2015/10
No.130
1. 巻頭言 2. inter-noise 2015 3. 捕 虫 器 4. 第40回ピエゾサロン
  5. 振動レベル計 VM-55

 
  ドローンと音


騒音振動研究室  土 肥  哲 也

 昨年末、忘年会の景品でおもちゃの無人航空機を獲得した。いわゆるドローンである。研究室内で飛行させてみたところ、ものの数分で同僚の机に着陸させることができた。ドローンといえば、今年の4月に首相官邸の屋上で発見され、世間を騒がせた事件が記憶に新しい。このニュースは、良くも悪くも、ドローンの知名度を高めることになった。

 ドローン(drone)を辞書で調べると、雄の蜂、ブンブンうなる(音)、無人航空機とある。第二次世界大戦前に英国海軍が空飛ぶ標的として使用した無人機は女王蜂(Queen Bee)と呼ばれていたそうだが、後に米国が開発した時に「雄の蜂」と呼び変えたようだ。その後、ドローンは軍事技術の進歩とともに発展したが、これと並行して民生用に普及しつつある点に着目したい。農薬の自動散布、噴火が懸念される火口状況の把握、テレビ番組などでの上空からの撮影、防犯目的での上空からの監視など既に実用化している事例は数え切れない。海外では宅配での使用が計画されており、 日本では離島への配送試験が行われた。

 当所でも音の研究を目的としてドローンを購入し、活用法を模索している。このドローンにはGPSが搭載されており、上空で風が吹いても、流されないように機体を自動的に風上に傾けて自分の位置を保持する。そのため、ドローンに小型のジャイロセンサーを取りつけ、ドローンの傾きを時々刻々計測することで、その時々の風向と風速を推定することができる。また、タバコ箱程度の大きさの小型気圧・気温計を同時に取り付けておくことで、上空における気圧と気温を計測することも可能である。試行の結果、上空50 m 程度までの任意の高さにおいて、風向・風速・温度・気圧を把握することに成功した。音が長距離伝搬する際には、気温や風などの気象条件の影響が無視できない。近年は数値解析などでその影響を予測できるようになりつつあるが、予測精度の検証時などには高度毎の上空気象情報が不可欠である。上空気象は、これまで観測バルーンを用いたり、経験式で推測したりする方法などに限定されていたが、これで計測方法の選択肢が増えたことになる。今後は、上空における音の計測にもチャレンジしたい。

 ドローンビジネスによる米国の経済波及効果は、10年後に10兆円を超えると予測されている。このことは、将来、身の回りにドローンが飛び交う可能性を示唆しており、語意の通りブーンという飛行音が騒音問題となることが懸念される。世の中に自動車、航空機、鉄道などが登場し、その利便性と引き換えに騒音問題が発生したと考えれば、ドローンも同じ道を歩む可能性がある。日本では使用法に関する規制論議が始まったばかりだが、米国では既に国立公園でのドローンの使用が動物への騒音影響のために禁止され、今年の国際会議ではドローンの音についての研究発表がなされた。

 今後、人工知能、機械・センサーのインターネット化(IoT)、ロボット、GPSの精度向上などのテクノロジーが急速に伸びると予想されている。利便性の代償に対して真摯に向き合いつつ、技術の進化を活用することで音の研究に役立てることができるのか、そのバランス力が問われている気がする。

 

−先頭へ戻る−