2011/7
No.113
1. 巻頭言 2. WIND TURBINE NOISE 2011 3. 手廻しサイレン 4. 第36回ピエゾサロン
  5. 精密騒音計NL-52 / 普通騒音計NL-42

    <会議報告>
 WIND TURBINE NOISE 2011


騒音振動研究室  落 合 博 明

 4月11日〜14日の4日間にわたりローマで開催された風車騒音の国際会議“WIND TURBINE NOISE 2011”に参加した。この会議は2005年から隔年毎に開催されており、今回は第4回目の会議となる。
 会議の開催にあたり、今回の会議のChairmanであるLeventhall氏から日本側の実行委員でもある放送大学の山田先生に発表依頼があり、2件の発表をすることとなった。当初、会議の事務局では、前回会議の実績から、発表件数は50件程度と予測していたようであるが、蓋を開けてみると申込み件数が100件を超え、発表件数を絞り込まねばならなくなった。アブストラクトをもとに絞り込みを行ったが、それでも絞り込みきれずに、当初の開催期間を半日増やすことで、70件余りの発表に対応することとなったとのことである。
 出発に際しては、東日本大震災に伴う原発事故の直後しばらくは、各航空会社が関空発着となっていたため、なかなか予定が決まらず出発までハラハラドキドキであった。その後、出発の1週間ほど前になって成田発着となりホッとしたのもつかの間、出発の前々日に帰国便が突然フライトキャンセルとなり、急遽前日発の便に変更した。ローマの滞在中に突然フライトがキャンセルにならなくてよかったと、胸をなでおろした次第である。
 会議は、ローマ大学にほど近いNational Research Council of Italy (国立研究評議会;CNR)の小会議室にて開催された。

写真1 発表会場(National Research Council of Italy)

 今回の会議には、25ヶ国から199名が参加した。INCE-Europeが主催ということもあり、ヨーロッパからは14ヶ国が参加した。国別の参加人数は、英国35名、ドイツ25名、イタリア25名、アメリカ20名の順となっている。日本からの参加者は、山田(放送大)、塩田(芝浦工大)、井上(INC)、今泉(産総研)、長谷部(北大)、大村(環境省)、鈴木(風力エネルギー研究所)、落合の8名である。
 開会に先立ち、東関東大震災の被災者に黙祷が捧げられた。震災関連のニュースは現地のテレビでも連日トップニュースで取り上げられており、関心が高かった。
 開会挨拶に引き続き発表が行われた。セッションと発表件数は以下のとおりである。
1) 伝搬と予測  
;  7件   6) 振幅変調  
;  7件
2) 規格  
;  5件   7) 感知と影響  
; 12件
3) 長期間計測  
;  5件   8) 規制、指針、計画必要条件  
;  7件
4) 評価  
;  3件   9) 騒音の発生  
;  9件
5) 低周波騒音  
;  9件  10) 振動 ;  5件

