1987/4
No.16
1. 吸音材科学の枠組 2. 最近の米国の騒音環境 3. JIS B4900-1986とISO 5349-1986 4. 地震時列車制御用地震計 5. 米国航空局の空港周辺土地利用計画書
   
 最近の米国の騒音研究

五 十 嵐 寿 一

はしがき
 米国における最近の騒音に関する研究の動向について、昨年12月に開催されたASAの秋期大会の内容を、刊行されたプログラム概要をもとにまとめてみた。また最近発行されたANSI Standardsも参考のために収録した。

1. 米国音響学会の秋期大会
 ASAの秋期大会は1986年12月、カリフォルニア、アナハイムにおいて開催された。この会議でカナダのTony Embletonは、騒音制御の分野における彼の理論および実験的研究とその国際的な指導的役割りに対して、“Silver Medal"が贈呈された。ここでは大会の中で発表された騒音に関係のある論文について、その概要を紹介する。

 中心となっているテーマとしては航空機騒音一般のセッションの外に、特に今回は、FAA, FAR Part 150-Airport Noise Compatibility Program.*が1985年1月に提案され、ASAの春の大会でFAAのR. B. Hixsonによって紹介されたのを受けて、空港周辺の土地利用対策として家屋の遮音性能に関する発表が2つのセッションで取り上げられた。これ以外では、ここ数年続いている音響インテンシティと音響インテンシティによるパワーレベル測定に関するセッションが2つ、風力発電のWind Turbineの騒音とその影響のセッションなどがあり、それ以外は各種騒音に関する論文である。

*本ニュース、P16_5 海外情報参照

(1) 航空機騒音: Chairman, J. K. Karlsberg, Boeing Co.
 航空機の機体から発生する騒音に関連して、NASAの風洞実験による構造物の表面音圧の遠距離場の音圧の相互相関法による音源領域の決定、フランスONERAの自由音場における乱れた気流の圧力分布と発生騒音に関する研究、またAlan Powell(Houston Univ.)の超音速ジェット流によって発生する不安定な圧力分布と発生騒音についての報告があった。流れによる騒音については、別のFlow-induced Structural Vibrationのセッションでも数多くの発表がある。航空機騒音のモニタリングに関してR. W. Youngは、主としてソニックブームの測定の結果を報告した。またソニックブームの発生とその影響については、L.C.Sutherlandが1969年から1983年の間の米国ネバダ州における国防省のソニックブームの記録と周辺地域の健康調査の結果との相関について検討を行ない、その因果関係は明確でないと報告している。 R. K. Wolf等は航空機騒音の地対地の遠距離伝搬における過剰減衰について、堅い地面と軟らかい地面の場合を比較した。
 Hatlestadは飛行中の航空機騒音のスペクトルを地上で観測すると、ドップラー効果によって周波数がシフトするので、この影響を除く処理について発表した。

(2) 航空機騒音の遮音Part 1.  
   Chairman, D. E. Bishop
  FAA, R. N. TedrickはFAA Part 150について、その提案の経過と目的及び概要について紹介を行った。NBSのS. L. VanivはPart 150のマニュアル作成についてその概要と家屋防音設計の手続きを解説している。
 カナダ、NRCのJ. D. QuirtはSTC(sound transmission class)……戸外と室内の望ましいA-特性音圧レベルの差……によって構造物の遮音性能を評価設計する場合、戸外騒音の性質と構造物の遮音特性をよく考慮する必要のあることを述べている。またロスアンゼルス空港及びローガン空港周辺において、種々の騒音暴露の状態に対する家屋の遮音について検討した結果の報告があった。 (Brown, Wyle lab.)(Stiffer, Logan Airport)
 家屋の遮音性能は、外部騒音のスペクトルに関係があり、同じ外部騒音レベルに対して室内で3dBの差が生ずる場合があるので、航空機・遊路騒音のスペクトルを想定したシミュレーションを行った。(A. Segal)
 高い周波数領域ではコインシデンス現象によって、入射角度によって特定の外部騒音が室内で問題になるという指摘があった(M. E. Schaffar)この他、航空機騒音に対する小学校の防音設計に関する報告(J. A. Johnson)

