1991/7
No.33
1. 岡 小天先生と小林理研 2. ガルトンの超音波笛
[エーデルマンパイプ]
3. コンクリート床版の疲労度試験 4. 超音波リークディテクター UM-61型 超音波音源 SF-61型
       <研究紹介>
 コンクリート床版の疲労度試験

物理研究室 室長 金 沢 純 一

1.はじめに
 高速道路橋などのコンクリート床版は、走行する車両によって少しずつ破壊され、長い年月には一面に細かなクラックが発生する。破壊がある限度を越えると床版の強度が足りなくなるため補修が必要となるか、果してその床版が補修を必要とする状態にあるかどうか、また強度に余裕がある場合でも、道路の補修計画を立てるためにその床版が補修を必要とするまでのどの段階にあるかを何らかの方法で検査することが重要である。

 床版の疲労度を調べるために、目視あるいは赤外線写真によって求められた床版表面のクラック密度を指標にする方法、床版の漏水状態を指標にする方法、車両通過時のアコースティックエミッションの発生度数を指標にする方法など、いくつかの方法が提案されているが、ここで紹介する方法は、超音波領域の弾性波振動の距離減衰がクラックの増大とともに大きくなることに着目した方法で、昭和62年から日本道路公団試験所と当研究所が共同で実用化に向けて研究を進めているものである。

2.床版の振動伝搬特性
 供用中の道路橋では走行車両のタイヤが路面を叩くことによる振動が頻繁に発生しているが、この振動のスペクトルを観測することにより概略の疲労状態を知ることができる。図1は供用後約1カ月の新しい床版と、20年以上使用してたくさんのクラックが入っている床版について、車両走行時の振動のレベル記録を示したものである。疲労した床版は新しい床版に比べ高い周波数成分の振動をあまり含んでいないが、この理由はクラックが多い状態ほど高い周波数での伝搬損失が大きく、振動発生位置から測定点までの間に大幅に振動が減衰することによると考えられる。

図1 車両走行によって発生するコンクリート床版の振動

 走行車両による振動を観測する方法では、振動源の位置が車両によって異なるため必ずしも精度の良い測定値が得られるとは限らない。本研究では振動源と測定点の位置が正しくとらえらるように振動源を別に用意することにした。この振動源は、通行車両による振動が頻繁に発生する中でも測定ができるような強力なものである必要がある。ブラシなどでコンクリートの表面を摩擦すると、1kHz〜100kHz程度の周波数範囲の振動を容易に励起できるので、ここではこれを床版表面に接触させて弾性波振動を発生させ、周波数成分毎の振動加速度の距離減衰特性を測定することにより、疲労状態を定量化することを試みた。

 はじめにクラックの発生状態と振動距離減衰の関係をとらえるために模型実験を行った。図2に示すような150×300×12cmのコンクリート床版模型に繰り返し加重を加え、表1のようにいくつかの段階のクラックを発生させた。表2は日本道路公団で使用している床版疲労状態の判定法のうち「格子密度法」による判定基準を示す。表1の模型床版にこれを適用すると、損傷度0〜IIIに相当する。

図2 模型実験に使用したコンクリート床版
表1 模型床版の損傷状態
表2 「格子密度法」による床版疲労状態の判定基準

 塗装工事用の小型電動ワイヤーブラシを振動源とし、これから0.1〜2m離れた数カ所で振動加速度を検出して1/3オクターブバンド分析を行った。図3に測定装置の概要を示す。図4は測定結果を周波数成分毎に距離と加速度レベルの関係を表したものである。新しい床版に対し、疲労度の大きな床版では周波数が高いほど、また振動源からの距離が大きくなるほど相対的に振動が小さくなる傾向がみられる。

図3 模型実験測定系列
図4 模型床版の振動距離減衰特性
 振動の距離減衰特性を近似するにはいくつかの関数が仮定できるが、ここでは振動力のレベルと距離の対数の間で直線近似を行い、その勾配で距離減衰特性を表すことを試みた。図5は周波数毎の振動距離減衰係数を示したものである。新しい床版では距離減衰が少なく、損傷度の大きな床版では大きな距離減衰になる傾向がみられる。特に5k〜40kHzの周波数範囲でこの傾向が顕著に現れている。

図5 模型床版の距離減衰係数周波数特性

 次に実際の高速道路で同様の測定を行った結果を示す。この測定は検査用通路が設置された高速道路橋床版の裏面で実施した。図6は振動加速度のレベル記録例で、通行車両による振動が頻繁に発生しているが、L95等の低い方のレベルを読取ることにより、加振状態と停止状態のそれぞれの振動のレベルを読取ることができる。

図6 実橋における振動のレベル記録
 図7は実橋で得られた振動距離減衰係数を周波数毎に表したもので、図中には模型実験による値も記入してある。これらの橋は供用後20年前後で、損傷がかなり進んでおり、近年中に補修を要することがクラック調査などの他の調査結果からわかっている。また、損傷状態も概ね(1)、(2)、(3)の順になっている。図8は多くの橋梁でこの測定を実施し、類似した路線毎に振動距離減衰係数を平均して表したものである。供用後の年数が長く交通量の多い路線の橋梁ほど、距離滅衰係数が大きくなる傾向がみられる。
図7 実橋調査で得られた振動距離減衰係数
図8 周波数範囲毎の振動距離減衰係数
3.簡易型床版疲労度測定器の試作
 これらの調査結果をもとに、簡易型の疲労度測定器を試作した。この装置は一人で操作することを前提にしており、持運び及び取扱いが容易であることを設計条件にした。測定器の外観を図9に、ブロック図を図10に示す。加振点から0.1〜2mの範囲の3カ所の振動加速度を測定し、10k〜20kHzの4つの周波数バンドについての距離減衰係数とこれらの平均値がその場で求められる構造になっている。また測定値を記憶し、持ち帰った後電算機等でデータ処理することも可能である。この装置は最近完成し、今後各地の橋梁で試験的に使用される予定である。
図9 簡易型床版疲労度計測器の外観
図10 簡易型床版被労度計測器のブロック図

4.おわりに
 道路橋の床版の疲労状態を数量化する一つの試みとして、超音波領域の振動距離減衰性状に着目した試験方法を紹介した。床版の損傷状態と弾性波の伝搬特性の関係については未知の部分が少なくないため、この方法をどの範囲の疲労状態の測定に使用できるかは今後の研究課題として残される。

 振動伝搬特性に着目したコンクリート構造物の非破壊検査については、ここで取り上げた道路橋のほか、建築物などさまざまな分野で応用が可能と考えられる。

 今後は内部破壊に伴う振動伝搬特性変化の機構を検討するとともに、他の分野への応用を試みることを予定している。

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