2013/1
No.119
1. 巻頭言 2. The 9th ISAIA 3. タッピングマシン 4. 第38回ピエゾサロン
  5. リオネット マジェスシリーズ

      <会議報告>
 The 9th ISAIA in Gwang-Ju, Korea

騒音振動研究室  平 尾 善 裕

 第9回アジアの建築交流国際シンポジウム(The International Symposium on Architectural Interchanges in Asia(ISAIA))は、2012年10月22日から25日までの日程で、大韓民国・光州市にある金大中国際会議場において開催された。光州市は、韓国南西部に位置し、現在は全羅南道(我が国の都道府県に相当)からは独立した日本でいえば政令指定都市に似た自治体(広域市)とのことである。伝統的な建築物が多く残る韓国の代表的な文化・観光都市であり、訪れたときは30ヶ国以上の芸術家が参加して2か月間にわたり開催されている国際アートフェスティバル、光州ビエンナーレの期間中であった。そのせいもあってか、街ではアジア以外の国々からの観光客も見受けられ、京都や奈良のような街の雰囲気にも見えた。気候は同時期の日本とほぼ同じで、韓国版「芸術の秋」といった佇まいの中での会議開催であった。

 会場となった金大中国際会議場は、2000年に当時の金大中第15代大統領がノーベル平和賞を受賞したことを記念して建設が提案され、2005年にオープンした展示会や会議を行うための大規模な施設であった。メインホール前には、ノーベル平和賞を記念した碑が作られているほか、館内には、金大中元大統領の功績を讃える展示が常設されていた(写真1)。我が国にも関係の深い人物であり、韓国を代表する国際的な政治家として、今も地元である全羅南道の人々の誇りとなっているようであった。

写真1  第9回アジアの建築交流国際シンポジウムの会場となった金大中国際会議場(韓国・光州市)

 話を会議に移すとして、ISAIAは、1986年に日本建築学会の創立100周年を記念して、当時の欧米一辺倒になりがちな状況からアジアに目を向けるという趣旨のもと、福岡、京都、東京の3都市をリレーしながら開催されたのが始まりという。第2回(1998年)以降は、記念行事ではなく、日中韓の建築学会が共催となり、3か国の持ち回りにより、隔年での開催が行われている。

 第9回となった今回は“Technological Advancements in Architecture”をメインテーマとして、3名の方による基調講演会と4つの特別講演会、7つの分科会テーマに基づいた研究発表会があった。会議のメインは23日と24日の2日間で、23日にはオープニングセレモニーにおいて、日中韓のそれぞれの建築学会会長の挨拶があり、アジアの建築における交流の重要性、本シンポジウムの意義を強調されていた。また、日本建築学会の和田章会長より、一昨年の東日本大震災に対するアジア各国の援助に対してお礼が述べられ、会場から大きな拍手が送られていた。基調講演会では、韓国、中国、日本からそれぞれ1名の講演があった。韓国からは“The Space Open”と題して、中央(Chung-Ang)大学のIn-Cheurl Kim教授が韓国国内のみならず、カンボジアやネパールなどで手掛けられた建築設計についての講演があった。中国からは、清華(Tsinghua)大学のZhang Li教授が“Soft Sustainability”と題して、中国の伝統的な建物や風景と近代的な建物を融合させる設計方法について、実例を挙げながら紹介された。最後に、日建設計の小堀徹氏から“TOKYO SKYTREE Challenge to design the tallest structure in the world”についての講演があった。ご存じのように限られたスペースに世界一のタワーを建設するための構造上の様々な挑戦が紹介された。まさにタイムリーな話題であった。

 特別講演会では、“Technologies in Architectural Design”,“IT & Automation in Construction Engineering”,“Zero Energy Building”,“Construction System for Next Generation”の4つのテーマについて、韓国から4名、日本から4名、中国から2名、台湾とノルウェーからそれぞれ1名の合計12名の講演があり、その後、司会者、講演者とパネリストによる活発な討論が行われた。その中では、建築の分野においても様々な場面でのIT技術やロボット技術の導入による効率化、省エネやリサイクルに関する新たな取り組みが紹介された。コストの面から課題はあるようだが、我々が直接目にすることの無いところで技術開発が試みられていることなど、興味深い内容であった。

