2012/7
No.117
1. 巻頭言 2. 連続加振が可能な小走り模擬衝撃源の試作 3. メ ガ ホ ン 4. おしらせらんぷ(BA-05)
   

 
  線路の行く先            

騒音振動研究室   廣 江 正 明

 「汽笛一聲新橋を〜♪はや我汽車は離れたり〜♪愛宕の山に入りのこる〜♪月を旅路の友として〜♪…」 。言わずと知れた「鐵道唱歌・第壹集 東海道」(明治33年出版)の最初のフレーズである。汽笛を合図に新橋駅を出発し、愛宕の山に沈みゆく月とともに西に向かって力強く走る蒸気機関車の情景が目に浮かぶ。もちろん、私自身、新橋駅からSLに揺られて旅をした経験がある訳ではないが、何とも言えず懐かしく、こうした旅をしてみたい、こんな風景を見てみたい(SLの汽笛や走る音も聞いてみたい)という気持ちが自然と湧いてくる。おそらく、鉄道が開通した当初は、SLの走る姿は日本の文明開化を象徴する存在であり、きっとその音も良い響きと感じていたであろう。だが、現在の大都市圏の鉄道のように、1日に400本〜800本近い本数の電車が走るようになると、その走行音はもはや良い響きなどではなく「騒音」と感じられるようになった。いまや鉄道騒音は道路交通騒音、航空機騒音と並ぶ交通騒音の一つと位置付けられている。

 1872年(明治5年)の鉄道開通以降、鉄道レールの上を鉄製車輪が転がるという基本的な走行システムは同じであるが、時速100 km/hに満たないスピードの蒸気機関車から最高速度160 km/hの特急電車や300 km/hの新幹線電車へ、鉄道はその走行速度を大幅に向上させてきた(2013年度末には、JR東日本、東京〜盛岡間の新幹線区間で最高速度320 km/hでの営業運転が開始される予定)。その中でも夢の超特急・新幹線電車の速度向上は目覚ましいものがあった。当時、すでに輸送力が限界に達していた東海道本線の混雑解消の根本的対策として開発された新幹線は、その後の幹線鉄道の大幅な輸送力増強に大いに役立ったが、同時に新たな鉄道騒音の問題を引き起す要因ともなった。私が小林理学研究所に入所したのは、ちょうど最初の「のぞみ新幹線」300系が導入され、営業最高速度が220 km/hから270 km/hにスピードアップした頃で、それ以来、約20年間、新幹線鉄道や在来鉄道からの騒音を対象に、車両音源の探査、沿線騒音の予測や対策の研究業務に携わってきた。

 そして、更に約20年の後。日本の高速鉄道は超電導磁気浮上方式による中央新幹線の登場によって大きく変化しているだろう。中央新幹線は東京都・大阪市の間を結ぶ新幹線の整備計画路線で、昨年5月27日に国土交通大臣からJR東海に対して建設の指示がなされ、現在、東京都・名古屋市間の2027年営業開始を目指して計画が進められている。この超電導磁気浮上方式は、車輪による車両の支持(浮上)とレールに沿った移動(案内)の機能を電磁力で、車輪の回転による推進・制御の機能をリニアモーターで代替することによって、非接触による高速性と保守作業の劇的な軽減、より自由度の高い路線設計を可能とした鉄道システムと言われている。さて、従来の新幹線鉄道や在来鉄道に中央新幹線を加えた『鉄道』からの騒音を対象に、つぎの20年をどのように進んでいるだろうか。

 

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