2012/4
No.116
1. 巻頭言 2. 折り紙インパルス音源の音響特性 3. ホイッスル 4. 第37回ピエゾサロン
  5. 強震計測装置(SM-28)

    <研究紹介>
 折り紙インパルス音源の音響特性           

建築音響研究室   豊 田 恵 美

1. はじめに
 建築音響測定では、音源としてスピーカを用いるのが一般的であるが、従来から、簡便な点音源として、ピストル発火音や風船の破裂音なども用いられてきた。特に現場における残響時間や音声伝送などの測定では、スピーカ等の大がかりな機材を用いずに、より手軽に、短時間でインパルス応答を測定したいというニーズも少なくない。本研究では、折り紙のおもちゃにヒントを得て、従来の簡易音源と比較して低い周波数特性及び再現性を改善した「折り紙インパルス音源」を開発した。ここでは、開発の過程や音響特性について簡単に紹介する。

2. 折り紙インパルス音源の考案
 図1に示す“紙鉄砲”は、新聞紙やチラシなどの長方形の用紙一枚で簡単に作製することができる折り紙である。片手で振り下ろすことにより、大きな衝撃音を発生することができる。これにより発生させた衝撃音を無響室内で計測した音圧波形の例を図2に示す。インパルスが短い時間間隔で二回生じているのは、内側に折り込まれた二つの袋がそれぞれ開くことにより、 個に衝撃音を発生しているためである。これを、単一のインパルスを発生することができるように、内袋を一つに改良した音源(図3)を折り紙インパルス音源と呼ぶこととした。紙製のため、材料は安価かつ軽量で、持ち運びが容易である。耐久性を向上させるために、ポリプロピレンフィルムの粘着テープで部分的にコーティングするなどの工夫を施すことにより、100回程度まで、繰り返し使用が可能である。


図1 紙鉄砲


図2 音圧波形の一例

図3 折り紙インパルス音源

表1 折り紙インパルス音源の寸法

サイズ (mm)
作製用紙の寸法 (mm)
Type S
X = 297, Y = 210
594×210
Type M
X = 427, Y = 302
854×302
Type L
X = 546, Y = 386
1091×394

3. 音響特性に関する検討
(1) 音響エネルギーレベル (LJ )
 折り紙インパルス音源については、製作に用いる紙の大きさを変化させた3条件(表1参照)、従来の簡易音源としては、風船破裂音とクラッカー(薬量0.013 g)を対象とし、音響エネルギーレベル(LJ )を測定した。図4〜6に、5回の測定における LJ の平均値を標準偏差と併せて示す。図4に示す折り紙インパルス音源については、音源のサイズが大きくなるほどLJ は大きくなり、音源のサイズを考慮することにより、ある程度音響出力を変化させることが可能である。また、どのサイズについても比較的高い再現性が得られている。図5に示す風船破裂音は、125 Hz以上の帯域では比較的平坦な周波数特性を示すが、高周波数帯域において折り紙インパルス音源と比較すると再現性が低い。図6に示すクラッカーについては、低中音域で音響出力が低く、また全帯域において再現性が低い。以上の結果より、従来音源と比較して折り紙インパルス音源は再現性が高く、Type Lについては低音域においても80 dB以上の高いレベルを有していることから、簡易音源としては十分な音響出力であると考えられる。


図4 折り紙インパルス音源のLJ


図5 風船破裂音のLJ

図6 クラッカーのLJ

(2) 指向特性
 折り紙インパルス音源(Type M)、風船破裂音、クラッカーを対象とし、音源中心から半径1.5 mの水平円上に15度おきに受音点を24点設定し、無響室において指向特性を測定した。折り紙インパルス音源の測定の際は、鳴らし手の正面方向を0度とし、袋が開く位置を音源中心とした。また風船は、90度方向から針を刺して破裂させることとし、クラッカーは上方向にむけて鳴らすこととした。図7に、各測定点で得られた最大音圧レベル(LFmax)を0度点の値で基準化して示す。折り紙インパルス音源は、低音域においては左右方向の音圧レベルが低い傾向がみられるが、中音域以上では特に大きく偏った指向性はみられない。風船については、低中音域では針を刺した方向に向かって指向性が大きく偏る傾向がみられる。クラッカーについてはどの周波数帯域においてもほぼ全指向性音源とみなせる。

図7 指向特性

4. まとめ
 考案した折り紙インパルス音源は、従来の簡易音源と比較して十分な音響出力を有しており、再現性が高いこと、また中音域以上では偏りが小さい指向特性であることを示した。これまで、残響時間測定や遮音測定の簡易音源として応用した測定方法に関する検討をおこない、その有効性を確認している[1-2]

[参考文献]
[1] Emi Toyoda et. al, “Characteristics of “Origami impulse source””, Proc. Inter-noise 2009, (CD-ROM), (2009. 8)
[2] Emi Toyoda et. al, “Field survey method using Origami impulse source for sound insulation measurements”, Proc. Inter-noise 2011, (CD-ROM), (2011. 9)

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