2015/10
No.130
1. 巻頭言 2. inter-noise 2015 3. 捕 虫 器 4. 第40回ピエゾサロン
  5. 振動レベル計 VM-55

      <技術報告>
 振動レベル計 VM-55


リオン株式会社 環境機器事業部 開発部  吉 野  邦 幸

1 はじめに
 弊社の振動レベル計VM-53/53A(以降VM-53)は製造販売から10 年が経過し、多くのお客様にご好評いただいてきた。その中で近年の環境振動測定ニーズに対応する振動レベル計がお客様に求められている。新たなニーズに対応するため、振動レベル計VM-55(以降 VM-55)(図1)を開発したのでここに紹介する。
 VM-55は、振動レベル(Lv)と振動加速度レベル(Lva)双方の瞬時値や時間率レベル(L5L10L50L90L95)、時間平均レベル(Leq)、最大値(Lmax)、最小値(Lmin)の3軸(X/Y/Z)同時測定を可能とした。またオプションプログラムにより、オートストア機能、コンパレータ機能等(VX-55EX)、加速度信号の波形収録機能(VX-55WR)、1/3 オクターブバンド実時間分析機能(VX-55RT)をVM-55に追加することが可能である。測定機能以外にも構造、操作性および視認性についてVM-53から大幅に改良を図った。また、本製品は振動測定マニュアル(2008 年度に作成された振動測定マニュアル(案)をもとに、2014年度に公益社団法人 日本騒音制御工学会環境振動評価分科会が整備し作成)に則った測定を容易とする。

図1 VM-55 外観

2 製品の特徴 (図2)
2.1 測定機能
Manual ストア
 設定した測定時間内の各演算値または瞬時値および最大値ホールド値を保存する。VM-53 ではLv もしくはLva の選択であったが、VM-55ではLvおよびLvaの同時測定に対応した。

Auto ストア(VX-55EX)
 VM-53 ではストアモードAuto1(瞬時値等)/ Auto2 (指定間隔で連続演算)のどちらか一方しか測定することが出来なかった。VM-55ではAuto1 およびAuto2 に相当するデータを同時にストアすることが可能である。またManual ストアと同様にLv およびLva の同時測定に対応した。設定した測定開始時刻、停止時刻まで、測定 間隔ごとにAuto ストアを繰り返すTimer Auto ストアモードがあり、測定現場にいなくても指定時刻からの測定を繰り返し行うことが可能である。

加速度信号の波形収録(VX-55WR)
 波形収録プログラムVX-55WR をVM-55 に付加することで、加速度信号(Lva 固定)の時間領域波形の収録が可能となる。レベルの値のみでは現象の判断や対策に限界があり、さらに現場機器を軽減したい、配線や操作を簡便にしたいというニーズに対応した。時間領域波形はPCM 形式のWAVE ファイル(サンプリング周波数 1 kHz 固定)とし、SD カードに記録する。WAVE ファイルのビット長は24 bitまたは16 bit から選択でき、より高精度な周波数分析を優先する際には24 bit を選択し、測定用途に合った時間領域波形収録が可能である。 収録した時間領域波形は波形処理ソフトウェアAS-70(別売品)を使用することで分析を行うことが可能である。

外部出力
 3軸同時出力で交流出力(AC OUT)または直流出力(DC OUT)が可能である。VM-53では交流出力の周波数特性は、設定した周波数重み付け特性に依存したが、VM-55では任意に指定することが可能である。そのため、VM-53では振動規制法に則ってLvを測定しながら、交流出力で周波数分析等に用いるLvaの時間領域波形をデータレコーダに保存することを行うことが出来なかったが、 VM-55ではデータレコーダに接続することで同時に保存することが可能となった。また前述したVX-55WRをVM-55 に付加することでも同様の手法は可能である。
 VM-53では外部出力端子はBNCコネクタであったが、VM-55では2.5Φ端子としBNC-ピン出力コードCC-24と した。CC-24 は主力騒音計NL-42 シリーズ(以降NL-42 シリーズ)と共通であり、騒音計、振動レベル計によって異なるケーブルを用意する煩わしさをなくし、ケーブルを共通化することで同様の使い勝手を実現した。また信号出力端子以外でもI/O 端子、USB コネクタも同様にNL-42 シリーズと共通化を図っている。

