2018/1
No.139
1. 巻頭言 2. inter-noise 2017 3. ISE16参加報告 4. 第8回欧州鋼・複合構造に関する国際会議 (EuroSteel 2017)を終えて
  5. リオネットシリーズ マキシエンス、マキシエンスV の開発

       <会議報告>
  ISE16 参加報告


圧電物性デバイス研究室  児 玉  秀 和

はじめに
 第16 回国際エレクトレット会議(16th International Symposium on Electret, ISE16)が9月4日〜8日、ベルギーのルーヴェンカトリック大学(KU Leuven)で開催された。ISE はIEEE 共催国際会議で、エレクトレット(電荷を注入した誘電体)の電荷に由来する諸性質、高分子を中心とした圧電性、焦電性、強誘電性をトピックスとし、3年に一度行われる。本会議には小林理研から児玉と古川猛夫特別研究員が参加した。

会議概要
 ルーヴェンはベルギーの首都ブリュッセルの東約20 km に位置する、ベルギー最大のベギンホフのある街として知られている(図1)。このベギンホフは13世紀初頭に作られたコミュニティーである。残された建物は修復され、KU Leuven の一施設として現在も利用されている。KU Leuven は15世紀に設立された世界最古のカトリック系大学である。本会議場のUniversity Hallは通りに面して街に溶け込み大学施設とは気づきにくい。入口には会議場を示すのぼりが設けられていた(図2)。
 会議には25か国から100名が参加した。内訳は招待講演13名、ワークショップ4名、口頭発表39名、ポスター発表42名である。トピックス別にみると、誘電体の電荷挙動に関する発表が最も多く、次に圧電、焦電性へと続く。センサーやアクチュエータといった応用は発表件数が減少したが、他のトピックスよりは多いといえる。
 口頭発表はUniversity Hall 内の講堂で行われた(図3)。数百名は入る大きさの部屋である。講堂は小さな教会を彷彿させ、木彫りで装飾された演壇は数百年にわたる大学の歴史を感じさせる。檀上の白壁はスクリーンとして用いられた。ポスター会場はコーヒーブレークや昼食も同じホールに設けられ、発表時間以外でもポスターを見ながらディスカッションをすることができ、有意義な時間の使い方ができた(図4)。

 
図1 ルーヴェンのベギンホフ
図2 KU Leuven University Hall 入口
図3 口頭発表会場となった講堂

研究発表
 当研究所からは“Toward comprehensive understanding of piezoelectricity and its relaxation in VDF-based ferroelectric polymers”(古川)、マラヤ大学との共同研究成果として“Piezoelectric resonance and electro-mechanical relaxation in uniaxially-drawn and poled of polyvinylidene fluoride”(児玉)、“Molecular dynamic and polarization switching of solvent-cast poly(vinylidene fluoride)”(W. C. Gan、マラヤ大学)の3報を発表した。これらは強誘電性高分子であるフッ化ビニリデン系ポリマーの強誘電性、圧電性の発現機構と分子運動の関連性についての発表である。古川先生発表日の2日目のみ会場が Maria-Theresiacollege という、本会場から数100 m 離れた別キャンパスとなった(図5)。
 他の興味深い発表として、University of Limerick, Ireland のグループが hydroxyapatite や Protein Lysozyme の圧電性、焦電性に関する発表を行った。国内は田實先生(関西大学)による“A new wearable sensor in the shape of a braided cord (Kumihimo)”、中嶋先生(東理大)による“Structure and piezoelectric properties of self-polarized ferroelectric polymer thin film” 、鈴木先生(東大)による“Quantum Chemical Study of Charge Trap in Amorphous Perfluoro Polymer Electret”など、エレクトレット、圧電、強誘電ポリマーに関する先端研究の報告がされた。

図4 ポスター会場にて筆者(左から4番目)、  
古川先生(左から5番目)、各先生方
図5 Maria-Theresiacollege

ISE 感想
 本会議に参加した感想として、国内研究グループでは、フッ化ビニリデン系ポリマーの強誘電性に関する基礎研究、材料設計やデバイスに着目した応用研究と多岐にわたった。University of Limerickの研究グループは、当所の深田先生がさきがけである生体材料の圧電性に関する研究について、圧電性の起源を緻密な基礎研究でさらに掘り下げた印象を受けた。
 一方で、様々な応用に展開した事例に関する報告も多く見られた。近年では、MEMS や巨大な電歪を生じるアクチュエータなど新たな電気―機械のエネルギー変換材料が提案されている。これらは従来の圧電材料では実現が難しい大変形や高効率化が魅力であり、さらなる高性能化を目指す発表も見られた。
 今後は基礎研究とデバイス研究のさらなる2極化が進み、本会議のトピックスも多岐にわたることが期待される。

最後に
 ISE16は小規模ながらも、エレクトレットや圧電性ポリマーを中心とした電気−機械エネルギー変換材料について、基礎研究からデバイス研究まで包括するユニークな特徴を持つ会議であった。ルーヴェンはベルギーの学園都市であり、国際会議を行うには最適であったと感じた。次回は2019年、アイルランドで行われる。そこでも緻密な基礎研究、デバイス研究を発表し、小林理研の特色としたい。


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