2015/7
No.129
1. 巻頭言 2. Wind Turbine Noise 2015 3. 旧い吸入器 4. さらに進化した高出力補聴器
   

 
  イノベーション


特命研究員  安 野  功 修

 私は「モノつくり」を34 年間経験し、開発畑を主に歩んできた。「現場現物」ということが徹底されている会社であり、顧客第一という理念のもと、技術屋は自ら作った商品は自らが世界に売り歩き、商品の完成度を上げていく。最先端の場所に身を置かなければイノベーションは起こせないということを創業者(松下幸之助氏)は体得していた。そんな仕事の仕方で、一貫して音響変換器(部品事業)に携わってきた。1980年代、大手携帯電話会社モトローラへのセラミックレシーバの納入に際し、他社との差別化をはかる為にも材料から作りたいと考えていた。圧電材料との出会いは、当時の小林理研、落合 勉氏にPZTの作り方を教授いただいたのが最初である。それから20 有余年、2007 年4月から小林理研にお世話になり8年を経過した。この間、経済産業省の計画するライフイノベーション、グリーンイノベーションの実現にリンクした実用化研究を推進してきた。しかし、日本のあるべき姿、産業立国としての再生は未だ変革途上である。

 マイクロホン、特にエレクトレットコンデンサマイクロホン(ECM)の応用の歴史は、カセットレコーダ内蔵にはじまり、ステレオ化され、電話、ワイヤレス電話、ビデオカメラ(ムービー)、携帯電話、スマートホン(スマホ)へと変遷してきた。それぞれの用途で要求仕様が異なり、耐振動、省電力、小型化、コスト等への対応が必要になった。それらの商品が新たな価値を創造し生活スタイルを変えてきた。

 Dr. Rita R. Colwell は、平成25 年東京大学大学院入学式の祝辞で「業際をなくす」シームレスな取り組みが、新たなイノベーションを生み出すことになると、学生達にエールを送っている。一つの分野にとらわれず周りのことに好奇心を持ち「なぜだろう?」の精神でチャレンジすることが大切なのだ。

 サイエンス・アート・音楽など、どの分野においても新たな結合・相互作用でイノベーションを創世している。イノベーションで生活スタイルを大きく変えた例ではスマホの効用もあげられる。脳科学者の茂木健一郎氏は、自らが勉強する志こそ大切であり、いろいろな情報を即座に調べられるインターネットでの勉強法は、ちょっとした時間も有効に使え、脳をフロー状態(リラックスしながら、尚且つ集中した状態)にする訓練で集中力を養い、効率的な勉強ができるという。

 産業分野では、顧客との接点をとりながら大学、外部研究所との接点を持ち、研究と事業化の隙間を埋めることで、イノベーションを起こすことが「事業を起こす」ことにつながった。研究所においては、顧客あるいは企業との接点がイノベーションを起こすことにつながり、それにより研究と工業化の隙間を埋めることができるように思う。変革の志を持って自分の立ち位置を俯瞰していくことができれば理想的だ。時々でもその境地にいたれば、何回成人式を迎えても少しの伸び代を創造することができると思いたい。日本人の標準寿命は男80.2 歳、女86.6 歳、健康寿命はそれより10歳ほど低いのが実情という。イノベーションを創世していくために、まずは心身とも健康であること、そして変化に挑戦していく情熱と柔軟な思考をスマホ片手に自分に課している日々である。

 

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