1986/4
No.12
1. 海中の騒音問題 2. 鉄道騒音の評価について 3. 通常離着時のヘリコプタ騒音の評価 4. 新世代のオージオメーター−AA-70−
       
 鉄道騒音の評価について

理事長 五 十 嵐 寿 一

はしがき
鉄道騒音の評価については、昭和50年新幹線鉄道騒音にかかる環境規準が設定され、国鉄当局の技術開発、防音工事等の環境対策の結果沿線の住環境は著しく改善された。最近在来線鉄道についても環境対策を計画することになり、その場合の評価方法をどのようにするかということが問題になっている。在来線の場合は1日の運行回数も地域によって差があり、かつ車両の種類、列車速度にも相違が大きいので、新幹線の場合のように単にピークレベル、Lmaxの平均を評価量にすることでは不十分で、この点について多くの検討がなされてきた。一方、昭和58年、JIS Z 8731“騒音レベル測定方法”の改訂によって、騒音の評価方法として“等価騒音レベル、Leq”が導入され各種騒音を統一的に表現出来るようになった。従って在来線鉄道騒音の評価についても、Leqをはじめ数種類の評価量について社会調査との対応が検討された。ここでは最初に新幹線騒音の評価方法としてLmaxが採用された経緯を述べるとともに、今後の在来線鉄道騒音の評価・対策について考えてみることにする。

新幹線騒音の評価
新幹線騒音の環境規準が議論の対象になったのは、昭和48年航空機騒音の環境規準が設定された後である。当時東海道新幹線については開業后ほぼ10年となり、丁度山陽新幹線が開業した直後で沿線各地で苦情が発生している状況にあった。しかし鉄道騒音については測定データもまたその評価方法についても参考とする文献・資料が少なく、とりあえず東海道・山陽新幹線の各地で測定及び社会調査を実施し、それらの結果をもとに測定評価方法及び基準値が論議された。この頃鉄道騒音のような間欠音についての測定方法としては、旧JIS Z8731“騒音レベル測定方法”があり、これはLmaxと発生回数の組み合わせによるものであった。間欠音としての新幹線騒音については、道路交通騒音のL50のように一つの量を指標とすることで検討が行なわれた。一方、ISO(国際標準化機構)においても騒音測定法の審議が進められており、Leqを間欠音の評価にも適用しているので、新幹線騒音についてもLeqをはじめNNI(英国の航空機騒音指数)WECPNL(航空機騒音に関する環境庁方式ではなく、本来のICAO(国際民間航空機構)の航空機騒音評価指数に基づくもの)等と社会調査の結果との対応が検討された。しかしLeqについては当時まだ馴染みがなく測定器が市販されていないこと、WECPNLについては新幹線騒音が高周波成分が多くスペクトルとして航空機騒音に似ているので指標として妥当であるが、基本となるPNLの測定が複雑で一般の環境測定として適当でないということで、ピークレベル、Lmaxのパワー平均を採用することになった。ただしJISで規定しているように、これに運行回数を含めると単一の評価量とはならないが、新幹線は在来線鉄道と違い速度(約200km/h)車両(種類・長さ)もほぼ同一であり、東海道・山陽については将来を予測しても運行回数はほぼ100〜200程度と考えられるので、運行回数は一応考慮しないでおくことになった。ただ運行速度が通常と異なることもあるので、通過列車のうち20本を測定して上位10本の平均をとることにした。さて基準値の設定にあたっては、社会調査の結果が重視されたが、それ以前に決定された道路交通・航空機騒音にかかる基準との整合性をも考慮された。丁度この頃、米国EPA(環境庁)は騒音に関するレベル、ドキュメントを発行し、望ましい環境の目標値としてLdn(夜間10dB加算したLeq)55dB(A)を提案していた。しかし日本における道路騒音・航空機騒音の環境基準は、行政目標というよりもむしろ規制基準的なものとして受けとられているところが米国との大きな違いであった。

