2018/4
No.140
1. 巻頭言 2. 残響室法吸音率における空気吸収の影響に関する検討 3. JCSS校正証明書を標準添付した音圧フィードバック方式の音響校正器
   

 
  水素社会がやってくる  


理 事 長  山 本 貢 平

 東北地方を襲った大地震から早7年。地震直後の津波で制御を失った福島第一原子力発電所の事故は、我々に停電の恐怖を体験させてくれた。あの時ほど、この社会が電気喪失に脆弱であることを思い知らされたことはない。 その基盤となる電力供給は、今、思わぬ方向に進んでいる。かつて原子力は大気汚染を招かない安定なエネルギー源として導入推進が行われていた。しかし、事故後の放射性物質の拡散と汚染により、原子力発電には強くブレー キがかかっている。その電力不足分は、石炭・天然ガス等利用による火力発電がフル稼働で補っている。しかし、これら火力発電は、大気中に膨大な量の二酸化炭素を廃棄物として放出させることとなった。

 一方、大気環境という面からみると二酸化炭素には環境基準はなく、健康面や生活環境面で人に影響を与えるということもない。しかし、二酸化炭素は温室効果ガスの一つとして捉えられ、その増加は地球温暖化と気候変動の 原因と考えられている。さらに、それらに起因する異常気象と自然災害は、多くの生命と財産を脅かしている。したがってCO2 の増加は、人類を含む地球上の全生物にとって重大な脅威である。このような状況下、2015 年に開かれたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)では、地球温暖化問題への取り組みの合意として「パリ協定」が採択された。この協定では世界各国がCO2 削減を約束することとなったのである。これにより、我が国が頼りとしている石炭・天然ガスによる火力発電にもブレーキがかかることになった。

 今、大気中のCO2をこれ以上増やさないエネルギーが必要だ。注目されるのは、再生可能エネルギーである。水力、地熱、太陽光、風力、バイオマスなどが該当する。しかし、まだ火力に代わりうるほどの電力供給量はない。 また、電気を大量に貯蔵しておくことは難しく、発電即送電即消費という構図である。蓄電技術の開発は重要だ。

 これとは別に、水素を利用して電気エネルギーを得る技術が静かに開発されている。注目されるのは、水素利用が大気汚染も地球温暖化問題も発生させないということである。水素で電気エネルギーを得ても、廃棄されるのは 無害のH2O、すなわち水だけである。電気は電池に貯蔵しても時間とともに消失するが、水素は劣化することなく大量に保存できるという利点がある。再生可能エネルギーから作られる水素はCO2 フリーと謳われている(東京スイソ学園の動画と小池都知事のメッセージ(web)参照)。既に、東京オリンピックの交通手段として水素自動車(燃料電池車)が導入される計画である。また、水素を提供する社会インフラの整備も始まっている。家庭でも太陽光 発電から水素を生成して保存し、必要に応じて自家発電に使える。社会全体に、水素というものが化石燃料に代わる次世代のエネルギー源となるのは間違いないだろう。2020 年の東京オリンピックを機に、その良さが世界に知られるようになり、環境にやさしい水素社会が広がっていくことが期待される。

 

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