(3) 航空機騒音の遮音 Part 2.
   Chairman, G. E. Winzer
 航空機騒音に対する土地利用の指針として、LAeqあるいはLdn, 45dBを望ましい室内基準とすることが、1983年の作業委員会(Workshop)で提案されている。家屋の遮音性能の指標としてSTCが広く使用されるようになったが、これを求めるため、家屋構造の隔壁ごとのT. L.、外部騒音のスペクトル、室内の吸音力等のデータを基礎としたworksheet(手順書)によって室内の騒音暴露を計算することができる(D. Bralau)
 カリフォルニアの建築基準では、新しい多家族の住宅ホテル、モテルについて外部騒音を、Community Noise Equivalent level(Ldnに夕方の時間帯補正5dBを加えた指標)45dB以下にすることを推奨し、エネルギー節約の点から屋外空気の室内への浸透をできるだけ防ぐことも勧告している。これは騒音防止の上から好ましいことであるが、温暖な西海岸地域では空調設備が必要とされるので、騒音規制を実施するについての空調の設計、経費等の問題点について述べる。(R.B.Dupree)
 外部騒音を遮断する壁の効果についての評価(Single value rating)として、SutherlandはWyle Lab.で開発されたEWR(External Wall Rating)を紹介している。この評価量はSTCが単に室内外相互の遮音の程度を示すのに対して、EWRは壁等の家屋構造の航空機・道路騒音に対する遮音性能を、単一のA-特性音圧レベルで表示する指数である。このEWRについては、225種類の家屋構造と33種類の窓構造の組合わせとして、22,500のケースについて1/3オクターブのT.L.のデータに基づいて検討した。従ってこの指数は騒音のスペクトルに関する補正も含んでいる。
 窓の遮音性能を的確に示すためには、STCを道路、航空機、鉄道騒音に対する各種の窓の測定結果から求める必要のあること、また騒音の軽減については、騒音のスペクトル、騒音の入射角度が関係する。また壁等の構造は窓に要求される最低の遮音性能と密接に関連があるので、簡単なSTCの測定方法を紹介する。(G. C. Tocci)
 二重ガラス窓の効果として、厚さ1/8インチで、間隔2インチのガラスの場合STCは37〜39dBであるが、厚さの異なるガラス(最大1/4インチ)を用いるとSTC48dBさらに厚さを1/2インチ、間隔を8インチにするとSTCは56dBになる(T. S. Stark)
 二重ガラスの間に種々のガスを封入した場合について遮音測定の結果と理論計算の結果の報告(M. S. Atwal)

(4) 一般騒音:Chirman, G. Daigle, NRC Canada.
 騒音一般については、各種のテーマがあるので、このセッション以外のものも含めて要点のみを紹介する。
☆ 小口径砲、対戦車ミサイルの発射、着弾の際の衝撃音の地形による伝搬特性の計算プログラム、A-特性のLdnを用いている(Wrobel & Lewis)
 ライフルレンジ周辺の衝撃音の伝搬は、地上風の方向に関係するが、25mm砲以上では1,500〜6,000m離れた地域で問題になる。この場合は上空500mの風向きに関係する(G. A. Luz)
☆ 2つの計算モデルによる道路障壁の遮音効果の比較(R. E. Burke & K. Nand)
 高速道路または主要道路に近い高層ビルで、窓から入る騒音について、直線音源を仮定し入射角度を考慮した計算と既存の資料との比較を行った(J. P. Christoff)
☆ 低音域における不整形残響室の形状について、有限要素法による計算の結果、三角形状の領域の場合に固有振動の数が少ない。従ってこれをもとに最適の残響室の形状について検討した(J. R. Milner & R. J. Bernhard)
☆ 水源地におけるポンプから発生する騒音が周辺に及ぼす影響を軽減するため、ポンプを遮蔽する対策を実施し事前事後の測定を行った。この処置はポンプの温度を一定に維持することになり、サービスライフを延ばすことにも貢献する。(B. E. Morse)
☆ 工場の屋根に使われる一定間隔で支持された二重パネルの低音域における吸音特性(J. S. Bolton)
 ポリウレタン材料の表面波のノーマルインピーダンスの測定(J. S. Bolton, J. R. Green)
☆ 腎臓結石の爆薬破壊の際の騒音対策について、 (J. T. Weissenburger)
☆ 流れのある場合のダクトのアクティーブコントロール(W. G. Richarz)
☆ 吸音材料を用いたマフラーの低周波領域における減衰特性、測定は2マイクロホンフロープによる。平面波の場合について、材料の伝搬定数と音響インピーダンスを用いてダクトの四端子定数を計算し、挿入損失について実験結果との比較を行った。(C. Pommer)
☆ Blow-down Water Tunnelの水流によって発生する騒音(S. A. Elder)
☆ 短いインパルスのピークレベルはマイクロホンの位置と音源からの方向に関係がある。時定数2μ〜1sec.で測定(L. Shotland)

