2015/10
No.130
1. 巻頭言 2. inter-noise 2015 3. 捕 虫 器 4. 第40回ピエゾサロン
  5. 振動レベル計 VM-55

      <会議報告>
 inter-noise 2015


山 本 貢 平、 横 田 考 俊、 岩 永 景 一 郎

  inter-noise 2015(第44 回国際騒音制御工学会議)は8月9日(日)〜 12 日(水)の間、アメリカ西海岸のサンフランシスコ市で開催された。会場はサンフランシスコ市中心地のユニオン・スクエアの南側で、4番街に面するホテル・マリオット・マーキスであった。小林理研からは山本の他に、横田と岩永の合計3人が出席した。
 山本は、開催前日の8月8日(土)の午前8時から開かれたCSC(Congress Selection Committee)に出席した。 今回は、2018年の会議開催地を選定するためのプレゼン と討議が行われた。候補として、パンアメリカ地域のシカゴとサンパウロがプレゼンを行い、さまざまな意見が交わされた後、投票によりシカゴを理事会に推薦することにした。このあと2019 年会議の候補地選定に移り、3都市が立候補した。これらは、マドリッド、グラスゴー、アムステルダムである。簡単なプレゼンが行われ、投票によってこれらの中からマドリッドとグラスゴーを候補として推薦することとなった。
 午後は13時から18時半までI-INCEの理事会が開かれた。アジア・パシフィック地域のDirector-at-largeに今年から山本は就任したので、初めて理事会に出席した。この理事会では、I-INCE 総会に諮る議案の検討が行われた。内容的には、I-INCEの活動状況と財務状況の報告である。今回はI-INCE の理事構成に大きな変更があった。 理事会運営の要である事務局長Robert Bernhard が退任し、inter-noise 2015のCo-Chairを務めたPaul Donavan が後任となった。また、財務担当のJean-Pierre Clairbois が退任し、B&K 社のDoung Manvell が後任となった。さらに、I-INCE創設以来、リーダー的存在であったBill Lang とGeorge Mailingが退任することになった。このほか、 Global Noise Policyで世界をリードしてきたTor Kihlman, Hideki Tachibanaも退任することになった。これらの変更は、翌日のI-INCE 総会でも発表されている。
 8月9日(日)は、午前中はホテルで休み、13 時から開催されたI-INCE 総会に出席した。総会では、前述の理事会からの報告の他に、投票によるCSCメンバーの選挙が行われた。その結果、アジア地域は小林理研を訪問したことのある香港のMaurice Yeung、ヨーロッパは、トルコのZerhan Yuksel Can(無投票)、アメリカは Stephen C. Conlon に決まった。
 I-INCE 総会の後、16 時より開会式が開かれた。今回は韓国との共同開催ということで、まず妖艶な女性たちによる韓国の宮廷舞踊が披露され、一瞬ここはソウルかと錯覚した。その後、Co-Chair のPaul Donavan と Co-Chair のYonn-Hann Kim が歓迎の辞を述べ、I-INCE 会長Joachim Scheurenが挨拶を行って開会宣言を行った。
 続いて、18時からWelcome Receptionが開かれ、海外の友人たちと再会を喜び合った。別室では座長ミーティングが行われ、会議の進行についてのインストラクションが座長に与えられた。
 翌8月10日(月)から3日間、15の会場に分かれて分野ごとの研究発表が行われた。今回の会議テーマは“Implementing Noise Control Technology”である。いつものように交通騒音関係(航空機、鉄道、道路)のほか、建築音響、機械騒音、環境騒音、騒音地図関係など、バラエティに富んだ内容であった。一方機器展示は8月10日(月)の夕方から、同じ会場フロアの広いスペースで始まった。展示には94 社が参加し、大賑わいであった。  8月11日(水)の夕刻には、バンケットが開かれた。今回は船に乗ってのクルーズでサンフランシスコの象徴であるゴールデン・ゲート・ブリッジを船上から楽しんだ。  最終日、12 日(水)の16 時からは理事を退任する Bill Lang とGeorge Mailing による特別講演があった。I-INCEの歴史的変遷がレビューされ、会場から喝さいを浴びた。続いて閉会式に移り、来年の開催都市ハンブルグの紹介が行われ、Closing Reception で再会を約束した。このあと理事会が開かれて、私はそれに参加した。  今回、実行委員会より最終的な参加人数の発表はなかったが、開会前の発表では参加登録者数1112名(内同伴者77名)。国別ではUSAがトップであり人数は396名。 2位は韓国で104名、3位が日本で93名、4位が中国で75名。日本は2位の座を韓国に明け渡したことになる。論文数は726件と報告されている。                
(所長  山本 貢平)
ノブ・ヒル(Nob Hill)の急坂からサンフランシスコ湾を望む

