2012/4
No.116
1. 巻頭言 2. 折り紙インパルス音源の音響特性 3. ホイッスル 4. 第37回ピエゾサロン
  5. 強震計測装置(SM-28)

 
  情報提供型の音環境対策            

所 長   山 本 貢 平

 人の健康と生活の質を保全するための騒音規制は、20世紀半ばから世界各国で個々に行われてきました。今世紀に入ると欧州連合(EU)は、環境騒音に関して包括的な政策を策定し、2002年には加盟国を拘束するヨーロッパ指令として発行させました。これによりEU加盟国(現27か国)は、統一した騒音指標とアセス手法を用いて主要道路、主要空港、主要鉄道に近接する人口密集地域について現在と将来の騒音地図を作成して評価し、騒音対策を実施するための行動計画を策定することが義務づけられました。さらに、交通機関や機器・設備について個別に騒音排出 (emission)の制限を設け、またその騒音排出量の表示等を求めることにより生産事業者や消費者の協力を得て、より良い音環境の創出を図ろうとしています。

 この動きは遠いヨーロッパの出来事だから我が国には無関係かといえば決してそうではありません。輸出立国である我が国にとって、自動車や鉄道などの輸送機関、建設・産業用設備機械、一般消費者用機器などは重要な輸出品目であり、EUの制限等に適合しなければ輸出ができないからです。つまり、ヨーロッパ域内に環境を保全するための政策が発行した結 、いわば貿易上の非関税障壁がそこに形成されたことになります。逆に規制のある自動車など一部の機器を除けば、安価ではあるが騒音の高い製品が、我が国に自由に輸入されてしまうことになります。

 我が国では、昭和43年(1968年)以降、騒音規制法の制定や環境基準の設定が行われ、その結果、騒音対策がかなり進みました。激甚と言われた騒音は、現在ではかなり減少しています。それにも拘らず環境省から発表される環境白書には、騒音苦情というものが大きく減少した形跡はありません。また、騒音トラブルによる公害調停なども減少してはいません。では今後、新たな規制導入を図れるかというと、規制緩和の時代には簡単ではなさそうです。

 EU指令が採用した騒音政策には、規制的手法の他に情報提供型手法と呼ばれるものがあります。これは騒音発生量を設備機器表面や説明書にラベルなどで表示して、購買者に騒音情報の提供を行う方法です。これにより、利用者はその情報を使って機器を選定し、設置のための設計を行い、操作時の騒音の程度をあらかじめ知ることができるようになります。この情報提供型の手法は、屋内で使用するオフィスIT関連機器(PC,コピー機など)、一般家庭の家事用器具(掃除機など)、家庭用電動工具、空調・暖房器具などにも応用できます。屋外だけでなくオフィスや家庭内の音環境の改善に役立てることができます。情報提供型手法は市場力(Market Force)に依存した騒音対策といえます。ただし、その効果が現れない場合は、騒音発生量に規制を設けることや、売買についての優遇措置などが必要になるでしょう。しかし、情報がなかったために利用者が騒音の加害者になることは防止できるとはいえそうです。

 

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