いずれにしても日本の騒音に関する環境基準値は、EPAで提案している目標値とほぼ近い水準であることが確認された。しかし正確には航空機騒音WECPNL70、二車線の道路交通騒音の基準値、L50, 昼間55dB(A)、夕方50dB(A),夜間45dB(A)はEPAのLdn, 55dB(A)より1〜2dB大きくなる。ここで新幹線騒音については、運行回数を上下線合計200,騒音の継続時間を8秒、平均のピークレベルを70dB(A)とすれば、Leq=52.6dB(A)となり、夜間の重みを入れてもLdn, 55dB(A)よりやや小さくなるが、基準値は0または5という数字がよいということで、住居地域Lmaxの平均、70dB(A)、商工業地域75dB(A)とすることになった。なお、東北及び北陸新幹線については、当時まだ計画の段階で将来の需要予測による運行回数が不明であることから特に考慮されることはなかった。しかし現在東北・上越及び山陽新幹線については、それぞれ運行回数が東海道のほぼ1/2であり、(東京と上野、岡山発着の比較で)東北線の仙台以北通過の列車では東海道の1/3になる。従って回数を加味した評価方法では地域によって評価値で約3dBから5dBの違いが生ずることになる。また、20本の上位10本をとることは、下位の10本が測定点と反対側車線の列車の測定値のことが多く、上下線により通常3〜5dBの違いがある。これが5dBの差の時はLmaxとLeqの違いが約2dB, また3dBの差がある場合には約1dBの相違が生ずる。従って新幹線騒音は地域によって等価騒音レベルとして5dB以上の差も生ずることがある。これはさらに航空機騒音のWECPNL70,道路騒音のL50,55dB(A)と比べてみると、新幹線の仙台以北における基準値、Lmax,70dB(A)では最大10dB近い違いにもなるので、新幹線騒音については運行回数を含めた評価方法についても検討が必要であろう。 注:昭和61年3月現在、臨時列車も含めて新幹線の運行回数は、東京発着230,上野発着、東北線120,上越線、95, 山陽線、岡山発着、120,仙台以北、70である。
(時刻表により臨時列車半数を含む)

在来鉄道騒音の評価
新幹線騒音にかかる審議の過程で、新幹線は従来、鉄道のなかった地域を通過し、その地域の人々は在来線鉄道に比べて利用する機会も少ないことから、社会反応は騒音レベルとして5〜10dB違うことが予想されるので、騒音の基準値としては新幹線より5〜10dBレベルが大きい数値を採用出きるのではないかという意見があった。しかし環境評価の指標として、日常生活に対する障害を重視する意味から騒音による会話妨害を反応の指標として用いる以上、もっと調査した上で考慮する必要があるということで将来の調査を待つことになった。その后、在来線鉄道騒音の評価法を検討するに当たり、民鉄をはじめ各種の鉄道の運行条件とその際の周辺の騒音が詳細に調査された。それと同時に社会調査も実施され、各種騒音評価量と住民反応の関係について検討が行なわれた。 評価量としては、LmaxをはじめLdn, WECPNL, またLmaxに回数,Nの対数を組み合わせた指標(Lmax+k log N)の係数kについての検討がなされた。この場合係数kについては近似的なエネルギー則による10及び5、(10 log N, 5 log N)また継続時間についてはエネルギー的に加算したLeqと、簡単のため継続時間の長い貨物列車については運行回数に振り替えて実際の回数の2倍、10 log(N1+2N2)とすることも検討されている。(ここでN1は旅客列車N2は貨物列車の運行回数である)しかし報告によればどの評価量を社会反応に対応させても大きな差異はないという結果が得られている。これは社会反応自身、これらの評価量の差を区別できないのか、さらに測定数を多くする必要があるのか検討を要する問題である。なお、WECPNLについては本来のICAOのWECPNLではなく、航空機騒音に関する環境庁方式について検討が行なわれているが、この方式は本質的には夕方の運行回数を3倍、夜間の回数を10倍にし、かつ継続時間を一定の10秒にした近似的なLdnに外ならない。

 ただ在来線鉄道については、新幹線と異なりレールに継ぎ目があって衝撃的な音を発生することと、車輪の変形によって生じたフラット音が重要な騒音インパクトになっていて、これに対する評価も必要であろう。何れにしても在来線鉄道の騒音対策については、音源対策としての上記継ぎ目音とフラット音の対策と、従来新幹線騒音対策として開発された新しい技術の応用によって対処することが必要であろう。このためには土地利用を含めた周辺対策も場合によっては必要であるが、外国で実施しているように列車種類別の発生騒音については、排出基準を設けて規制することが必要であると考える。

 このほか軌道構造の改良、遮音塀等も対策上重要であるが、これらは地域毎に考慮されるべきで、音源対策と共にその技術資料はここ10数年間の新幹線鉄道騒音対策において開発され、技術的可能性も確認されているので後は経済的な問題であろう。また土地利用については、鉄道ばかりではなく、空港周辺、道路沿線についても防音工事・土地の買い上げ等の障害防止対策ばかりでなく法規制の確立が必要で、これは環境基準設定に当たっての最大の課題の一つであったが未だ解決されていない。在来線鉄道騒音の基準については、新幹線の基準と著しく異なることは望ましくないにしても、一般に在来線の歴史は古く、今後新線を建設する場合は別として、基準を設定するとしてもこれを直ちに規制値として運用すると問題が複雑になり、実行が困難になる恐れがある。

 米国で行なわれているように、一方では排出基準を設定し、環境対策としては目標値よりも5〜10dB大きい値を許容限界として対策を進めることが実際的ではなかろうか。この場合も技術的・経済的可能性を十分検討することをしないと、達成目標が明確にならないことに注意する必要がある 。

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