 事前にプログラムを確認したところ、米国開催ということで、普段inter-noiseで話を聞く機会の少ない米国の研究機関等に属する人が多いと感じ、その発表を多く聞けることを楽しみに会議に臨んだ。
 私の発表は2件で、いずれも2日目にプログラムされた。1件目は、“Virtual Acoustics Simulations”のセッションにおいて、新しく製作した小型6 chマイクロホンを用いた音響シミュレーションおよび数値解析結果の空間音響シミュレーションについて発表を行った。このセッションは、実質的には欧米で進められている VASTCON(Virtual Acoustic Simulation Technology for Community Noise )プロジェクトのオーガナイズドセッションといえた。VASTCON では、騒音源の発生機構や伝搬過程における音の変化等の全てをコンピュータシミュレーションにより解析し、その結果に基づき Community Noise を可聴化する検討が進められている。 昨年のinter-noise では、コンピュータシミュレーション結果に基づいて航空機騒音を可聴化し、Annoyance を評価する欧州のプロジェクト(COSMA:Community Orientated Solutions to Minimize Aircraft Noise Annoyance)についての発表があり、騒音の聴感評価を行うために、コンピュータシミュレーションに基づく可聴化の重要性が高まって来ていることを実感した。当セッションでは、15 件の発表がプログラムされていたが、伝搬過程のシミュレーションについて、Outdoor Propagation 等のセッションで発表されるような伝搬計算モデルについての発表もあり、非常に興味深かった。また、ドローンの飛行音を音響設計するため、各ローターから発せられる音を流体解析に基づき作成し、実際に飛行した際の音を可聴化する技術も紹介された。可聴化手法はもちろんのこと、ドローンの音について音響設計する動きが出ていることも興味深かった。
 もう1件は、“Airports”のセッションにおいて、航空機騒音の予測に用いるために構築した気象影響に関する補正量のデータベースについて発表した。発表後、FAA (連邦航空局)、Volpe(運輸省ヴォルプ国立運輸システムセンター)、Wyleという航空機騒音の研究において米国を代表する機関の研究者と話をする機会を得ることができた。翌日の“Sound Propagation in the Atmosphere” 等のセッションにおいて、FAA のこれまでの研究についてのレビューや航空機騒音の伝搬実験等について発表があり、前日に話をした研究者が私の研究と非常に関連深い内容を米国で大規模に研究していることを知った。 これらの研究者と知り合えたことが今回の会議参加の最大の成果であった。
 また3日目には“National Academics Cooperative Research Program Projects”というセッションがあり、 米国で現在進められている7件のプロジェクトについて概要報告がなされた。飛行場周辺の建物の遮音特性に関するプロジェクトやヘリコプタ等の予測モデルの構築に関するプロジェクト等、大変興味深いプロジェクトが進められていることを知った。            
(騒音振動研究室  横田 考俊)

会場内に設置されたinter-noise2015 パネル
開会式の模様

 

 私は今回初めて国際会議に参加した。これまで英語で口頭発表したことはなく、また海外に渡航することも初の経験である。その緊張に飛行機恐怖症も加わり、サンフランシスコまで非常に憂鬱な10 時間を過ごすこととなった。いざ異国の地に降り立ってみた感想は「英語しか無い!外国人しかいない!(厳密には私が外国人なのだが)」であり強い高揚感を覚えた。何を当たり前のことをと思うかもしれないが、私にとってはこれまでになく新鮮な非日常が広がっており、初めて海を見た少年の様な目をしていたはずだ。何事も経験する前に怖気づくことはもったいないな、と改めて感じさせられた。
 感動で飛行機と初海外に対する緊張もほぐれ、落ち着いてinter-noiseに臨むことができた。私は2日目午後の“Low Frequency Noise - Impact and control”というセッションにおいて、超低周波音領域に対するANC(Active Noise Control)制御の有効性を実験で確認した結果について報告した。本報告ではヘリコプタが上空を通過する際に発生する20 Hz以下の超低周波音を対象としたが、参加者の「それより高い周波数の音についても検討しているか」という質問に対し、私の未熟な英語力では「まだ検討していない」と返答するのが精一杯だった。おそらく質問の意図はもっと深いところにあったはずで、貴重な議論の機会を逃さないために英語力が重要であることを痛感した。なお、このセッションでは私を含めて3件の発表があったが、1件は水中音響分野、もう1件はカリフォルニアのソーラープラントにおいて、インバータや変圧器から生じる低周波音の影響を調査したという内容であった。“Low frequency”を冠するセッションはこれだけであったが、低周波音関係の発表は他のセッションでもみられた。例えば、航空機が上空を通過する場面を想定した家屋内における低周波音の予測と調査、電子顕微鏡を備える建物において換気設備で生じる超低周波音の調査と対策、船や工場のディーゼルエンジンから生じる低周波音の調査等があった。
 一方、“Active Noise Control”のセッションは約1日半の枠が設けられて計22件の発表があり、制御理論やシミュレーション、制御実験等について多数の研究が盛んに行われている様子が伺えた。また、ポスターセッションでは韓国で営業している高速鉄道のさらなる高速化に向けて運転手の聴取位置におけるANC を実験室実験で試みた結果等が報告されていた。ANC はパッシブな制御と相補的な対策として非常に有効であるが、まだ幅広い分野で活用されるには至らない印象を受ける。生活環境をより良くするために今後さらなる進展が望まれていることはいうまでもなく、私も多少なりその助けになれるよう努めたい。
 余談になるが、今回の旅程で一番苦労したのは“water”であった。レストランではMENU を渡された際に「water?(水?それとも飲み物頼む?)」と聞かれたようだが、全く聞き取れなかった。MENUを開いてみて“はっ”と気付き、冷たい水を運んできた店員に恐縮しながら「コーラ下さい」と伝えることになった。ウェルカムレセプションの時もウェイターに「水下さい」と頼んだはずが、なぜか白ワインを出されてしまった。「海外では水に気をつけろ」という話はよく聞くが、それは生水に限った話ではないようだ。          
(騒音振動研究室  岩永 景一郎)

グレース大聖堂
サンフランシスコ湾のベイブリッジ夜景

 

 

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