2015/10
No.130
1. 巻頭言 2. inter-noise 2015 3. 捕 虫 器 4. 第40回ピエゾサロン
  5. 振動レベル計 VM-55

       第40回ピエゾサロン
 「圧電物質の特性と生体適合性」 Brian J. Rodriguez


名誉研究員  深 田  栄 一

  平成26 年12 月15日に、小林理学研究所で第40回ピエ ゾサロンが開催された。University College Dublin, Ireland のDr. Brian Rodriguez が「Characterization of piezoelectric materials and their biocompatibility」と題して講演された。

 木材や骨などをはじめとする生体高分子の圧電物性の研究は、1950年代に小林理研で発足した。コラーゲンの圧電気が骨の生長を促す可能性から、電磁パルスや超音 波パルスを骨折治療に用いる臨床機器が開発された。 1969年にはPVDFなどの合成高分子の高い圧電性が、や はり小林理研で発見され、圧力センサー、超音波トラン スデューサーなどの工業的応用に発展した。

 2000 年代になり、原子力間顕微鏡から発展した、圧電 応答力顕微鏡 Piezoresponse Force Microscope(PFM) が 出現し、nm スケールでの逆圧電応答を顕微鏡下で観測す ることが可能になった。PFM の開発に貢献したのは、 Oak Ridge National Laboratory のDr. S. V.Kalinin と Dr. B. J. Rodriguez の二人であった。Dr. Kalinin は、 2008 年、東京で第13 回国際エレクトレットシンポジュー ムが古川猛夫教授の主催で開かれた時、第33回ピエゾサロンで、「ナノスケールでの電気力学」の講演を行った。今回 は、Dr. RodriguezがPFMを用いた生体物質の圧電現象について、最近の研究成果について詳細な講演を行われた。

Dr. Brian Rodriguez
(University College Dublin, Ireland)

 PFM には二つのモードがある。図1はVertical PFM (VPFM)を示す。たとえば、コラーゲン繊維を基板上に 置き、上下に交流電圧をかける。逆圧電効果で上下に振 動する探針の振幅と位相差を、光のてこで測定する。探 針を平面的に操作し、変化量を色で表すと、きれいな分布平面図が得られる。振幅から圧電率の大きさを、位相 から分極の向きを求めることが出来る。圧電率 d33 に相当する。

図1 Vertical PFM (VPFM)

 図2はLateral PFM(LPFM)を示す。繊維に交流電圧 を加えたとき、上下ではなく、ずり圧電によって、横方向に面上の変位が起こる場合である。この変位と位相は光のてこの傾きから測定される。圧電率 d15 に相当する。

図2 Lateral PFM (LPFM)

 図の矢印は、コラーゲン繊維の極性の向き(N末端か らC末端へ向かう)が、繊維が折りたたまれることにより逆転していることを示している。

 図3はラットの尾のコラーゲン(タイプ1)について 測定した結果である。コラーゲンの配向の様子が見て取れる。図4は、歯の断面の測定結果である。デンチンの 部分はコラーゲンを多く含むので、圧電活性の部分が多 いが、エナメルの部分は鉱物質が多いので、圧電活性の部分は少ない。図5は目の角膜の結果である。コラーゲンが配向している。

図3 rat tail collagen (type 1)
Rodriguez et al J. Struct. Bio. 153, 151-59 (2006)

図4 Electromechanical properties of tooth tissues
Rodriguez et al J. Struct. Bio. 153, 151-59 (2006) Kalinin et al Appl. Phys. Lett. 87, 053901 (2005)

図5 Structure of eye tissues
Meek & Fullwood, Micron 32, 261(2001)
図6 Biocompatibility of pre‐osteoblastic
MC3T3‐E1 cells on lithium niobate

N. Craig Carville, Brian J. Rodriguez, J. Biom. Mat. Res. A 2014, online

 最近の研究としては、コラーゲンのゲル、コラーゲン のタイプII、Poly-L-lactic acid、DNA の塩基の一つであ るチミンC5H6N2O2の結晶体、Diphenylalanineのnanotube など、次々に、生体材料やナノチューブなど新しい物質に圧電性が発見されていることが紹介された。

 コラーゲンの圧電性が骨の生長に電気的な刺激を与える可能性があるために、骨細胞と強誘電性結晶の相互作用が注目されている。Lithium Niobate(LN)結晶と培養 骨芽細胞MC3T3 の相互作用についての研究が詳しく述べられた。

 LNはZ軸方向に自発分極を持つので、+z面と−z面 に正負の束縛電荷をもつ。それらの面上で、MC3T3細胞 を11日間培養した結果が図6に示されている。比較のために、電気的に中性のx-cutのLNの面とガラスの面も用いた。付着した細胞数が蛍光で観測された。荷電した面の方が細胞との適合性が大きい。

 さらに培養を続けると、細胞が増殖しミネラル生成を起こす。培養40日後のミネラル化度が図7に示されている。ミネラル生成は20 日後には、LN の+z ,−z , x 面 で同じであるが、40 日後には、+z , −zの面が最も多 い。骨細胞の増殖に培養面の電荷が有効であることが明らかになった。

図7 Cell mineralization assay

 参考までに、一軸配向系の代表的な圧電マトリックスを以下に示した。代表例は、木材、腱コラーゲン、PVDF である。

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