2018/1
No.139
1. 巻頭言 2. inter-noise 2017 3. ISE16参加報告 4. 第8回欧州鋼・複合構造に関する国際会議 (EuroSteel 2017)を終えて
  5. リオネットシリーズ マキシエンス、マキシエンスV の開発

       <会議報告>
  inter-noise 2017


山 本 貢 平、杉 江  聡、横 田 考 俊

 inter-noise 2017(第46回国際騒音制御工学会議)は8月 27 日(日)〜 30 日(水)の間、香港で開催された。会場は香港島の北岸中央で地下鉄彎仔(Wan Chai)駅から徒歩約15分のところにある香港国際会議場(Hong Kong Convention and Exhibition Center)であった。小林理研からは山本の他に杉江、横田の合計3名が出席した。
 山本は、開催前日の8月26日(土)の午前9時から開かれたCSC(Congress Selection Committee)に出席した。今回は、まず2021年の開催候補地として米国のWashington D.C. が簡単なプレゼンを行い、立候補を表明した。この2021年はinter-noiseにとって、第50回目という記念すべき大会となること、さらに第一回のinter-noiseが開催された場所と同じ場所を候補に挙げたことが紹介される。次に2020年の会議開催地を選定するためのプレゼンと討議が行われた。候補として、アジア・パシフィック地域のソウル(韓国)と福岡(日本)がプレゼンを行った。さまざまな意見が交わされた後、投票によりソウルを理事会に推薦することにした。日本人としては残念であったが投票結果は受け入れざるを得ない。
 午後は、1時から6時半までI-INCEの理事会が開かれた。アジア・パシフィック地域のDirector-at-largeとして今年は3回目の出席であった。理事会では、I-INCE総会に諮る議案の検討が行われた。内容的には、I-INCEの活動状況と財務状況の報告、および人事の案である。今回からはMarion Burgess が議長となってスムーズに議事進行を行った。会費納入に関する規則の変更検討やinter-noise開催ガイドダンスの改訂検討も議題に上った。
 8月27日(日)は、早朝からテレビが騒がしかった。台風14号が香港の西方に上陸したとニュースが繰り返し伝えている。午前中はホテル(Novotel Central)で休み、風雨が緩んだ午後1時から、I-INCE総会に出席した。総会(Hall C)では、前述の理事会からの報告の他に、CSC メンバーの選定が行われた。予期せず山本は次期も務めることになった。また、同行した山田一郎氏もCSCのセクレタリをもう一期務めることとなった。さらに、Board Member(Director at large)としてもう一期務めることになってしまった。これは、規則上無投票であった。
 16時よりHall A/Bで開会式が開かれた。まず会議の実行委員長(Co-Chair)Tom HO氏より歓迎の挨拶があり、続いて、香港特別行政区(HKSAR)の環境事務官WONG Kam-Sing氏より歓迎の挨拶と、香港という狭い地域の環境問題に如何に香港の行政が取り組んでいるかの披露があった。さらに副実行委員長(Co-Chair)のLi CHENG 教授から参加登録者数や論文数の紹介、香港音響学会(HKIOA)会長のGrace KWOK女史からの挨拶があり、最後にI-INCE 会長から実行委員会チームへの感謝の言葉と開会の宣言(少し遅れての宣言)があった。挨拶が終了した後、中国式の獅子舞による歓迎のパフォーマンスがあり、その曲芸のすごさに目を見張った。
 17時からはKeynote Lecture があり、Zhang Xin 氏が Computational Aeroacoustic Study of Leading Edge Noise と題する講演を行った。18時からWelcome Receptionが開かれ、海外の友人たちと再会を喜び合った。19時からは座長ミーティングが行われ、会議の進行についてのインストラクションが座長に与えられた。
 翌、8月28日(月)から3日間、21の会場に分かれて分野ごとの研究発表が行われた。今回の会議テーマは「Taming Noise and Moving Quiet」である。いつものように交通騒音関係(航空機、鉄道、道路)のほか、建築音響、機械騒音、環境騒音、騒音地図関係など、バラエティに富んだ内容であった。一方機器展示は8月28日(月)の午前から、会場フロアLevel 1 の広いスペースで始まった。展示には34社余りが参加し、同じ場所でコーヒーも提供されたので、終始大賑わいであった。
 8月29日(火)の夕刻には、バンケットが開かれた。送迎バスで銅鑼灣地区のLee Theatre Plazaに行き、U-Banquet(誉宴)の豪華中華料理と西洋音楽を楽しんだ。香港の中華料理は日本で出会うことがない美味さであった。
 最終日、30日(水)の16時20分から閉会式が行われた。開会前の発表では参加登録者数1,050名だったが最終日では1,187名と発表された。国別では中国がトップで約280名、2位は日本で約130名、3位は香港で約120名、以下韓国、ドイツと続く。一方、論文数は789件と報告されている。Closing Reception ではワインを片手に、来年のシカゴでの再会を約束して別れた。(理事長 山本 貢平)

図1 会場の香港国際会議場
(Hong Kong Convention and Exhibition Center 中国名:香港會議展覽中心)