 発表は一つの会場で行われた。発表者の持ち時間は交代も含めて15分で、各セッションの最後に発表者全員が壇上に上がり30分程度の討論が行われた。
 我が国からは、今泉氏と落合が平成21年度の環境省調査結果(INCE/J平成22年秋季研究発表会にて発表した内容)について発表した。
 以下に発表のいくつかを紹介する。
 各国の規制・基準に関しては、これまでに調べた内容から基本的には大きくは変わっておらず、評価指標・規制値等は国によってまちまちである。このほど、オランダでは風車騒音のガイドラインが改訂され、M. van den Berg(オランダ)より報告があった。新たなガイドラインでは、評価値がLeqから年間のLdnに、風速の測定 置が従来の高さ10m点からナセル高さに変更された。
 伝搬に関する発表では、Johansson他(スウェーデン)は、森林地域の風車音の伝搬について報告した。スピーカによる測定結果をもとに、植林密度・幹の直径・森の中の湿度等を入力条件に含めた予測式を作成して予測計算を行い、実測調査結果と比較したところ、比較的よい対応を示したとしている。
 測定に関する発表では、長期間測定に関する発表が多かった。Dijkstra他(オランダ)は、風車騒音の長期間測定にあたり、雨等による影響を軽減するための測定装置を開発した。測定装置では、斜めに傾けた面の上にマイクロホンを設置し、マイクロホンには二次防風スクリーンを設置している。
 Bigot他(フランス)は、風車音の長期間測定をするにあたり、安定したデータを得るための測定期間について検討している。それによると、ある風速における安定した環境音データ・暗騒音データを得るためには、夜間のみの測定で最低10日間程度、5種類の風速について安定した騒音データを得るためには、最低でも20日間程度は必要であるとしている。
 Teague他(オーストラリア)は、ウインドファームの開発における騒音の予測、検証、評価、適合について、検討している。オーストラリアでは暗騒音(LA90)+5dBを基準としているが、暗騒音の測定に際し、風速とLA90の関係を得るのに、10分間値で少なくとも2000データは必要としている。この他、住宅側測定点は住宅等の反射面から5 m以上離れること、マイクロホン高さは地上1.2〜1.5 mとすること、住宅側測定点における測定で5 m/s以上の風が観測される場合は特別な防風スクリーンが必要なことなどを述べている。また、風車設置後の測定では、暗騒音との違いを明確にするため、風車近傍点(<300 m)での風車をON/OFFさせての測定を薦めている。
 低周波音に関しては、Turnbull他(オーストラリア)は、風による影響を避けるため、地中に掘った幅50 cm,深さ50 cmの穴の中にマイクロホンを設置して風車からの超低周波音を測定した。測定の結果、穴の中と地表面上で観測された超低周波音の音圧レベルに差はなく、風車から発生する超低周波音は感覚閾値(85 dB(G))よりも十分小さかったとしている。
 振幅変調に関してもいくつかの報告があり、Napoli(フィンランド)は、風車騒音の長距離伝搬における振幅変調の事例を紹介した。
 予測、影響に関する発表では、Hessler(アメリカ)は、既存の風車の測定結果と、家屋内外音圧レベルの測定結果をもとに、受音側の家屋内外で観測される風車音の大きさを予測し、風車音による影響について検討した。評価にあたり、感覚閾値、時田・中村による優先感覚実験結果や犬飼による不快度の実験結果を用いている。
 F. van den Berg(オランダ)は、Bowdler とLeventhallにより編集された風車騒音に関する本から、風車騒音による住宅側での健康影響に関する概論を発表した。このなかで、風車騒音は他の騒音に比べて低いレベルでアノイアンスが生じているが、この原因の一つとして振幅変調による音圧レベルの変動が考えられること、静かな環境の地域では夜間の睡眠妨害が問題であることなどが報告された。また、単一風車に関する測定結 をもとに、風車から100mの距離においても20Hz以下の測定値は感覚閾値より25dB以上低く、超低周波音による影響はないとしている。この他、内臓振動前庭疾患 (VVVD)や振動音響病(VAD)についてもコメントしている。
 風車音の発生源に関しては、我が国で問題となっている風車のようなナセルからという話はなく、翼の先端やタワー周りからの話が多かった。風車騒音の発生源としてナセルはもう解決済みで、現在の課題は翼先端から発生する“Swish音”やそれに関連した騒音であるとの印象を受けた。

写真2 懇親会会場となったMusei Capitolini

 懇親会は2日目の発表終了日に開催された。Capitolini博物館を一般公開終了後に学会の貸し切りで1時間ほど見学をした後、博物館屋上のレストランでビュッフェスタイルの夕食をとった。古代の彫刻や絵画には感嘆したが、会議の疲れもあって、館内の階段の上り下りにはいささか閉口した。しかし、自身の発表も終わったあとだったので、冷えた白ワインを飲みながら屋上からローマのすばらしい夜景を見たとき、それまでの疲れが一気に吹き飛んだようであった。

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