(5) 風力発電の騒音: Chiarman, H. H. Hubbard, NASA
 風力発電の歴史及び騒音問題と周辺への影響、エネルギー節減の問題を契機にタービンによる風力発電が数多く建設され、発生する騒音が環境問題としてとりあげられている。タービンの回転に伴う特異音成分、特に低周波のうなりがあること、またテレビの視聴障害を生ずることもある(M. C. Wehrey)
 出力が数キロワットから120キロワットの場合、125フィートの距離で65〜75dBで、変動幅が10dBにもなることがある。(S. R. Lane)
 現在数メガワットのものも建設されており、その発生騒音について、数kmにわたる伝搬特性を、マイクロホンアレイを用いて測定した。この場合3-3,000Hzの周波数が観測される(H. H. Hubberd)
 Wind Turbine Noiseの影響として、特に低周波における特異音の評価が問題になるので、このような場合通常行われるようにペナルティ、5dB加えることを提案する(J. Buntin)

6) 音のインテンシティ及び音響パワーの測定: Chairman, R. J, Peppin.
 音響パワーをインテンシティ法で測定する場合の精度は測定系、測定環境と測定点の数に関係する。これらについての最適のパラメータを選定する必要がある。これらのパラメータの相互の関係とその測定精度に及ぼす影響について(Jiri Tichy)音響インテンシティ測定における2つのマイクロホンの位相差はできるだけ小さくする必要がある。その差を0.2度以下にする方法について、コンデンサーマイクロホン及び補聴器に用いられる小型クリスタルマイクロホンの測定例を示す(A. F. Sybert,)
 音響インテンシティの測定には種々の方法があるが、必ずしも同一の結果を示さない場合がある。測定環境と対象とする信号の性質が異なる場合へ測定法の問題点について述べる(T. G. Nielsen, B & K)
 2つのマイクロホンを使ったインテンシティ測定においては、マイクロホン相互の反射が音圧の大きさばかりではなく位相にも影響がある。これによる誤差は音圧と粒子速度について独立に発生する(P. V. Bruel)
 単一のマイクロホンによるインテンシティの測定:音圧を一定間隔でスキャンニングする“Cubic spline approximation"によって測定することによって、インテンシティを一つのマイクロホンで求めることができ、2つのマイクロホンによる方法よりも精度が良い。
 (A. L. Mielnicka-Pate & R. M. Bai) インテンシティの実数部は波面に垂直で、この方向は波の進行方向を示す。遠距離場では位相速度は音速Cであるが、近距離場において位相速度は一定ではない。このような例として、空気力学的乱れによる音場、円盤によって回折された近接音場についての一般化された位相速度について検討した(A. Mann & M. J. Crocker)

(7) 音響インテンシティ法によるパワーレベルの測定
  Chairman, G. Krishnappa  機械騒音のパワー測定についての音響インテンシティ法の最近の進歩、音響インテンシティ測定の歴史と測定における暗騒音の影響と測定点の選択及び音響パワー測定方法のStandardについて述べる(G. C. Mailing Jr.)
 ISOとANSI Standardsの音響インテンシティによる音響パワーの測定、その相違点の概要:ISOは1982年から精密法と実用法(Engineering method)について審議を行って1985年に規格案が提出されているが、ANSIは1983年から実用法に限って1984年最初の案を作成した。ISOは一点における測定であるが、ANSIはスキャンニングによる測定も含んでいる(M. J. Crocker)
 音響インテンシティ測定における適用限度について、有限長の影響、位相差、測定点数、測定点の空間配置等の影響、例として準残響室で、ISO 3744で測定した結果と、インテンシティ測定による結果を比較し、測定精度の信頼度を検討した(J. Nicolas)
 インテンシティ測定に音源の特性と、位置評定を行う場合の問題点について、また3〜5個の音源の場合にその位置とスペクトル密度を予測するときの最低の測定点の数について述べる(M. Q. Wu & M. J. Crocker)
 エンジンの設計において音の放射の効率を考慮することの必要性について、従来はこれをIとしているが、各種のエンジンカバーについてインテンシティ法による測定から放射効率を測定した(S.Pettyjohn)
☆ 音響ホログラフィの方法による近距離音場の研究、特に低周波領域における位置評定(W. V. Strong, W, S. Gan)

