1986/4
No.12
1. 海中の騒音問題 2. 鉄道騒音の評価について 3. 通常離着時のヘリコプタ騒音の評価 4. 新世代のオージオメーター−AA-70−
       <技術報告>
 
新世代のオージオメーター
      ―――AA-70―――

リオン(株)医測技術部 藤 岡 秀 樹

1. 概要
 近年、マイクロプロセッサを含んで急速に成熟したディジタル回路技術は、様々な機器の構成方法に変化をもたらしています。CDプレーヤーなどはその象徴的な例と言えます。
 一般にディジタル信号への置き換えによって、
  1. 性能の安定性や再現性が高まり、その限界も明確になる。
  2. 精度を要求される部分を減らすことができるので、調整が簡単になる。
  3. 複雑な機能の実現や変更が容易になる。
  4. 以上の様なことにより、コストの低減が図れる。 などの利点があります。
反面、ワードプロセッサの印字などのように、現状の量子化がその目的に対して必ずしも充分とは言えない例もあります。
 このような情勢の中で、可能な部分をディジタル化しその利点を最大限に生かすとともに、検査結果の画面表示や印刷機能などを備えて、時代の要求に答える万能型オージオメータを開発しました。
写 真 1

 このオージオメータ、AA-70型は、標準聴力検査の他に、自記オージオメトリ、SISI検査、スピーカによる聴力検査など、オージオメータに求められる全機能を持ち、それらをワンタッチで選択できるようになっています。
 最近では、病院の検査室などでもコンピュータを導入して各検査機器とオンラインで接続し、検査結果を一括管理することが多くなっています。
 オージオメータAA-70型は、このようなシステムにもそのまま対応できるように、データー通信機能が強化されています。
 以下はその主な特徴について述べます。

2. ディジタル音圧校正
 オージオメータは、聴覚をさまざまな角度から調べるために必要な、正しい音を発生する装置です。
 従って、出力音圧は周波数ごとに校正して出荷され、その後も定期的に再校正されます。
 AA-70型は各機器の個有の校正値を内部メモリーに記憶する方式で校正されているため、専用の装置を用いてその校正値を書き替えることによって、簡単に再校正できます。また、その手順はすべて外部コントロールできるので、自動校正システムを構築することができます。

3. データ通信機能
 AA-70型は、RS232C回線を2系統持ち、検査データの送受信や、患者織別番号の入力などができます。
 検査結果をコンピュータ等に集積しておき、統計的な処理を行ったり、聴力変動の経過を観察したりするケースが増えています。

4. 標準聴力検査の自動化
 AA-70型は、マイクロプロセッサを搭載することによって、これまでハードウェアだけでは実行が困難であった複雑な機能に対応できるようになりました。被験者用応答ボタンの、on、off、反応の状況によって一定のシーケンスを実行するソフトウェアは、標準聴力検査を自動化することを可能としました。
 標準聴力検査の自動化により、大きな病院など患者の来院が多い施設において、労力の軽減、時間の節約、ができます。
 AA-70型の自動測定プログラムは、オージオロジー学会が推奨している標準聴力検査法の純音による聴力損失値の測定法に準じたシーケンスとなっています。
 この測定法において一周波数あたりの最小可聴域値を得るシーケンスは、以下のようになっています。
 検査音をまず被験者に充分にきこえる強さで聞かせたあと、被験者が全く聞きとれないレベルまで検査音を弱め、そこから5dBづつ音を強くしてゆき、はじめて音を彼験者が確実にきこえた最小のレベルをその回の測定値とし、さらにそのあと音を15〜20dB強くして検査音を急速に域値下まで弱める。この操作を2回くり返して測定値が同じ値であったら、これをその回の聴力損失値として記録し、つぎの周波数の測定にうつる。1回目と2回目の差が5dB以下の差があったときは、もう一度同じ操作を行い、それで得た値が少し前のどちらかの値と等しければ、その値をとる。3回とも値が異なったら、さらに同じ操作をくり返し、検査の回数の過半数で同じ値を得るまで行なう。
 これをフローチャートで示すと図1になります。

図 1

 なお、AA-70型では、測定値が4回とも一致せず聴力損失が得られない時は、測定不能とし、次の周波数の測定にうつります。
 また、125Hzから8000Hzまでの各周波数の最小可聴域値を決めるための検査順序は、以下のようになっています。
 検査は1000Hzより、順を追って、2000Hz、4000Hz、8000Hz、にすすみ、8000Hzが終ると再び1000Hzを測定し、そのあと順を追って500Hz、250 Hz、125Hz、を測定する。1000Hzは2回測定することとなるが、各各の測定値の差が、5dB以内なら測定が信頼できるものとみなして、2回の値のうち低い方の値をとる。その差が10dB以上の場合は、測定結果が不確実であったとみなして、もう一度くり返して検査をする必要がある。ただし2000Hzで差が5dB以内なら、他の周波数は測定しなくてよい。
 このシーケンスをフロチャートで表わすと図2にになります。

図 2

 AA-70型では検査時間の短縮のため「FAST」という機能を選択することができます。これは1000Hz、1500Hz、2000Hzの周波数も他の周波数と同時に最小可聴域値を一回しか測定しません。このフローチャートは、図3に示します。

図 3

 おわりに
 オージオメータの多くの回路のすべてをデジタル化するには、まだ難題が山積していますが、さらに利用者が気軽に使えて便利なもの、人間工学的にも使いやすいものが望まれています。

-先頭へ戻る-