 学会の研究発表会が8月〜9月にあることから台風でハラハラドキドキすることは珍しくないが、今回も台風がらみで始まった。出発時点では必ずしも香港には着陸出来ないというアナウンスだったが、強風の中、素晴らしい操縦のおかげで拍手の中降り立つことができた。そういう意味では、結果的に良いスタートだったと思う。
 まず、香港の街に降り立つと、非常に「熱気」を感じる。気温が高いというのも当然だが、行き交う人の声、自動車や工事の音が大きい。しかし、それが不快に感じることはなく、むしろ心地よいというのも不思議である。発表会でも、「質問ないのね。では次」という淡々とした進行ではなく、時間内で有意義に議論出来るように司会者が盛り上げながら進行しており、いつものinter-noiseよりも雰囲気が良いと感じた。
 会議本番が始まると、私は建築音響関連の遮音や吸音関係を中心に聴講した。その中からいくつか紹介する。
 PermeaCOBというプロジェクトによる、窓サッシや間仕切り壁を対象にして、通気性と遮音性能の調査結果の報告があった。通気性は遮音性能に大きく影響を与えることは知られているが、定量的に通気性と遮音性能を整理し、さらに理論的な推定方法を示している例は少なく非常に興味深かった。
 吸音材の最近のテーマとして、材料のサイズをなるべく小さいままで、吸音可能な周波数領域を広帯域化するということが挙げられる。ここでも、気柱共鳴を利用した吸音システムの低周波数化の発表があった。管を曲げて延長することにより共鳴周波数を低域にシフトさせることはよく行われることだが、管のカーブの形状も考慮して吸音特性を考察しており、詳細な検討を行っていた。
 次に、微細穿孔板を積層し、吸音する周波数範囲を拡張する発表があった。孔あき板を積層すること自体はそれほど珍しいことではないが、数値計算によって、何重にもすることはなく3層で十分な吸音率を得られることを示しており、非常に実用的な発表であった。 国際学会では、自分の発表もさることながら、他の研究者とのコミュニケーションも重要だと思う。拙い英語を駆使して、どうにか自分の意思が通じたときの嬉しさはひとしおであるし、国内の学会ではあまり話さない人とも、同じ国の人という一種の親近感のせいか話せるようになるという点もおもしろい。さらに、台風の話題は会話の入口には最適で、ちょっとしたアクシデントはアドバンテージになった。(建築音響研究室室長 杉江 聡)

図2 会場内のinter-noise パネル
今回のテーマは“Taming Noise and Moving Quiet”
図3 開会式でのLion Dance(中国式獅子舞)

 2016年にECAC Doc 29が改訂された。これは、欧州民間航空会議(ECAC:European Civil Aviation Conference)から発行されているもので、空港周辺の航空機騒音コンターを作成するための標準的な予測手法について記述されている。今回のインターノイズでは、その改訂に関連する発表が聞けるのではないかと期待して参加した。「Airport Community Noise」のセッションは、18件の発表からなる1日をかけた大きなセッションとなった。残念ながらDoc 29 改訂に直接関連する発表はなかったが、予測に必要となる音源モデルの構築方法に関する検討や、騒音低減を目的とした飛行経路の設定に関する検討など、興味深い発表が多かった。また、ECAC Doc 29 に準拠しない独自の予測モデルを採用しているスイスからの発表も興味深かった。スイスにおける現行の航空機騒音予測モデル「FLULA2」を開発したスイス連邦材料試験研究所(Empa)から、新たな予測モデル「sonAir」を開発したという報告であった。2013年の夏に Empa を訪問した際、「新たな航空機騒音予測モデルを構築中」という話を聞いたが、そのモデルが完成したという発表であった。発表者のJean-Marc Wunderli 氏とも4年ぶりに再会でき、セッション後に新モデルの詳細や、今後どのように現行モデルから新モデルへ移行させていくか等の話を聞くことができ、大変有意義であった。自身の発表では、航空機騒音の伝搬に関する気象影響について、これまで開発を行ってきたいわゆるシミュレーションモデルの考えに基づく予測モデルを用いた数値実験の結果を報告した。セッション内およびその後に色々な研究者と情報交換でき、インターノイズに参加してよかったと改めて感じた。
 「Outdoor Sound Propagation」のセッションでは、プラントからの騒音について、現地でのモニタリングと予測計算を組み合わせた新たな騒音モニタリングの手法に関する発表が興味深かった。台風の影響で代理発表となってしまったが、発表者が到着した後、研究内容について、予測手法の詳細やモニタリング点の設置箇所の選定方法等、詳細を聞くことができ大変参考になった。
 近年のIoT普及に関連し、ニューヨーク市で行われている「SONYC」プロジェクトも印象深かった。小型PCとMEMSマイクの組み合わせで安価な騒音モニタリング装置を作成し、2017年の夏季中にニューヨーク市内に100台設置することで、市内の騒音の発生状況をリアルタイムにモニタリングするという発表であった。ヨーロッパでも「Dynamap」プロジェクトで町中の騒音をモニタリングする試みが行われており、今後、このような安価な装置を多数配置した形態での騒音の「面的モニタリング」が進んで行く可能性を感じた。(騒音振動研究室 横田 考俊)

図4 香港市街


−先頭へ戻る−