2013/1
No.119
1. 巻頭言 2. The 9th ISAIA 3. タッピングマシン 4. 第38回ピエゾサロン
  5. リオネット マジェスシリーズ

     第38回ピエゾサロン
 「スマートマテリアルの現状と応用」 George Akhras

主任研究員   深 田 栄 一

Dr. George Akhras
(Professor of Civil/Mechanical Engineering, Director, Centre for Smart Materials and Structures, Royal Military College of Canada)

 平成24年8月3日に小林理学研究所で第38回ピエゾサロンが開催された。Royal Military College of CanadaのProf. George Akhrasが「Smart Materials, Structures and Systems: State of the Art and Applications」と題して講演された。

 スマート物質や構造の研究は、人体の筋肉や神経の機能を再現する物質や構造を作りたいという願望から始まった。生体系に備わる完全な機能性を、適応能力と総合設計を駆使して非生体系に実現したいという希望である。

 既存の物質や構造にスマートネスを導入することは、土木、航空、機械、電気のあらゆる工業分野に大きな進歩をもたらす。センサー、アクチュエーター、コントロールの成分が総合的に統合されれば、その系はスマートになる。スマート系は新しい科学技術研究の最前線に位置している。

 受動的な系から、フィードバック機能を持つ能動的な系に進み、刺激に適応する能力を持つ適応系から更に進んで、スマート系は、センサー、アクチュエーター、フィードバックの機能を合わせて持ち、予想と適応の能力を持つ系である。

 生体の機能に対比すると、データ収集(触覚)、データ伝達(感覚神経)、コントロール機能(脳)、データ指示(運動神経)、制御デバイス(筋肉)を総合的に具備した系である。

 スマート物質の例を挙げると、圧電材料、磁歪材料、電歪材料、磁気レオロジー液体、電気レオロジー液体、形状記憶合金、形状記憶高分子などがある。

G.Akhras, Canadian Military Journal, Vol.1. No.3. p.25-31 2000.

図1 橋梁の振動制御のために、多くのアクチュエーター、センサー、フィードバックを組み合わせスマートネスを実現している
図2 航空機の機体では、翼、エンジン、キャビン、などあらゆる場所で、振動、騒音の最高度の制御が行われている

 成功した例をあげると、運動用品での振動制御、自動車の騒音減衰、反射音制御、スマートスキン、スマート建築や橋梁があげられる。

 スマートネス工学には多数の専門分野の統合が必要である。物理、化学、物性、計算、電気などの基礎科学と並んで、機械、航空、土木などの応用の科学技術が関与する。これが、理論モデルの計算や材料物性の進歩にもかかわらず、スマート工学の発展が遅い理由であるかもしれない。

 Akhras教授はCenter for Smart Materials and Structuresの所長を兼務し、Cansmart 国際会議を毎年カナダで主催しておられる。

 スマート物質系の一例として、小林理研とRMCの共同研究 [Damping Control of Multilayer PZT for Negative Impedance Circuits] を述べる。図4は、金属板に圧電素子PZTセラミック積層子を接着し、PZTからの励振を止めたときの、金属板の減衰振動を見る装置を示す。PZTに結合した負性容量回路の中の可変抵抗(R1/R2)を操作すると、金属板の減衰振動を自由にコントロールすることができる。
図3 耐震設計の建築物。磁気レオロジー液体を用いるピストンダンパーが高層建築の地震対策として用いられている
図4 圧電セラミックPZTをスマート化するため、可変抵抗R1/R2を含む負性容量回路を結合する

図5 PZTに接着された金属板の振動減衰の振動数及び減衰率が制御できる。振動数はPZTの弾性率の二乗に比例し、減衰率はPZTの粘性率に比例する

 図5では、可変抵抗を変えることによって、金属板の振動数が大きく減少し、減衰率が大きく増加することが見える。振動数の二乗はPZTの弾性率に、減衰率はPZTの粘性率に比例する。したがって、負性容量回路の結合によって、圧電セラミックPZTの弾性と粘性を自由に制御できることを示している。言い換えると、PZTと回路の結合によって、振動伝達の遮断あるいは任意の減衰が達成できる。PZTがスマート化されたといえる。

 

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