 

 

表1  Academic Sessionにおける国別講演数

Academic
Session
Poster
Session
Student
Exhibition
中 国
39
4
10
日 本
164
11
12
韓 国
95
29
46
その他アジア諸国
11
-
-
北 米
2
-
-
合 計
311
44
68

 24日は、Academic SessionとPoster Displayで、311件の口頭発表と44件のポスター展示を1日でこなすという過密スケジュールであった。その他、Student Exhibitionでは、卒業研究に関する68件の展示があった(表1)。Academic Sessionでは“Architectural Planning and Design”, “Architectural History and Theory”,“Urban Planning and Design”,“Environmental Technologies”,“Structural Engineering”,“Building Materials”,“Construction Engineering and Management”の7つのテーマごとに、10の会場で午前中に2枠、午後に2枠のセッションが同時進行した。テーマからも分かるように、壮大な都市計画に関する内容から狭小住宅の居住空間に関するもの、建築における歴史に至るまで、幅広い分野に亘っている。また、どんなに頑張っても、30件程度の講演を聞くのが精一杯で、主に聴講した“Environmental Technologies”分科会での発表では、自然の風を取り入れた空間作りや、IT技術、バイオマス技術を用いた省エネ設計など、エネルギー問題が深刻化する我が国と同様にアジア諸国においても、重要な課題となっていることが伺えた。ちなみに現在、私が関わりを持っている「音」あるいは「振動」を含む講演タイトルは皆無であった。

 さて、私のことに触れておくと、“Environmental Technologies”のセッションにおいて、IT技術を利用した無線振動計測システムの開発と、それを用いた戸建て住宅における建設作業振動と道路交通振動を対象とした環境振動測定事例を紹介した。アジア諸国においても我が国同様にIT技術の普及が進んでいることもあり、計測システムの優位性を理解して頂けたと認識している。ただし、地震由来の建物の振動ではなく、人工的な振動源に由来する振動に関すること、また、建物の被害に関することではなく、居住空間における人への心理的な影響(不快感や煩わしさ)に関することについて、建築分野においては、あまり理解が進んでいるとはいえないようであった。その意味では、ISOと日本建築学会による建物振動の評価方法を紹介できたことは有意義であったと考える。講演後の休憩時間に韓国の若手技術者数名から「AIJES-V001-2004:建築物の振動に関する居住性能評価指針」についての質問を受け、小規模の建物のみならず、風による超高層ビルの揺れを評価する方法についても言及すると、興味を持ってくれた様子であった。また、私の講演スライドに度々登場する「“Tri-axial piezoelectric accelerometer”とはどんなものですか」という質問もあった。ここぞとばかりに、用意していた振動レベル計の英文カタログを見せながら説明をしたが、一向に納得してもらえない。よくよく聞くと「“piezoelectric”とはなんですか」という質問のようであった。「力が加わると発電するセラミックスです」と答えると、「そんな魔法のような焼き物があるのですか」と言わんばかりである。当研究所の一員として「それに関する知識は、羽田を出るときに置いてきました」というわけにもいかず、「PZTのPは鉛で、Zはジルコン酸、英語では・・(正確にはlead (Pb) zirconate titanate)」と日本語で呟いていると、「日本語分かりますよ」と声を掛けられた。アニメや漫画で日本語を覚えたそうで、まさに「日本のサブカル恐るべし」である。それからは、英語交じりの怪しげな日本語での会話となり、ポケットから取り出した電子ライターを見せながら、電源のいらない着火装置に使われていることを話すと、なんとか理解をしてもらえた。ヘビースモーカーも時には役に立つことがある。「建築材料として使えますか」と聞かれて、発電床なるものを思い出したが、どう答えてよいか苦慮してしまった。もしも韓国で発電する家が出来上がったとしても、私には情報漏洩の責任はないと考えるがいかがだろうか。

 次回のISAIAは、2014年に中国建築学会が主催となり、開催されることが発表された。

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