(8) 心理・生理音響(聴覚の適応と音の感覚)
 騒音レベル65dB以下の事務器械の騒音に純音成分を含むときには、特にうるさく感じられる。25人の被験者により、1,200種類の録音テープについての試聴実験から音の大きさ、特異音の感覚、うるささについての判定を行なった。デジタル信号処理により、純音の大きさ及びスペクトルを変化させ、極めて興味のある結果を得た(G. B. Bienvenue)
 連続音とこれに衝撃音を重畳したときの聴覚に及ぼす影響:チンチラを用いた動物実験、音の暴露条件として、
(a)中心周波数0.5kHzオクターブバンド音圧レベル、95dB・5日間  
(b)ピークレベル113dB・毎秒1回・5日間 
(c):(a)と(b)の組合わせ 
(d)ピークレベル119dB・4秒に1回・5日間
(e):(a)と(d)の組合わせ 
(f)ピークレベル125dB・16秒に1回・5日間 
(g):(a)と(f)。衝撃音だけの場合の(b)と(d)及び(f)はエネルギー的に等価であってその影響はほぼ同等である。しかし衝撃音に定常音が重畳した場合は、エネルギーの等価性が成り立たない(W. A. Ahroom)

☆ 水中で連続騒音に暴露された時のTTS:裸耳のダイバーを水中で周波数・700Hz, 1.4KHz, 5.6kHz, 音圧レベル・143.1dB及び165.1dBの連続音に暴露した。この音圧レベルは水中で使用される手持ち機械の発生する音に相当している。この状態におけるTTSは暴露後2分において23〜55dBで、その回復に要する時間は50時間あるいはそれ以上であった。別のダイバーに対し、空気中において5.6kHz, 1.4kHz, 700Hz, 音圧レベル100dBの音にこの順序で暴露し、次いで水中で同じ周波数の125〜150dBの音に暴露した。この結果、700Hzでは等価な暴露に対して水中と空気中でほぼ同じTTSを示したが、1.4kHzでは水中が小さく、5.6kHzでは水中の方が大きかった。いずれにしても水中で用いられる手持ち機械の中には聴覚に有害なものがある(P. F. Smith)

☆ 猫の外耳、中耳、内耳のモデルを使って、自由音場の音圧に対するあぶみ骨の変位について計算を行なった。この結果ライフルのような短い衝撃音はその高周波の大きな速度が聴覚には有害である。しかし、大砲の音のように低い周波数を持った衝撃音は、150dBの音圧レベルでも比較的影響が少ない。(G. R. Price)

☆ 乳幼児の純音に対する聴覚の実験、250〜8kHzの純音 (500ms,rise & fall time, 10ms, 休止、500ms繰り返し10回)を10秒毎に聴かせて反応を観察する。この結果、3ヶ月の幼児では、250Hzと8kHzで大人に比べて判別能力が低下している。また6, 12ヶ月の幼児では、4kHz, 8kHzでほぼ大人と同じであるが、低音ではやや劣っていることが判明した(L. W. Olsho)
☆ 音の大きさの判断についての適応:変化する間欠音を片耳または両耳に聴かせて音の大きさの判断の適応をしらべた。また音圧レベルが上昇及び下降する純音に対する反応時間に関する実験をBekesyの域値測定法によって行った結果、このような自動測定では耳の反応時間が問題になるので、特に音圧レベルを下降させた場合、off timeを200msから700msにした方がよい(C. V. Pavlovic)
☆ 職場における過去10年間の2,500人の聴力損失の調査を行った(J. Erdreich)
 以上の他、FFTによる音響データの処理に関するセッションがあった。また振動に関するセッションの中でWiliam Taylor(スコットランド)による“手持ち工具等の振動による身体影響”(Biological Effects of Vibration on the Hand and Arm)に関する問題の歴史と最近の研究について特別講演が行われた。

2. 最近発行されたANSI standards
(1) ANSI S12.7-1986:Method for the Measurement of Impulse Noise.
(2) ANSI S12.4-1986:Method for the Assessment of High-Energy Impulsive Sounds with Respect to Residential Communities.
(3) ANSI S12.3-1985:Stated Noise Emission Values of Machinery and Equipment. Statistical Methods for Determining and Verifying.
(4) ANSI 12.5-1985:Requirements for the Performance and Calibration of Reference Sound Sources.
(5) ANSI 3.36-1985:Methods for Simulated In Situ Airborne Acoustic Measurements.
(6) ANSI S1.4A-1985:Amendment to ANSI S1.4-1983 Specification for Sound Level Meters.

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