記録媒体
 記録媒体にはSD カードを採用し、VM-53A では最大容量256MB(CFカード)であったが、最大32 GBとし、より長時間の測定を可能とした(表1)。
表1 SD カード32GB の最大ストア時間(目安)
Lv ストア周期設定のみの場合
(VX-55EX)

波形収録測定チャンネルXYZ の場合
(VX-55EX + VX-55WR)

ストア周期
ストア時間
100 ms
4000 時間
1 s
36000 時間
ビット長
ストア時間
16 bit
950 時間
24 bit
690 時間

リニアリティレンジ
 VM-53 ではリニアリティレンジ:70 dB であったが VM-55では80 dBに拡大され、より広い範囲の測定が可 能となった。レベルレンジは0 〜 70 dB、 10 〜 80 dB、 20 〜 80 dB、 30 〜 100 dB、 40 〜 110 dB、 50 〜 120 dB となっており、10 dB ステップ6レンジ、3軸独立で設定が可能である。

1/3 オクターブ実時間分析プログラム(VX-55RT)
 VM-53ではVX-53RTのオプションプログラムにより 1/3 オクターブ実時間分析を測定する軸をX、Y、Z の中 から選択し、測定モード:Inst(瞬時値)、LeqLmaxLminL5L10L50L90L95の中から1つのみ測定することが可能であったが、VX-55RT ではすべての値を同時に測定す ることが可能となった。さらに1 〜 80 Hz、1 〜 160Hz の2つの周波数範囲から選択して測定することが可能である。1 〜 80 Hz では振動測定マニュアルなどに則った測定を容易とする。また建築現場または鉄道分野などにおいて広範囲の周波数を測定したいというニーズがあり、1 〜 160 Hz を選択することで測定が可能である。

図2 VM-55 を用いたシステム構成図

2.2 構造
外観および防塵・防水性能
 VM-55 では、VM-53 よりも本体の小型・軽量化(図3)を図り、キャリングケースも小型・軽量化を図って 持ち運びを容易とする。
 VM-53 では屋外測定での突然の降雨などによる故障事例もあり、VM-55(ケーブルおよびピックアップ含む)では防塵防水性能IP54 を達成した。これにより粉塵とあらゆる方向から飛まつによる水に対し保護されており、突然の降雨などによる故障を低減する。

図3 VM-53, VM-55 の外観比較

加速度ピックアップ
 VM-55 の加速度ピックアップはVM-53 と同様にPV- 83Cとなる。防塵防水性能のため本体側のピックアップ入力コネクタを変更し、ピックアップ−本体間の付属ケーブルをEC-54S に変更したが、従来のリール式延長ケーブルEC-02SE、EC-02SD はVM-55 でも使用可能で ある。またVM-53では計量法の検定対象となる延長コードの長さは103 mまでであったが、VM-55では203 mま でである。

電池
 VM-55では単3形電池×8本で連続動作時間約27時間動作する(動作条件、環境により異なる)。またニッケル水素充電池(例:eneloop pro ®)にも対応しており、乾電池廃棄量の削減に貢献する。
 図4のグラフは− 10 ℃、23 ℃(湿度50%)、50 ℃ (湿度90%)の温度および湿度が異なる環境下において VM-55(VX-55EX)、VM-55 + VX-55RT にニッケル水素充電池またはアルカリ乾電池をセットした場合の連続測定時間を表している(設定および使用環境により異なる)。アルカリ乾電池で測定した場合は23 ℃および 50 ℃の連続測定時間と比べて−10 ℃の低温環境下では大幅に短くなる傾向にあるが、ニッケル水素充電池で測定した場合は温度変化により連続測定時間に大きな差異は生じず、− 10 ℃の環境下ではニッケル水素充電池はアルカリ乾電池よりも連続測定時間が約14 時間長くな る。VM-55 ではニッケル水素充電池に対応したことで寒冷地での長時間連続測定が可能となる。

