回転させて校正する方法です。風速センサーはこの回転円盤に固定して一緒に回転させます。
この方法は閉ざされた校正装置内の空気が静止状態ならば、円盤の回転によるセンサーの移動速度が校正のための基準風速(Vs)となります。
しかし実際は校正装置内の空気は、微速ではあるが円盤やセンサーに追随して共に回転します。この流れを副流と称しています。この副流分をVsに対して補正する必要がありますが、副流を高精度に測定することは困難でした。
最近、微風速域でのユーザーの要求精度の向上に伴い、各社製の風速計の指示差が問題にされるようになりました。通産省工業技術院計量研究所もこの問題を重くとらえ、3年前から同研究所の技術指導により、財団法人・機械電子検査検定協会によって微風速領域の校正サービスが行われております。
現在、リオンは機電検で校正した基準器を基に比較校正した二次基準器を社内基準としております。製品はこの二次基準器を基に校正しております。機電検の校正サービスによって、従来の最大の課題であった副流による問題が消え失せたことは非常に大きな成果です。
機電検による校正は、計量研究所の校正設備を使用しての校正であり、微風速の国家レベルでの校正*1とみなすことができます。従って、多くの微風速計メーカーはトレーサビリティー*2体系が整ったとみなすことができ、今後、その維持管理技術が問われることになります。
参考)JIS Z 8103-1978計測用語
*1 校正
標準器、標準試料などを用いて計測器の表す値とその真の値との関係を求めること。
*2 トレーサビリティー
標準器または計測器が、より高位の標準によって次々と校正され、国家標準につながる経路が確立されていること。6.おわりに
本器は、空気流測定のニーズが拡大したことに対して安価な微風速計を提供するため、簡易測定器(チェッカ一)をコンセプトとして設計しました。このために0.2m/s以下の微風速領域については測定範囲外として校正に対する負担を軽減しました。
本器の設計思想は今後の微風速計の設計に大きく影響するものと思われます。さらに、前述のように微風速領域の校正については国家標準の気運も高く、ユーザーニーズにマッチした微風速計が提供できると思います。