図4 設定した電池による測定環境−測定時間グラフ(代表値)

2.3 操作性・視認性
NL-42 シリーズとの操作性の統一
 VM-55 では直感的に操作を提供できるようキーの配置および操作キーの名称の改善を図っている。また振動 レベル計固有の操作キーである各チャンネルのLEVEL RANGEキー、Lv / Lvaキー等以外のキーはNL-42シリー ズと統一化を図っており、設定および測定開始/停止の操作は同様であり、NL-42シリーズをご使用のお客様にはより直感的な操作感を提供する。

視認性
 VM-55 では、バックライト付きTFT カラー半透過液晶を搭載し、各画面がグラフィカルで見やすくなっている。またバックライトの明るさも変更でき、環境に合わせて画面を見やすく調整することが可能となった。キーの操作性と同様に表示画面も振動レベル計特有の表示以外はNL-42シリーズと共通化されているため、画面の表示内容を直感的に理解しやすくなっている。またVM-53 の画面は英語表示のみだったが、VM-55 では同様に日 本語対応したため、操作しやすくなっている。

USB ストレージ対応
 本器はUSBストレージに対応したため、USBケーブル(別売品 A - mini B)でPCに接続するとVM-55がリムーバブルディスクとして認識される(測定停止時のみ)。
 VM-53ではCFカードを本体から外しカードリーダー を用いてデータ転送する必要があったが、VM-55 では SDカードを本体から外すことなく、PCへのデータ転送が可能となり、VM-55 のAuto ストアデータまたは波形データを直接、移動またはコピーすることでAS-60VM、AS-60VMRT、AS-70でのデータ読み込みを容易とした。

3 専用ソフトウェア
 VM-55でSDカードに保存したオートストアデータおよび波形データをコンピュータ上に専用ソフトウェア(別売品)をインストールし、データの再分析および周波数分析を行うことが可能である(図5)。また各専用ソフトウェアを使用することで振動測定マニュアルの「測定結果の算出方法」に用いることが可能である。

図5 AS-60VM / AS-60VMRT / AS-70

環境計測データ管理ソフトウェアAS-60VM
 VM-55 + VX-55EXで測定した際にオートストアデータからTime-Level グラフの表示、複数チャンネルの同時表示、グラフから選択した区間の再演算、測定データの結合、帳票作成(印刷、テキストファイル(CSV形式/ TSV 形式)、Excel ファイル)を簡便に行える。
 AS-60VMではNL-42シリーズなどの騒音計データも同時に扱うことができるため、1つのソフトウェアで騒音 計と振動計のデータを同時に管理することが可能になる。

環境計測データ管理ソフトウェアAS-60VMRT
 VM-55 + VX-55EX + VX-55RT で測定した際の 1/3 オクターブバンド分析のオートストアデータから、 AS-60VM の機能に加えて1/3 オクターブバンド分析結果のグラフ表示を行う。帳票作成はオールパス値に対してのみ行う。3軸(X/Y/Z)の1/3 オクターブバンド分析結果の比較を容易に行えるよう、1/3オクターブバンド分析結果の表示は折れ線グラフとした。

波形処理ソフトウェアAS-70
 VM-55 + VX-55EX + VX-55WR で収録したWAVE ファイルから、グラフ表示、レベル化処理、周波数分析 (オクターブバンド分析・FFT 分析)、ファイル出力(WAVE 形式/CSV 形式)および再生が簡単に行える。VX-55WR のWAVE ファイルだけではなく様々な波形データを同時に扱うことが可能である。

4 おわりに
 近年の環境振動測定ニーズに応えるため、新規に開発した振動レベル計VM-55を紹介した。VM-53と比べ、測定機能および構造上も格段に進化しており、様々な現場で活用いただける製品となっている。また専用ソフトウェアと組み合わせることで測定したデータをより容易に分析することができる。
 現状に満足せず、お客様の声を大切にし、より良い製品開発に努力していきたい。

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